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梗概7・婚約


更に1年が過ぎ・・



第一皇太子アルフィンは14歳、小等部3年になった。

「え?婚約?」

「そうだ。母上の親友の令嬢とな」

父である皇帝の話に驚きはしたが・・皇家というものはそんなモノだとは理解していた。

早い者は生まれる前から『予約』してたりもするのだから。



母親である正妃は、クィン卿や息子のアルフィンと同じ皇立学術院卒。

彼女の親友の侯爵令嬢というのが、留学生だった隣国『ホウギョク』の王子に見初められ、輿入れした。


正妃と親友はとある約束をしていた。

「もしもお互いの子供で男の子と女の子が生まれたら、結婚させよう」と。

この親友夫妻は男と女の双子の子供に恵まれた。二人はアルフィンと同い年で、男はコモレビ、女はマホロバと名付けられた。


「そろそろアルフィンとマホロバちゃんを婚約させましょう!」

ようやく色々なゴタゴタが落ち着いたし、ちょうど良い年齢になった!

正妃は皇帝に嬉々として勧めてきた。

「まあ、もうすぐ彼らの生誕パーティーがあるからその時に申し合わせるのも良いだろう。

だが押し付けるのではなく、二人の意向を聞くのだぞ」

「うふふ、サリーが親戚になるのね!」

皇帝は忠告するのだが正妃は聞いていない。サリーとはその親友の名だ。

まあ王族の婚姻など、顔を合わせす釣書と姿絵だけ、顔を一度も合わせずに結婚なんてザラだ。


さて、アルフィンだが・・・

双子の兄マホロバとは同い年だから何度も会った事もあるし、同じ王族なので話も合うし、文通もしていた。女装をして隠れ住んでいる事も教えているくらいに親しかった。

対して妹とは・・・避けられているのだろうか、一度も会った事が無かった。

男同士遊ぶと良いと遠慮していたらしいが・・・やはり避けられていると思う。顔を合わせた事が無いなどおかし過ぎる。

「はぁ・・顔合わせして気に入らなければ断れば良いと、父上はそう言ってくださったし」


マホロバ・・か。

噂では『美しい』『文武両道』『魔法の達人』とは聞く。

凄いな。

しかも兄のコモレビ王子よりも出来る子らしい。いやいやいや、コモレビだって、結構強いぞ?

この前もこっち(アライア)に来た時に模擬戦をしたけど、2−1で私が負けたぞ?


「アルフィン、見て頂戴な!」

母親で正妃が部屋にやって来て、お見合い相手の釣書と姿絵を持って来た。

受け取り姿絵を見る。


・・・・・・・・。

・・あ、ああ。そっくりだ。コモレビに。まあ双子だし。あいつと同じ銀髪だ。

コモレビも大概美男だしな。うん、分かった。あいつと同じ顔ね、ははは。


息子の表情を見て、母親は眉を潜める。

「アルフィン。この画家は下手くそよ。それか、コモレビ君の絵と間違えたか。

マホロバちゃんは、もっとも〜〜〜〜っと!綺麗な子ですからね!」

「そうですか。ああ、騎士の服を着ていますからコモレビかもしれませんね」

「ああ、マホロバちゃんはいつも騎士の格好をしているわよ。騎士になる為の修練をしているから」

「へぇ」

「そういえばドレスを来ているところ見た事無かったわ」


それって・・ゴリラですか。武闘派ゴリラ。夫婦喧嘩したら私は負けっぱなしですか。

これはいけませんね。せめて夜は私が勝てる様に体術を修練・・・何を言っているのだ。

今度の顔合わせでも、騎士服かな?

