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今日のお味噌汁は妻の自信作

作者: 赤城イサミ

 恐怖の味噌汁。

 

 今日、()の味噌汁。


 

 小さい頃、祖父から聞いた子供向けの怪談だ。

 僕は祖父が大好きで、今でも色々な話を覚えている。

 中でも一番好きだったのが、恐怖の味噌汁だ。

 でも、今日、それが一番嫌いな話になったかもしれない。



 僕はもうアラサーで、結婚もしている。

 妻は働き者で優しく、家事全般を完璧にこなす愛嬌のある女性。

 欠点なんて何処にもない……が、一つだけある。


「勿体ないオバケが出ちゃう」

 これは、妻の口癖。

 言葉通り、妻は使える物はとことん使う主義だった。

 ケチという訳で無く、万物には神様が宿る、といった心情から来るもの。

 

 それは良い事だと僕も思う。

 しかしだ。

 それを食品に対しても行うのはどうかと思う。


 基本、冷蔵庫や台所には、賞味又は消費期限が切れたものばかりがある。

 叔父が昔、食品関係の問屋をやっていて、その倉庫に眠っている物を貰って来るらしいのだ。


「今日はお麩のお味噌汁。いっぱいあったから食べてあげないとね」

 妻の”あった”というのは”発掘してきた”という意味。

「そ、そうだね」

 食卓には既に、今夜の夕飯が並んでいる。

「今日ね、いつもと違うお味噌使ったの。お麩を見つけた時、お味噌もあってね。……ふふ。自信作よ」

 そう言う妻は本当に嬉しそうな笑顔を作る。

 こんな顔をされたら、僕は何も言えなくなるのだ。


 だが僕は、強い恐怖を覚えてしまい、

「へ、へ~。それ見せて」

 と言った。


 妻が持って来た味噌とお麩を見た瞬間、僕は目眩(めまい)がした。

 お麩は焼き麩だったが、十年以上前の物だった。カビ臭い匂いがして、崩れかけている。焼き麩の賞味期限は長いが、それでも二年程度だ。


 味噌は保存環境が整っていれば、相当長持ちする食品。

 だが、この味噌は酸化して黒くなり、白カビが生えている。パッケージはボロボロで、何年前の物かすら分からない。


 僕は改めて味噌汁を見た。

 どろっとした麩と薄黒い汁。そして謎の物体が浮いている。それよりも匂い。ほんのりと味噌の香りはするが、とにかくカビ臭さが尋常じゃなかった。


「お、美味しそうだね」

 僕は笑顔を作り、溢れる冷汗を密かに拭った。

「ありがとう。じゃ、食べよ。頂きま~す」

 と、妻が言う。そして僕も言う。


 妻の長所はもう一つある。それはタフな胃腸を持つ所だ。

 そして短所ももう一つある。それは味覚と嗅覚が少し変な所だ。


 僕は恐怖と戦いながら妻自慢の味噌汁を啜った。


 味噌汁の味は 『明日、僕は生きているだろうか』 という味だった。


補記:

お味噌は塩分濃度や保管状況によりけりですが熟成味噌として食べれます。

というか、発酵が進むだけで、味噌は基本腐りません。元が腐ってる訳ですからね。

カビに関しては青は少し毒性があるので、避けた方が良いです。

白も取り除くべきですが、これは食べても問題ありません。

お麩は古いとカビ臭くなります。虫が湧く場合もあります。

お麩に関しては詳しくないので分かりませんが、胡麻の様な虫、恐らくシバンムシとかが発生すると思われます。食べても問題ない筈ですが、気持ち良いものでは無いですよね。

胃腸の強さにもよりますけど、旦那さんは問題無くお味噌汁を食べた事でしょう。

もしくは、スタッフが美味しく頂いたと思います。

なろうラジオ大賞用です。

楽しんで頂けたのであれば……幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  読ませていただきました。 恐怖の味噌汁・・・今日、麩の味噌汁。 悪の十字架・・・開くの十時か? なんて、ありましたね~。 ・・・う、うん、さすがに、こっちは恐怖の味噌汁かなあ(笑)。 …
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