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28. ある一家の悲劇

 


 俺が倒して来た魔物って、排除する対象として存在していた魔物って、もしかしたら元々は人かもしれないってこと?


「人って……魔物になれるのか?」


 エペは小さく首を横に振った。


「普通は、そんなこと出来ない。でも、それを可能にした人を……知っているわ」

「トライバルか?」

「いいえ。魔物研究を生業にしていたエシェク博士。彼は数年前に事故を起こして死んでしまったけれど。でも、彼は……人を魔物にする薬を作り上げてしまった」

「その薬が出回ってるってのか? 迷惑な話だな」

「そうね……でも、彼の死と共に薬は葬り去られた筈なのに……」


 エペは悲しそうに俯いた。


「その博士がまだ生きている可能性はないのか?」

「ないわ。彼は、間違いなく死んでいる」

「でも」

「私の目の前で死んだから、間違いない」

「え?」


 彼女は苦しそうに微笑んでいた。



 ***



 これはよくある家族の話。夫婦と二人の子供達は幸せに暮らしていました。しかし、あるとき母親が流行り病で急死してしまいます。愛しい妻を亡くした夫は大層悲しみました。幼い子供達を残して死んでしまった妻。彼は妻を、蘇らせようと考えました。


 彼は数ある魔物のうち、再生能力など特殊な能力のある個体に注目し、それらの研究に没頭していきました。全ては妻を蘇らせる為に。


 研究の末、ある薬が完成しました。


 その薬を投与した死んだネズミは再び元気に動き出したのです。彼は喜んで妻の亡骸にその薬は投与しました。


 薬は失敗作でした。妻の亡骸は確かに動き出しましたが、それは腐り切ったボロボロの肉体が動いているだけです。妻の意識などはないのです。


「お父さん……それ、何?」

「何って、お母さんだよ」


 それでも、彼は……妻を蘇らせることに成功したと、喜んでいました。


「お父さん、それ、違うよ」


 震える声で娘は訴えましたが彼は娘の言葉に激怒し、頰を殴りつけました。


「お前達の為にやったんだぞ! 幼いお前達には、母親が必要だと思ったから! だから私は禁忌に手を出したんだ!」


 床に倒れた娘が泣き出しました。すると、妻の肉体がふらりと彼の元へと近きます。彼女の腕がばきばきと音を立てて変形し、三本の鉤爪の様な形に変わりました。そしてその腕で彼の腕をへし折りました。へしゃげた腕を見て、彼は悲鳴を上げました。


 そのまま、彼は、自分が蘇らせた妻に殺されてしまったのです。


 ゆらりと左右に揺れながら妻の肉体が娘へと歩み寄ろうとします。その姿はかつて愛した母親の面影を少しも残さない、悪魔、魔物と呼ぶにふさわしい姿でした。


「ひっ!」


 娘は必死に体を起こして部屋を飛び出しました。まだ言葉も喋れない弟だけを抱き抱えて家から転がるようにして逃げだしました。家の外には男が一人立っていました。


「助けて!」

「大丈夫かい?」


 娘が必死に叫ぶと、男はしゃがみ込んで娘の手を取ります。


「お父さんが、お母さんが!」

「もう大丈夫だよ。僕に任せて」


 男は一人、家の中に入って行きました。


 暫くすると煙臭い匂いがしてきました。家が炎に包まれるのは一瞬の出来事でした。目の前で住み慣れた我が家が燃えているのです。中には父親と、母親と言えるかどうかわからない者、そして、あの男。

 燃え盛る家の中から出て来たのはあの男だけでした。


「可哀想に。家も家族も失くしてしまったね。でも、大丈夫だよ。君達は僕が保護しよう」



 ***



「エペ、大丈夫か?」

「……ええ」


 顔色が悪い彼女の背をさすった。


「ジンノ、あのね」

「ん?」

「ごめんなさい。やっぱり何でもないわ」

「……報告、連絡が出来なくても、相談に乗ることも出来ないか?」

「ジンノ……」

「無理にとは言わないけどよ! 俺が辛いとき、エペがいてくれて俺は心強かった。だからさ」


 言い終わる前に彼女に抱き締められた。俺よりも背の高い彼女に抱き込まれる形になってしまう。


「嫌なことを思い出したの」

「うん」

「お父さんとお母さんが死んだときのこと」

「うん」

「ジンノ、エシェク博士は私の父なの。父は死んだ母を魔物に、異形の姿に変えた。そして、魔物化した母に殺されたわ」


 彼女の体は震えていた。俺はそっと彼女の背に手を回して強く抱きしめた。


「私は、セイヴを連れて逃げた。そして、トライバル……に、助けられたの」

「トライバル?」

「そう、彼が父も母も父の研究の成果も全てまとめてこの世から消し去ってくれた……そう、思っていたの。でも、もしかしたら、彼は父の研究の成果を使って何かしているのかもしれない」


 結局、トライバルが悪いってことかよ。本当に気に食わない野郎だ。世界を破滅させようとしてシカバの体を奪って、俺を狙って、エペ達の親父の研究を悪用しようとしているだと?そんなの、 許せねえ。


「エペ、俺、トライバルのこと嫌いだ。みんなあいつのせいで酷い目に合ってる」

「でも」


 彼女は少し言い澱んでから、呟いた。


「彼が私とセイヴを保護してくれたから、私達は今、ここにいるの」


 エペの気持ちは理解出来る。今、悪事を働いていたとしても、以前施された善意を覆すことは出来ないのだろう。


「あいつは、何を考えているんだろうな」


 そもそも何の為に世界を滅ぼそうとしているんだ。両親を亡くした子供を保護するくらいにはまともな奴だったんじゃないのか? 何があいつをとち狂わせた?


 あいつのルミア……美世子への手紙。三十年持ち続けた手紙。人を愛することだって知っているはずなのに。





『トライバルの真意とは……』





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