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その1/ 兄弟と従者達

いよいよ本編スタート。内容誤字脱字はちょいちょい修正していくスタイル。大幅な話修正もするかも。

直接書きで御無礼。追記>>副題修正したよ。


「兄上!」

「アルバーン、ようこそ学術院へ。入学おめでとう」

「はい!」

「アルルも、おめでとう。アルバーンを支えてくれてありがとう」

「はい、アルフ様」


入学式を終え、兄と久しぶりの対面となったアルバーンは嬉しくて仕方がない。

あまりにも凛々しい兄の姿に、憧憬を込めて見つめてしまう。


(本当、兄上好き過ぎだね、アルンは)


アルルは笑いを噛み殺して彼を見る。

アルバーンの従者となり傍に立つアルルだが、男子用の制服姿だ。

皇太子兄弟の呼び名は、館にいた時のままで『アルフ』『アルン』だ。


一方、アルフィンの傍にも従者が付き従う。

あのホウギョクの事件で助けた少年レビが、アルフィンの従者に召抱えられたのだ。



崩壊したホウギョクの生き残りは、たったの100人。

宝石鉱山の技術者と騎士他だけ母国に残し、殆どの国民がアライアに難民入国をした。


アルフィンの従者を選別するにあたって、皇帝は『柵の無い者』を選ぶ事にした。

政権や利害、その他色々な繋がりを持たない・・アルバーンとアルルのような関係。


「そうだ。優秀な子を・・ホウギョクの民から選ぶのはどうだろう」


丁度難民の支援策として仕事や住居を斡旋中だった帝国は、城内の騎士や作業人員も受け入れ中だったので、これは良い思いつきだと、皇帝は早速募集を掛けて数人の候補者を選ぶ。プロパガンダ的にも良い手段という訳で、実施された採用試験に見事最高得点を出したレビが選ばれたのだった。



ホウギョクのレビ、彼は本当に優秀だった。

赤毛で背は167センチ、ちょっと体の線が細い。なのに騎士並の体術と剣術を身に付けていた。

だが脳筋では無い、アルフィンも目を見張る賢さだった。

口数は少なく従者としても有能。発見した時に騎士見習いの服を着ていたので、()()15歳くらいではないかと判断された。


なぜ『大凡』なのかといえば。・・彼は記憶を失っていたのだ。

救護されて暫し仮眠をし、目が覚めたら呆然として・・・


「自分の事を思い出せない」


レビはアルフィンと再会した時に、救出時に言った台詞も忘れてしまっていた。

多分家族を殺されたショックからなのだろうと、医師は診断した。

あの時「両親と兄を失った」と言っていたから、その所為だろうか・・


「行くあてが無いのなら、アルフィンに従ってくれると嬉しいわ」

彼の身の上に同情した正妃の施しもあり、こうして従者に採用された訳だ。

年齢も大体同じくらいだろうと推測、アルフィンの従者には丁度良いだろうと。



「殿下、そろそろ」

「ああ、レビ。じゃあアルバーン、週末には帰るから」

「はい!兄上!」

「アルルも、アルバーンをよろしくね」

「お任せ下さい、アルフ様」


それぞれ別れ、兄達は中等部校舎へ、アルバーン達は小等部校舎へと向かう。


「兄上、週末には帰るだって!剣の稽古をしてくれるかな」

「アルン、あんまりアルフ様に甘えてはいけないよ」

「だって、兄上はなかなか皇宮に帰ってきてくれないから」

「くす。アルフ様はお忙しいのですから」


確かにアルフィンは最近週末になっても皇宮に帰って来ない。

皇宮に帰らず何をしているのかは教えてもらえないが・・・多分言えない内容なのだろう。

アルバーンは元気に教室を目指す。アルルは彼の後ろに付き従う。


「アルン、今日から入寮ですね」

「ああ!皇宮から出て暮らすのだ!兄上から寮生活のことは聞いていたからな!」

「侍女が既に部屋の用意を済ませてくれてるので、授業が終わったらそのまま寮に行きますよ」

「わかっている、楽しみだなぁ!」


今までアルバーンの友はアルルだけ。

これからは知らない子供達と共同生活、不安よりもワクワクが止まらないアルバーンだが、アルルは正妃から頼まれている。

何処の勢力の子息子女が、彼に対して悪意を持って接近してくるか、あわよくば利用せんとする裏の顔を持つ全てから守る監視役。

(アタシは出来る。純粋で、無垢で、優しいアルバーンに是等を寄せ付けるものか)


