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7. 飲み過ぎにはご用心

 


 同棲している恋人同士で身体の関係がないやつっているのか? 俺だったら好きな女が一つ屋根の下にいて手を出さない自信はないな。


「……はっ!」


 目を覚ますと、またしても朝だった。


「やっべ。凄いエロい夢を見てしまった。こりゃ美世子不足だな……」


 なんてほざいて隣を見ると、ムスリクが眠っていた。

 ……寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。誰だって朝目が覚めてベッドに裸の男女が寝ていたらやっちまったと思うだろう。俺もそう思う。


「ム、ム、ムス、リク……」


 ガーガーと気持ち良さそうにいびきをかいている男は素っ裸だ。恐る恐る布団をめくると下も履いていない。そして立派なモノが目に入った。俺はそっと布団をかけ直して頭を抱えた。


 いや、あり得んだろう。酔った勢いというのは聞いたことはあるが、まさか自分がやってしまうなんて。いやいやあり得ん。

 だが、昨夜の記憶が帰り道からパッタリと途切れている。眠っている間にナニかされたか? いや、ムスリクに限ってそんなことしないだろ。しないよな?


 とりあえず起こすか? いや、本当にやってしまっていたらどうする? 一旦逃げるか?


 ああ、美世子。俺は、どうしたらいいんだ。浮気じゃないんだ。俺は美世子一筋なんだよ。信じてくれ。


「ん……」


 ムスリクが身動ぎ、そして薄っすらと目蓋を開けた。


「ひっ! あ、お、おはよう!」

「ああ……おはよう。体は大丈夫か?」


 ひえええ!! 身体の心配をされてしまった! そのドでかい凶器で貫かれたら死人が出そうだもんな。そりゃ心配するよな。


 美世子、ごめん。俺、俺を守れなかったよ。


 布団に突っ伏した俺にムスリクは慌てて肩を揺すった。


「お、おい。大丈夫か? やっぱりまだ辛いんじゃないか?」

「ううう……心が辛い……美世子、ムスリク、ごめんな」

「いや、いいって。別に気にしてない」


 美世子にも悪いし、昨夜のことを覚えてないなんてムスリクにも申し訳ない。


「俺って最低だあ!」

「急にどうした!?」

「ううっ……ムスリクさんよお。俺に手え出したんだろ?」

「は?」

「だけどよお、俺何にもこれっぽっちも覚えてないんだわ」

「まあ、そんな気はしてたけど……って、俺は別に君に手は出してないぞ!」


 闇の王を倒すという目的の前に人間関係が拗れることを危惧しているのか、ムスリクは仕切りに昨夜の過ちを無かったことにしようとしてくれている。


「いや、いいんだ。気を使わないでくれ。やっちまったもんは仕方ねえよ。仕方ねえんだ。だからよ、これから償わせてくれよ」

「だから出してない」

「手は出してないけどナニは出したってか? 少しも上手くねえぞ」

「君、下品だな。ナニも出してない」

「じゃあ何だしたんだよ!」

「何も出してないっての! 出したのは君だろ!?」

「はあ!?」

「昨日の帰り道で酔っ払って歩けないって言うから背負って帰ってたら俺の背中で嘔吐したのは君だ!!」


 ムスリクの言葉にヒートアップしていた頭が急速に冷えてきた。


「…………あ、へー。な、なるほどー」




 あ、なんか思い出して来たわ。そういえば凄い気持ち悪かった気がする。


「君は吐いてそのまま寝てしまうから、その後の処理が大変だったんだぞ!」

「ムスリクさん…………すんませんでした」


 俺はムスリクに土下座して謝る他なかった。


 いやー、やっぱりムスリクに限ってそんな間違い犯すわけがないよなー。そうだよな、うん。


「ムスリク、お前は俺の心の友だって信じてたぜ」

「よく言う」


 呆れているムスリクの声を聞きながら俺は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。





『女神ジンノ、以後飲み過ぎないことを誓う』






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