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2.女神の力を見せてやる

 


 この世界はレアリテというらしい。長らく平穏な日々を送っていたが、あるとき世界を破滅させようする存在、魔王が現れた。魔王を倒すべく選ばれし勇者セイヴは王都から旅立ち、女剣士のエペ、戦士のムスリクを仲間として魔王城を目指した。

 幾度もの困難を乗り越え、見事魔王を倒した三人であったが、なんと王都にいる大臣が魔王を操る黒幕であったことが判明。勇者が魔王に気を取られている隙に着々と闇の王復活の儀式を進めていた悪徳大臣によって闇の王が目覚め、世界は闇に覆われようとしていた。

 そこで闇の王に対抗すべく光の女神を召喚した。というのが一連の流れらしい。


「え、つまり世界の滅亡一歩手前ってことか?」


 翌日、俺は勇者一行と共に大聖堂の近くの宿舎の一室にいた。


「端的に言うとそうなる」


 こういうのって普通旅立つところからスタートじゃないのかよ。RPGで言うラスボス前くらいの進行度じゃないか。


「まさか大臣が裏切り者だとはな。驚いたよな。はははは」


 筋肉達磨の戦士ムスリクが呑気なことを言うとどぎつい目つきの剣士エペが彼の肩を叩いた。


「女神様の前なのよ!」

「あ、いいからいいから。俺、女神って自覚もそんなないし。それで? お前達と協力して大臣と闇の王とやらを倒すってことでいいのか?」

「そうだ」

「つってもな。俺にそんな力があるとは思えないんだが」

「女神の力がまだ覚醒していないのかもしれない」

「はあ」

「大丈夫だ。貴女は間違いなく光の女神だ。今は召喚直後だから記憶が混濁しているだけだ」


 勇者は早口に捲し立てると下を向いて押し黙った。


「どうした?」

「何でもない」


 部屋を出て行く勇者を誰も止めなかった。


「気にしないで下さい。あの子が女神様を召喚したから、女神様が光の女神じゃなかったらどうしようって、不安がってるだけです」


 エペが淡々とした口調で言う。

 俺は世界の番人にこの世界に送り込まれたと認識していたが、この世界の人間からしたら勇者が女神を召喚したということになっているのか。


「ああ、なるほど。なんか悪いな。あと、敬語止めてくれないか? なんか落ち着かなくてよ」

「そう言うわけには」

「普通にジンノって呼んでくれよ。その方が助かる」

「……わかったわ。貴女ってどうも女神らしくないわね」

「だろうな」


 今の俺の見た目はセイヴと同じ年頃の娘だが、本来であれば同年代のエペとは堅苦しくなく気軽に話したかった。


「女神ってのは具体的にどんな存在なんだ?」

「女神は、この世界を救ってくれる存在。聖なる力を使う勇者が覚醒することで呼ぶことが出来る……と、言われているわ」

「それだけ?」

「それだけ」


 何てぼんやりした話なんだ。


「女神がどんな力を持ってるかはわからないのか」

「どんな闇も消し去ることが出来ると言われているわ」

「そんな力が俺にあるか?」

「それは、すぐにわかるわ」

「何でだ?」

「貴女の力を見る方法は幾らでもある」

「……と、言いますと?」


 何だか嫌な予感がした。


「外に出ましょう」


 彼女にがっつりと掴まれた手首が痛かった。



 ***



「俺、全然これっぽっちも武闘派ではないんだがな!」


 変な形をしたロッドを持たされ、俺は鬼の様な魔物と対峙していた。


「女神の力を見せて頂戴!」


 そんなこと言われても出来るかボケ! と、叫びたかった。

 俺は産まれてこの方、暴力沙汰を起こしたことはないし、殴り合いの喧嘩なんてした事がない。年末のプロレス番組を観たことくらいしかない俺に自分の倍程もある恐ろしい形相の魔物を倒せなど無茶な話だ。

 エペとムスリクは距離を開けて俺の背後で見物人を決め込んでいる。


「どうすんだよ、これ!」


 突如、鬼の鋭い拳が飛んできた。


「ぎゃあ!!」


 間一髪のところで避けることが出来たが体勢を崩して地面に転がった。先程まで俺がいた場所の地面は抉られ地割れが出来ている。


「いや、これ死ぬ! 死ぬだろ、これ!」

「大丈夫よ! 一発くらって!」


 俺が叫ぶとエペが背後から答えた。


「はあ!? ふざけんな! 俺に死ねって言うのか!?」


 鬼が再び振りかぶる。急いで体勢を立て直すが間に合わない。

 俺の頰を鬼の拳が掠めた。と、思った。


「え、あれ?」


 俺には何の衝撃もなかった。むしろ、俺を殴ろうとして鬼の腕が吹き飛んでいた。

 鬼は残った方の腕で俺を捕らえようとしたが、その腕も俺を掴む前に吹き飛んだ。


「え、怖っ」


 俺は突っ立っていただけで、かすり傷一つ、返り血の一滴も浴びずに、攻撃してきた鬼が勝手に吹き飛んだ。


「流石ね。やっぱり貴女は正真正銘、光の女神様だわ」

「この力があれば闇の王も打ち消せるな!」


 エペとムスリクは拍手をしながら近づいてきた。


「……女神ってのはとんでもないな」

「闇の魔物は貴女に触れることも出来ずに消える。今の魔物は知性の欠けた低位の魔物だから、貴女の脅威がわからず何度も攻撃を仕掛けてきたのね」

「え、あれで低位なのかよ」

「そうよ。闇の王が目覚めてから魔物達が活性化しているの。王都の近くにはさっきみたいな奴がうじゃうじゃいるわ」

「この世界、まじで滅びようとしてんのな」


 俺の言葉にエペはぎらりと目を光らせた。


「だから貴女が呼ばれたのよ。これから一緒に頑張りましょうね」

「お姉さん、目が笑ってないぞ……」


 彼女の力強い手に両手を掴まれ、恐ろしい眼光で見つめられると恐怖しかない。おい、後ろの筋肉達磨は何を笑ってやがる。この威圧感が凄い女から俺を助けやがれ。


「はははは! エペ、女神が怖がっているぞ」

「……あら、ごめんなさい」

「はは……いや、いいんだ。が、頑張ります」


 こいつらは勇者一行と言うからにはこの世界である程度の権力を持っているはずだ。こいつらにこびを売っておけば美世子を探す助けになるかもしれない。


「協力するからさ、俺の人探しも手伝ってくれないか?」

「ええ。でも、先ずは世界を救わないと貴女の探している人諸共破滅が訪れるわよ。ね、女神様」

「わかったよ。まずはお前達に協力する。世界を救った暁には俺に協力して貰うからな」


 思いがけないことだが、力があるということはそれだけこの世界で動きやすくなるということだ。この力を使ってさっさと闇の王とやらを倒して俺は美世子にプロポーズするんだ。





『勇者一行に女神ジンノが加わった』






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