そういえば騎士服、ホウギョクのは結構体にフィットしている感じで、スタイルがモロわかり・・

・・・・・・。

ちょっと楽しみ、かな。


14歳ともなると『そっち方面』も成長する、まあ健全に皇太子も育っている、と。







それから数ヶ月後。

惨劇は起こった。


双子の王子と王女の誕生パーティーにお呼ばれされた皇帝と正妃、そしてアルフィンはホウギョクへと向かう途中、後1日で着ける距離までやって来たが、夕暮れで暗くなったので無茶な旅を控えることにして野営となる。

王族は大型の幌馬車の中に簡易ベッドを設え、そこで就寝していた。お見合いはパーティーの時に顔見せ程度という事だが、アルフィンはちょっと楽しみだ。初めて顔を合わせる王女は良い子だろうか。そんな事を思ううちに微睡んで・・・



深夜、それは知らされる。

「皇帝陛下!一大事です!」

「む・・クィン卿か。どうしたか」

側近で騎士のクィン卿が、王族用の野営幌馬車にやって来て報告をして来た内容は・・

「ホウギョクが、バンゾクの襲撃に遭い・・王都が潰滅しました!!」


正妃は口を手で塞ぐが、悲鳴は抑えられなかった。

皇帝は直様起きて、騎士服に着替えて馬に乗った。アルフィンもそれに倣う。

「急げ!目指すはホウギョク王都、ジュエール!」



ホウギョクの主な産業は、豊富な埋蔵量を誇る宝石鉱山で、製品加工も高い技術で近隣諸国の貴族や金持ちが顧客、大層裕福な国だった。小さく岩山に囲まれた国だが歴史も古く、由緒正しい王族が国を治めていた。王と正妃は大変仲が良く、国民も王家を敬い・・・本当に良い国だった。

それが・・潰滅?

「バンゾクが攻め入ったそうです。祝賀ムードで警備も少し手薄だったところを・・」

皇帝の馬に併走するクイン卿はあらましを告げる。

この一大事を報せに来た伝令の背中には、一本の矢が深く突き刺さっていて、役目を終えると静かに息を引き取った。


ああ、なんて事だ。

コモレビは無事か?


父の馬を追うように走るアルフィンは、山の向こうの明るさに顔を硬らせた。


あの方向はホウギョクだ。

ゆらゆらと大きな火が揺れて、闇夜を紅く染めている。

あの美しい街を、城を燃やしているのか、あの炎は。

全速力で駆けてもホウギョクに到着は四時間はかかるだろう。

ああ・・豪快な笑い方の王様、優しい王妃様が、名前通り穏やかなコモレビが・・・何故?


逸る心を抑え、アルフィンはホウギョクを思い巡らす。

どうか、皆無事であってくれ。




攻めてきたバンゾクという国は、ホウギョクから東にある広大な大地の農業国家だ。

農業以外の産業が無い。しかも最近は不作が続いていて、国益が低下している。

だからだろうか、裕福なホウギョクに攻め入ったのは。


ホウギョクの王都、ジュエールは人口がたった2000人だ。

しかも攻めるには周りの山脈が自然の城壁となっていて、難攻不落。

国は角度40度の崖で囲まれていて、山から攻めるのは不可能だ。

だが国内に入られたら、これが災いして国民は逃げられない。

あの強固な城門をどうやって突破したのか。この門以外、進入は出来ない。

ホウギョク名物『不落門』と呼ばれる門は5重になっていて、騎士団駐屯地も側にあった。

何かあれば門番や警備兵がすぐさま出てくる。

裕福なホウギョクがたっぷりと金をかけた自慢の門だ。それなのに・・



アライアの皇帝と騎士達がホウギョクの王都に到着したのは夜明け前。

既に街も城も燃え、今は火も消えてあちこち燻る煙が立ち昇るだけ、物音一つしない廃墟と化していた。

あの美しい街並みも・・アライアの皇宮よりも立派で、歴史ある王城も・・全て焼け落ちていた。


「皆は人民を探せ!そして救護せよ!クィン卿、アライアに戻り、救護団を結成して連れてこい!

