第7話 ある報告書
リリィ君の失踪から1週間が経った。
未だに彼女は見つかっていない。
僕も彼女を探しに出たがただの学生でしかない自分に出来ることなど無いに等しい。
選ばれたものだと勘違いしていたかつての自分が滑稽で仕方ない。
聞いた話だと最初の1週間で幾つかの地下組織などが壊滅したらしい。
彼女がこいつらに攫われた可能性を考慮しての事らしいが壊滅にまで持っていく辺りレム家が只の平民では無かったことが理解できた。
それ程までに必死に探しているのだ。
1週間もすれば生存の可能性が絶望視される動きもあった。
大きな池などをさらっている人々を見た時、改めて自分のした事の重大さを痛感した。
現場には彼女の母親と思しき女性が来ていて震えながら手を合わせていた。
その姿があまりにも痛々しく、その日は食事が喉を通らなかった。
ちょっとしたいたずらのつもりだった。
それが今、多くの人を傷つけている。
もう、いたずらでは済まされない。
幸か不幸か。
市内にある全ての池をさらってもリリィ君の遺体が発見される様なことは無かった。
あれから母上はほとんど口をきいてくれなかった。
よく怒る人だったがきちんと謝れば許してくれる人だったのでどれだけ怒っているかがよくわかった。
ある日、母上が書類を見ながら涙ぐんでいるのを見つけた。
おおよそ貴族らしくない振る舞いが多い豪胆な女性だ。
その母上が涙を見せたのは衝撃的だった。
あの書類に一体何が記されているというのだろうか。
母上がその場を去ってからこっそりとその書類をのぞき見するとそれはリリィ君に関する身辺調査の報告書であった。
そこには前の学校を転校した理由が書かれていた。
どうもリリィ君が男子学生達によって人気のないトイレの個室に長時間閉じ込められるという事件が起きたようだ。
それから彼女は学校には行っておらず、しばらくして学校を転校した。
彼女をいじめた上級生に姉のケイト君と妹のアリス君が報復を行い、二人は停学。
リリィ君と一緒に転校してきたという事だ。
もしかしていつも3人でトイレに行っていたのはそれのせいか?
彼女がトイレに嫌な思い出があるからそれを心配して?
「どうだ。その報告書の意味、理解できているか?」
気づけば母上が腕を組んで此方を睨んでいた。
「彼女は……男子生徒からいじめにあったんですね。だから男が怖かった……」
母上は嘆息。
その表情には失望の色が見て取れた。
「まあ、今の手前じゃそれが限界か……勉強は出来るがあんま賢くねぇな」
「どういうことですか?」
「その答えについてはいずれわかるかもしれねぇし、一生分からないかもしれねぇ。だがそうだな……ひとつ言っておく。そこに書かれていることについては彼女と関わっていく上で基本的に『触れるな』。下手な真似をすれば本気で取り返しがつかなくなる」
取り返しがつかなくなる?
それは一体どういう事だろうか。
「いいか。あたしの予想が正しければあの子はお前が想像しているよりも遥かに重いものを背負ってるはずだ。それは忘れるな。そしてもし、その部分をあの子が手前に打ち明けるような事があったなら……絶対に逃げるな。今はそれだけ覚えていればいい」
逃げるな?
逃げたくなるような恐ろしい事がこの報告書に隠されているというのか?
だが母上の言葉から察するに今の僕ではそれを読み取ることが出来ないという事か。
「もしリリアーナが最悪な形で見つかった場合。その時は覚悟しておけよ。落とし前はしっかりとつけるぞ」
「ちょ、あの時はそんな事一言も…」
「やかましい。あの時は失踪してるなんて思いもしなかったからな。ウチはもう破滅って墓穴に片脚突っ込んでいるものと思え」
無茶苦茶な事を言い母上は報告書を僕の手から奪うと出ていった。
結局その報告書から母上が読み取った意味を理解したのはそれからかなり長い年月を経てのことであった。




