5. 奥義、女神アタック
寝不足のセイヴを置いて俺とエペ、ムスリクは王都周辺の魔物退治に赴いていた。
「王都周辺の魔物は確かに活性化しているけれど知能の欠けた雑魚ばかりだから女神の力さえあれば簡単な仕事よ」
そう説明を受けて早朝から出かけた。
異世界で魔物と戦うというゲームみたいな状況、どうせなら何か凄い技でも作ってみたいものだ。
「エペ達は何か技名を叫んだりとかしないのか?」
ふと、気になって聞いてみた。
「技? 何それ」
「何ちゃらソード!! とか何とか斬!! みたいな」
子供の頃やっていた戦いごっこではオリジナルの技名を作って叫んでいたりしたものだ。まあ、若干パクっていたことは否めないが。
「私は特にないけど、ムスリクは?」
「俺も特には」
「何だ。そんなもんか」
少しだけがっかりした気持ちになった。結構そう言う技名を叫ぶことに憧れを持っていたんだがな。
「でも、叫ぶと力が入るのはわかるわ」
「俺もそれはわかる」
「強い魔物に遭遇したときとか自分を鼓舞する為に叫んだりするもの。貴女の技名を叫ぶってのと似たようなものかもね。いいじゃない。何か作ってみたら?」
「そうだなあ」
俺が頭を捻っていると魔物が俺に体当たりをしてきた。しかし俺に何の衝撃もなく消えた。
溢れる魔物をエペとムスリクは軽く倒しながら俺と話している。
「どうすっかな……女神アタック!! とか?」
突進してきた魔物に向かってこちらからぶつかって行くと魔物は消しとんだ。
「女神の力様々だな」
その後、『女神パンチ』と『女神キック』を編み出してから俺は最終兵器『女神バリア』に辿り着いた。
「何つーか、俺ももう歳だな。最初はパンチとかキックとか楽しかったけど、だんだん恥ずかしくなってきた。何だかんだで突っ立ってるだけで勝手に自滅してくれるんなら、もうそれでいいわ」
「もうバテたの?」
「違えよ。女神は繊細なんだよ」
「そう? 突っ立ってるだけじゃ上位の魔物討伐は出来ないわよ。低位の魔物と違って奴らは頭を使って来るんだから」
「へいへい」
辺り一帯の魔物を殲滅してから俺達は王都に戻った。
俺もエペもムスリクもみんな無傷だった。常々思うがこのパーティには回復役がいない。全員で敵を殴りに行く超攻撃型パーティだ。
「お前達ってさ、今日は怪我しなかったけど怪我したときどうやって回復してんの?」
「回復? 要らないわ。そんなの怪我をしなければいいだけの話だもの」
「まじで脳筋だな」
「何か言った?」
「いーえ。何でもございません」
「ジンノ、まあそう言うな。俺達はな、実のところ君に期待していたんだ」
「え?」
俺の肩を抱き、ムスリクが言った。
どうやら魔王討伐までは大した怪我も負わずに来た勇者一行も魔王にはかなりの被害を受けたらしい。最後の戦いだと捨て身で挑んだあげくに闇の王の復活。更なる強大な敵を前にこのままでは不味いというときに光の女神の召喚。光の女神と言う名前から何かヒーラーっぽいなと期待していたらしい。実際出てきたのは魔物を吹き飛ばすしか脳がない俺だったわけだが。
「まあ、ヒーラーが居なくてもパーティの攻撃力は貴女のおかげで格段に上がっているわ」
「俺にがっかりした?」
「少しはしたかもね」
「ええー」
「でも、貴女は伝承の通り対魔の力を持っている。それ以上は望まないわよ」
「セイヴが応急処置のスキルは持っているからな。魔王戦もそれでどうにかしてきたんだ。闇の王戦もそれでいけるだろう」
「俺、お前達が死んだら嫌だぞ」
俺の目的はこの世界で美世子に会うことだが、その前にこいつらが死んでしまっては目覚めが悪い。
俺の言葉にエペとムスリクは顔を見合わせるとにやりと笑って俺の頭を撫で回してきた。
「わっ! 何するんだ!」
「何可愛いこと言ってるのよ!」
「俺達はそう簡単に死なないさ」
「俺は真剣に言ってるんだぞ! ああ、もう……くそっ。今日は飲みたい気分だ!」
「いいわね。行きつけの酒場があるのよ。行きましょう」
「あそこの筋肉ゴールドは美味いぞ」
「何それ?」
「お酒よ。ムスリク発案のオリジナルカクテル」
「へー。飲んでみようかな」
その晩、俺達三人は酒場で騒ぎ倒し、ムスリクの家で二次会をし、気がついたら朝を迎えていた。
『女神ジンノはエペとムスリクと交流を深めた』