アルフィン、私に続け。王城に行く」

皇帝を先頭に、アルフィンと護衛が瓦礫の中続く。


クィン卿は転移魔法が使えるので、直様アライアに戻る。

この高位魔法『転移魔法』だが『一度行った事がある場所』が条件で、どこでも行けるわけでは無い。

彼をホウギョクに転移魔法で飛ばせていたら、もっと早く対応できた筈。だが彼はホウギョクに行った事が無かったのだ。だから先触れが出来なかった。

もしかしたら王家の人々を救えたかもしれない、そう思うとクィン卿は苦渋な思いで歯を食いしばる。

今は出来る事・・皇宮に戻り、医師や看護師を集めて運ばなければ。

そして早急に、近隣諸国に一度は行っておかなければ。この様な事態で先触れが出来ないなど・・

俺が行っていれば、救助は出来なくともどんな事態だったかは把握できたのだが。


「二度と・・・この様な事が起きない様に・・・二度とだ」


事件後、クィン卿は近隣諸国行脚で皇国を留守にする事になる。勿論転移魔法の為でもあるが、とある重大な任務を任されたのだ。ホウギョク潰滅を目論んだ国賊を追うという、重大な任務を。




時を戻し、朝靄が覆う崩壊後のホウギョク。


「ん?どうした、君」

崩れた王城の周りを歩いて捜索中のアルフィンは、林の中に人影を見つけて駆け寄る。

そこには一人の赤毛の騎士が蹲っていた。足を怪我している様だ。服も煤で汚れていた。

「さあ、私に掴まって。クィン卿が救護団を連れてくるから手当てをしなければ」

肩に騎士の腕を引っ掛けて身体を起こすと、ぼんやりしていた騎士は正気に戻ったのだろう、アルフィンに顔を向けた。少し煤で汚れている顔は真っ青で、髪もクシャクシャだ。

年格好はアルフィンと同じくらいか。


「大丈夫かい?君の名は?」

落ち着かせようと微笑むと、騎士は暫し呆然として・・少し頬を染めた。

「・・レビです」

「レビ、私はアライアのアルフィンだ」

「・・え」

名乗ると騎士の目が大きく見開く。どうやらアライアの皇太子だと分かったようだ。

「他に君の友人や知り合いが何処にいるか、知っているなら救護しなければいけない。わかるかい?」

優しく聞くが、騎士は視線を下に向けて俯く。

「・・・・・・・・いえ。わかり・・・ま・・・っ・・・」

騎士の顔はゆっくりと歪み、嗚咽となる。

「兄が・・・助けてくれたのです。両親は・・・こ、ころ、・・血が・・・あああああっ」

「レビ!」

がたがたと震え、肩に掛けていない方の手で顔を覆うと騎士は泣き出した。

「兄が、兄が・・私を庇って、あああああ」

「大変だったな・・ん?」

ザワッと不快な気配を感じる。

「アルフィン様・・?」

「大丈夫。私が君を守る。少し此処にいて」

隠す様に林の木の根本に騎士を下ろすと、アルフィンは剣を抜く。


騎士服の男がこちらに近寄って来るのが見えた。

男が身につけている騎士服は此処ホウギョクのモノだが・・様子がおかしい。

見覚えのある騎士服ではある。確か・・ホウギョク近衛騎士団の団長服にも見える。

でも彼はもっと美男子だった。背が高く騎士らしい体格で。なのに目の前の男はどう見ても別人だ。


「止まれ。お前、名は!」

切先を男に向け、アルフィンは呼び掛ける。だが男は返事をしない。

「今は国の一大事、なのにお前は何をしているか。その近衛服は贋か!」

怒号に男は怯み、一歩後退する。

「名は!!二度言わすか!私はアルフィン・キサ・デラ・アライア!アライア第一皇太子だ」

だが男は喋っている途中から、アルフィン目掛けて突進して来る。

「馬鹿かお前は。こっちは剣を持っているのだが」

くるっと剣を回し、刃の向きを変えて剣の平たい部分で強かに男の腹を叩くと、男は口から咀嚼物を吹き出してしゃがみ、咳き込む。

「もう良い。名など聞かぬ。死んだら誰だろうが構わんからな」

ひた、としゃがんだ男の首に刃を置いた。置いた部分の皮膚が切れ、血が滲む。

「ひっ」

「介錯は無いからな。うまく1発で切れると良いな、首が」

そして剣を上段の構え・・・

「ぎゃあああ!!許してくれ!!お、オサリバン様に命令されて」