クィン卿に引き取られてからアルルは身体的に叩き上げられた。

剣技や体術をクィン卿直々に、魔術もグラディスからみっちりと。

だがアルルは根をあげなかった。

自分を守ってくれた、手を差し伸べてくれた全てに恩を返す。

正妃に頼まれたのだ。絶対にやり遂げる。

自分の母親よりも優しい正妃の為。


「アルル、さあこちらにいらっしゃい」

笑顔で呼ぶ正妃に、誰が逆らえようか。いつも凛々しい皇帝だって、正妃の前では口元を綻ばせるのだ。

アルバーンやアルフィン様と変わらない優しさで接してくれる正妃を、アルルは心の中で呼ぶのだ。

(お母さん)と。


「お願いね、アルル。アルバーンは世の中全てを疑っていない子。

本当、危なっかしい子。本当お願い。アルバーンを守ってね。でも」

アルルを正妃は抱き寄せる。

「あなたも自分を大事にしてね。無茶はしないでね。これもお願いよ」


アタシを慮ってくれる正妃。

本当の母親じゃないのに、アタシは庶民なのに、いつも優しくて・・

そう。

正妃様のためならアタシは命を掛けられる。


勿論正妃様だけじゃない。

アタシの傍に居てくれた皆の為なら・・命なんか惜しくない。


「遅いぞ、アルル!」

少し先に進んでいたアルバーンは遅れる従者、いや親友を呼ぶ。

ニコッと笑って手を振る彼に、

「はい」

笑顔で返して小走りで駆け寄り、並んで教室に入った。




さて、一方の二人・・中等部の教室1Aに入ると、異様な雰囲気だ。


「おい、あいつら」

「なんと図々しい・・・」

「まあ、バンゾクなんて国はそういう輩なわけで」


ザワザワと騒がしい生徒が侮蔑の視線を向ける先には、二人の留学生。

バンゾクの王女キナコが窓際の席に座っていて、背後には従者が立っている。

王女キナコとアルフィンは、あの事件の話し合いで顔を合わせていた。

この雰囲気は・・・良くない。


「キナコ様、ようこそアライアへ。息災でなによりです」

アルフィンは笑顔で彼女の傍に寄り、握手を求める。


「アルフィン殿下・・・お久しぶり」

彼女も小さな手で握手を返すが・・苦笑する。


アルフィンの傍にいるレビは・・表情はそのまま、だが握り拳を微かに振るわせている。

キナコはラビの祖国・・いや亡国ホウギョクを崩壊させた国の王女だ。

アルフィンは従者の握り拳を、トントンと手で軽く叩く。


バンゾクの王女キナコは、小柄でコロッとした可愛らしい体型の娘だ。見た目だけならアルバーンと同い年にも見える。

髪は稲穂色で、瞳は青空の様な青色、少し日焼けをした肌色。

そして傍に仕える従者は髪も瞳も菫色、180近い身長の大柄な男だ。


国内にいる方が危ないと、今は王となった兄ダイ・ズが、此処アライアの皇立学術院へ留学させたのだ。

学術院は治外法権を唱えていて、この様に要人を保護受け入れをしている。学生の間だけは様々な事から守られる訳だが、流石にあの大事件の首謀国の王女となれば生徒達からの反感も半端無い。


まだ未解明なホウギョク崩壊事件だ。

真の首謀者と言われるホウギョク近衛騎士団団長オサリバン侯爵は、今だに発見されていない。

双子の王子と王女も遺体さえ見つからない。

王子コモレビはアルフィンの親友でもある。何としてでも解決したい。

今クィン卿が中心となって、調査を続行中だ。


こうして第一皇子であるアルフィンが気さくに声を掛けた事で、一旦は陰口が収まった。

アルフィンはこっそりと胸を撫で下ろした。此処で国際問題には発展させたくはない。

確かにバンゾクに怒りを覚える者もいるのは分かる。自分もまだ怒りが心の中で燻っているのだから。

だが、キナコを罵倒しても意味は無い。むしろ彼女は多くの薬草や食料で、ホウギョクの民を支援してくれたのだ。バンゾクは王が暴挙に出る程に貧困していたのにだ。

薬学に詳しく、なんとか薬草を使い、医薬品などで国起こしをしようと兄と尽力していた賢い王女だ。


だが・・・レビが怒りを感じるのは仕方がない。ホウギョクの民だったのだ。

あの事件で兄を、両親を失ったのだ。



授業も終え、生徒達は教室をぞろぞろと出て行く流れに乗り、アルフィンとレビも外に出る。

「殿下、私は此処で」

「ああ。今日はいとこ殿のところに行くのだったな。では、明日」

「有難うございます、殿下。明日お迎えに上がります」

アルフィンは寮へ、レビは市街へと別れた。



城下街から少し外れた場所に建てられた新築の建物、此処はホウギョクの難民の仮設団地だ。

しっかりとした作りの建物の一角に、レビは立ち止まり、ドアをノックした。

「はい、どちら様で」

ドアを開けずに中から声がする。

「私だよ」


勢い良くドアが開き、一人の女性が飛び出してきた。

「ああ!お帰りなさいませ!!」

レビに飛びつき、抱き締めた。

「ただいま、シラヌイ」


()()()()()()()()()()に、レビは微笑んだ。



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