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3. 筋肉もりもり大作戦

 


 全ての闇を吹き飛ばすというチート機能完備の光の女神になった俺は恋人の美世子を探す為にまずは破滅の危機に面しているこの世界を救うことにした。


「で、その闇の王はどこにいるんだ?」

「それがわからない。大臣は闇の王を復活させて以降行方がわかっていないんだ」

「ええ! どうすんだよ」

「心配するな。奴らの狙いは世界の破滅。いずれ必ず表に出てくる。そこを叩くんだ」

「そんなんでいいのかよ」

「ああ。無闇に世界中を飛び回れば、王都を危険に晒してしまう。王都で待機しつつ、いずれ来る戦いに備えてジンノ、君の力を強める」

「それってつまり、いつ倒せるかわからないってことだよな」


 そんなことではいつ美世子を探しに行けるかわかったものではない。


「俺、人を探しに行きたいんだけど」

「駄目よ。貴女を王都から出すわけにはいかないわ」

「そんなあ」

「まあ聞け。君の探し人は俺の方で請け負う」

「お前が探してくれるってのか?」

「俺ではないが、俺の部下達だな!」

「部下?」

「ムスリクは諜報部隊の隊長なのよ」

「ええ!?」


 この筋肉達磨が? 諜報部隊? ……似合わなすぎる。そもそも戦士じゃなかったのか。勇者一行は勇者、剣士、戦士と物理で殴る脳筋集団かと思っていたが戦士兼諜報員だったとは。


「何か、意外だな」

「そうか?」

「俺に筋肉もりもりの諜報員ってイメージが無かったから」

「ジンノ、筋肉はいいぞ。筋肉は人の心の扉を開く。君も筋肉をつければわかる」

「お、おう」


 俺も偶に筋トレしたり走ったりはしていたが、ムスリク程の筋肉をつけようと思ったことはない。


「俺の諜報部隊は皆、筋肉の力を使って世界中の情報を集めている。君の探し人もきっと見つけられるさ」

「あ、ああ。ありがとう」


 正直まったく信用ならなかったが、ムスリクが良いやつだってことはわかった。俺ももっと筋肉がついていれば筋肉のことを信用出来たのだろうか。いや、ないな。


「それで、君の探し人はどんな人なんだ?」

「そうだな」


 美世子、俺の恋人で…….


「……黒い長髪の女性で、背がすらりと高くて、でも美人系って言うよりは可愛い系の顔をしているんだ。それからまん丸の目が笑うと細くなるんだ。人付き合いは苦手な方だが近所の人や子供とは仲が良くて、よく挨拶をしていたり遊んだりしていたな。それに料理上手でな。美世子の作る筑前煮はめちゃくちゃ美味いんだ。どんな料亭の料理よりも俺は美世子の手料理が一番好きでな。それから、それから……」


 気がつくとムスリクはにこにこと頷き、エペは呆れた様子で俺を見ていた。


「悪い。話しすぎたか」

「ジンノ、君にとってのその女性は何だ?」

「……俺の恋人で、世界で一番大切な人だ」

「そうか。わかった。君の恋人を見つけられるよう尽力するよ」


 ムスリクは笑顔を浮かべ、腕の力こぶを叩いた。


「……ありがとう」


 こいつ筋肉を見せつけたいだけなのか、とも思ったが、ムスリクの筋肉を見て何故だか安心感を覚えたのも確かだった。よくわからないけど、筋肉って安心感あるんだな。本当によくわからないけど。


「でも、この世界に召喚されたばかりの女神がこの世界に恋人がいるなんて変じゃない?」

「あ、待て待て、それは説明する!」


 こいつらに不信感を持たれるのも面倒なので俺は洗いざらい事情を説明した。俺が別の世界で生きていたこと。恋人が消えたこと。そして、その恋人がこの世界にいるということ。そんでもって何故か俺が女神の姿でこの世界に召喚されたこと。


「なる程ね。貴女は確かに女神だけど、別の世界の人間でもあったと」

「そういうことになるな」

「ねえ、一つ言ってもいいかしら?」

「何だ?」

「貴女がこの世界に来て男性から女性に変わっている様に、貴女の恋人も全く別の姿に変わってる可能性があるんじゃないの?」

「…………あ」


 失念していた。その可能性は大いにあり得るじゃないか。そもそも俺のこの姿を見て美世子は俺だと気がつくわけがないし、俺も美世子の姿が変わっていたら気がつけるのだろうか。

 頭を抱える俺の肩にムスリクがそっと触れた。


「大丈夫だ。姿が変わっていても心は変わらない。筋肉は人の心の表れだ。筋肉を見ればどんなに姿が変わっていてもわかるさ」

「ムスリク、お前」


 何言ってるか全然わからないけど、何か良いことを言ってくれているのはわかる。よくわからないけど泣けてきた。本当によくわからない。


「ジンノと彼女、お互いを思う愛の力が筋肉に表れる。何も心配することはない」

「そう……だよな。姿が変わっても愛の力で見つけられるよな!」

「そうだ。ジンノ! 必ず、俺の筋肉諜報部隊と君の愛と筋肉で美世子さんを見つけてやろう!」

「お、おう!」


 俺達は硬く手を握り合った。このわけのわからない世界でも信用出来る筋肉ってのは凄いな。

 いや、やっぱりよくわからないかも。





『女神ジンノは恋人の美世子探しを筋肉諜報部隊に依頼した』





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