15. 仲間の疑惑
俺とクマのぬいぐるみのシカバ、それから人間の女に姿を変えたドラゴンのカアちゃんことカーマインの前にはムスリク、エペ、セイヴのお三方。
「君は少しもじっとしていられないのか?」
「ご、ごめんなさい」
「コーイチのせいじゃないっす! 俺がカアちゃんに無事を知らせに行きたいって言ったんす!」
「トロイ様、謝る必要ないヨ。トロイ様が戻らなかったら王都は壊滅してたところだヨ。私の手でネ」
口々と話し出す俺達にムスリクはため息を吐いた。
「俺も混乱しているんだ。一度整理させてくれ。まず、シカバ」
「俺っすか?」
「そう。君はドラガーナの王子トロイなんだな」
「お恥ずかしながらっす」
ドラガーナ。王都から遠く離れた海の上の孤島にある国だ。古来からドラゴンと共存してきたと言われている。しかし閉鎖的な国の情報は外へあまり出てこない為、長らく神秘の国とされていた。
だが、魔王出現によりドラガーナにも甚大な被害が出たことを機会に王都とドラガーナは和平協定を結ぶ。より二つの国の繋がりを強める為に王都の姫とドラガーナの王子の婚約が成立したのはすぐだった。
「え、つまりオネット様ってお前の婚約者?」
「そうなるっすね!」
「えー……お前……」
ムスリクが咳払いをしたことで俺は居住まいを正した。
「協定を結んだとはいえドラガーナには未だ謎が多い。まさか、王子が王都に紛れ込んでいるとはな」
「ドラガーナは金欠っす! 俺は出稼ぎっす!」
「王子も大変だなあ……」
腕の中のシカバもといトロイ王子が哀れに思えてきた。
「で、お供のドラゴンに無事を伝えに行く途中で王子の体を乗っ取ったトライバルに出くわしたと」
「そうっす!」
「トライバルは女神召喚の事実を知っていて、なおかつ女神を狙っているのか……」
「ああ。みたいだな」
トライバルが俺をどうしようとしているのかはわからないが、世界の破滅を願う様な奴だ。ろくなことを考えていないに決まっている。
「……ジンノ。悪いがこれから先、君の自由は減ることになる。君になるべく窮屈な思いはさせたくないが、理解してくれ」
「まあ仕方ねえわな」
「すまない」
そう言ってムスリクは俺にスマートフォンの様な機械を手渡した。
「何だこれ? スマホ?」
「何と呼んでも構わない。通信機器だ。これを持っていればすぐに連絡が取れるし助けも呼べる。これを手放さないようにしてくれ。……もっと早くに渡しておけばよかった」
「へーこりゃ便利だな。みんな持ってんの?」
「ああ」
ますます現代じみてきたな。なんてぼんやりと考えていたら次の品が出てきた。
「それから、これね」
エペの手には黒い錠付きのチョーカーが握られていた。
「これを着けていればどこに居ようと貴女の居場所がわかるわ。……本当は、首輪みたいで嫌なんだけど。これで貴女の脈も測っているから。貴女に不測の事態が起こったらすぐにわかるわ」
GPSみたいなものか。
「オッケー気にするな。俺はこんなとこで死ぬわけにはいかねえんだ。トライバルを倒すまでだろ。さっさと着けてくれ」
優しく彼女は俺の首に触れ、チョーカーを着けた。そして決して自力では外せないように鍵をかけた。
「ごめんね。ジンノ」
「謝る必要ねえよ。元はと言えば俺が勝手したせいでもある」
「それもそうね」
「おい。納得するなよ。少しは俺を庇え」
「ふふっ。貴女のことは私達が必ず守る」
「ああ、頼んだぜ」
俺とエペは拳を突き合わせた。
ふと気がついた。セイヴが険しい顔をして俺を見ている。そう言えば、今日ムスリクの家に来てから一言も話してなくないか?
「セイヴ? どうした?」
顔を覗き込むと、急に肩を掴まれた。
「へっ!?」
「貴女は …………その、ムスリクと付き合っているのか?」
「え、いや何でそうなる!?」
「貴女がムスリクの家で寝食を共にしているなんて知らなかった」
「あれ? 言ってなかったか?」
「年頃の男女がそんな……」
「いやおい、童貞小僧。変な妄想すんなよ」
「変な呼び方をするな!」
「事実だろうが」
「そうだが……そうではなくて、そう考えるのは当然のことだろう?」
セイヴはムスリクをじろりと見やった。
「どうなんだムスリク?」
「同じベッドでは、寝てるな」
「やはりっ……」
セイヴは床に崩れ落ちた。仲間内で恋愛関係にある奴がいるのがよほどショックなようだ。セイヴには刺激が強いのか。しかしこれは事実無根。
「あ、おい! ムスリク! 話をややこしくするなよ」
「でも同じベッドで寝ているのは事実だろう?」
「それは、そうだけどさ」
更に床に減り込みそうな程セイヴが落ち込んでいる。助けを求めようとエペに視線を向けると彼女は「ファイト!」と、拳を握って見せただけだった。
「なあ、俺たち本当に何もないからな?」
一回やらかしたかもと思ったが、それも勘違いだったし。
「それにほら、ムスリクもこんな子供っぽい顔の俺に欲情しないって!」
実際、乳はでかいし可愛い顔をしていると思うけどな。まあセイヴを落ち着かせる為の方便ってやつだ。
「いや、するぞ」
「ムスリク! お前馬っ鹿! ムスリク馬っ鹿! 冗談でもそう言うこと言うなって!」
「悪い悪い」
こいつ、悪ノリしやがって。セイヴをおちょくって楽しんでるな?
「……本当に二人の間には何も無いのか?」
「ああ!」
胸を張って言い切ると、ようやくセイヴはほっとしたように体を起き上がらせた。
「それに俺には美世子っていう可愛い恋人がいるからな!」
駄目押しにそう宣言してやるとセイヴの体が床に減り込んだ。
「えっ!? 何で!?」
「とどめを刺したな」
「刺したわね」
「刺したっす」
「刺したネ」
それからセイヴを復活させるのに二時間費やした。
『女神ジンノは最新アイテムを手に入れた』