オサリバン・・・近衛騎士団団長の名前だったな。

アルフィンは以前会った事のある騎士を思い出した。静かで落ち着いた感じの騎士だった。

だが・・

「あいつ、嫌な奴なんだよな」

日頃穏やかなコモレビにしては珍しい、口汚く彼をこう評していたが。


ヒュヒュッ

突然の風切音。

はっとして避けると、頬をかすめて何かが飛んで・・木に刺さるのが見えた。矢だ。

「ぐ」

声に反応してそちらを見ると、しゃがんでいた男が地面に崩れ落ちていた。矢が喉に刺さっている。

この矢はバンゾクの物だった。

アルフィンは矢が飛んできた方角に人影を認めるや、グラディス直伝の魔法を繰り出した。

「火球」

上に向けた掌に、10センチほどの火の玉を形成すると勢い良く人影目掛けて放る。

火の玉は1から2、4、16、32と増えて飛んで・・・

ぎゃ、と微かな悲鳴が聞こえた。


駆け寄ると、既に敵?は消えていた。火球に当たったらしく、血が数滴地面に滴っていた。

「逃げたか」

アルフィンは騎士を支えつつクィン卿のところまで連れて行き、騎士を救護班に引き渡して王城に戻ると、父の護衛が呼んでいた。彼と共に再び城内に向かう。



王城内は壊れて煤で汚れ、遺体があちこちに転がっていた。

さらに奥・・広間に二つの遺体が白い布を掛けられ、横たわっていた。

「・・王様とお妃様ですか?」

「ああ。良い王だったのに・・」

父であり皇帝であるアルフレドは片膝を着き、黙祷を捧げる。父に倣い、アルフィンも黙祷をした。



こうしてホウギョク崩壊事件は収束した、が。真相はこれから究明される事となる。

今も後継である双子が遺体ですら見つかっていないのだ。

攻め入ったバンゾクとも話合う事となった。



バンゾクの嫡男、ダイ・ズが語るには・・


国の為に金が欲しかった父王、バンゾク王はある男に拐かされたのだと。

「隣のホウギョクに攻め入れば、金が手に入る」と。

最初は一蹴していた父王だが、男は王に取り入り、遂にその気にさせてしまったのだ。

ダイ・ズと王女キナコは父王の暴挙を止めようとするも、父王はふたりを牢獄に閉じ込めてしまう。

妹キナコの従者がふたりを牢から出し、ホウギョクに向かうも既に王都は炎に包まれていたと。

燃え盛る王都に飛び込み、父王を捜すが・・・父王は背中を斬られて最早助からない状態だった。

「あの男に騙された」

そして二人に詫び、息を引き取った。


「父上。王城捜索の時に・・」

アルフィンは殺された男の事を話す。

オサリバンと言った事、逃げた人影は火球で怪我をしているだろう事も。


さて件のオサリバン伯爵だが、家柄も良く裕福で、近衛騎士団の団長で、金も名誉も手にしてる。仕事も真面目で、部下にも王家にも信頼されていた。姿も美形で背も高く、年齢は35歳だが独身。モテない訳でもない。

双子も見つからないが、この騎士団長も行方不明だった。

バンゾク王に接近した男がどんな容姿だったのか、ダイ・ズもキナコも見た事が無かったのでオサリバンなのかも分からず。


アルフィンの母、正妃は親友だったホウギョク王妃の死に深い悲しみに暮れ、すっかり塞ぎ込んでしまった。彼女にとってたった一人の親友だったのだ。

事件前は嬉しそうに「親友と親戚になれる」「これからは頻繁に会って」と、燥いで計画していた妻の気持ちを思うと皇帝もこのままでは居られず。


「クィン卿。其方に命ず。オサリバンを此処に連れて参れ。そしてホウギョクの王子と王女を探し出すのだ」

皇帝は直々にクィン卿に命じたのだった。






事件から約一年が過ぎ・・


改めて・・入学式に戻る。


アルバーンとアルルは皇立学術院の小学部に入学し、アルバーンの従者としてアルルが傍に控える事となった。


アルフィンの従者は、ホウギョクで保護したレビが、留学生キナコの従者はヨウヘイという名の平民が控える事となった。




こうしてやっと・・・本編が始まる訳だ。


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