梗概・王子二人
今日は大国『アライア皇国』の皇立学術院の入学式。
式典会場は大勢の生徒と親、そして式典招待客などで埋め尽くされている。近隣諸国の留学生も混ざった式には、嫡男である第一皇太子『アルフィン』が祝辞を述べるために出席していた。
彼が舞台に立つと、多くの歓声が上がった。国内はおろか、近隣諸国からも注目される皇子は大人気だ。
彼は中等部の1年だ。
今回の入学式には、彼の弟である第二皇太子『アルバーン』が入学生に混ざっていた。
小等部1年〜3年、中等部1年〜3年の6年間、学舎で学ぶ生徒達は、皆寮で暮らす。
12歳で入学し、18歳で卒業後は進学もしくは就職となる訳だが、生徒の大半が貴族階級なので、『自領の運営』が半数を占め、他は皇立魔法院などに進学か就職となる。就職先は皇立騎士団がやはり多い。
騎士団に就職する者の中に、エリートだらけの近衛術騎士団に就職する・・まあ就職者は長い歴史の中たった1人だったが。
大国『アライア皇国』の近衛術騎士団は、魔法が使えて剣も扱え、体術も出来なくてはならない。王族の護衛が主な任務であるのだ。馬も当然、飛竜にも乗れないと試験さえ受けさせてもらえない。ついでに言えば『容姿』も優れていなければならなかった。成る可くして成るエリート集団、それが近衛術騎士団なのだ。
アルバーンは卒業後は近衛術騎士団に入隊する気でいる。
将来は尊敬する兄の補佐をするつもりなのだ。
優しく優秀な兄『アルフィン』。兄は弟であるアルバーンをそれは可愛がった。
本当に仲の良い兄弟だった。そして兄は、アルバーンの恩人でもあった。
時を戻し、5年前・・
宮中の政権争いで、5年前にアルバーンは毒殺されかかった。
アルバーン7歳、アルフィン10歳の時だ。
大好きな飴の中に毒が仕込まれていたのだが、気が付けたのは本当に偶然だった。
飴が小さな子供にはちょいと大粒だった。勿論食べられないことはない大きさであったが・・
噛んで食べようとして、噛んだ勢いで半分が口から飛び出し、大きな弧を描いてカケラは金魚鉢に落ちた。
それを見てあははと笑っていた兄だったが、みるみる表情が変わり、弟に飛びかかり指で口をこじ開け、そのまま指を喉に突っ込んだ。
「早く吐き出せ!!アルバーン!!早く!!」
あまりにも強引だったので、彼は暴れて抵抗したが、兄は手を緩めなかった。胃の中のものが逆流し、口どころか鼻からも吹き出し、兄のビロードの上衣、床、そして兄の綺麗な顔にも飛び散ったが、弟の口から飴の破片が全部出るまでは手加減をしなかった。側にいた侍女や従者は皇太子の行動に驚くが、
「早くこの飴を持ってきたものを捕らえろ!!」
兄の怒号、言う意味に、瞬時に理解して行動した。
従者がちらと金魚鉢を見ると、金魚が腹を上にして浮いていたのだ。
犯人はすぐ判ったが、既に亡骸となっていた。どうやら飴を食べた様だ。
猛毒だったので、吐き出しはしたが、弟は体調を崩して3日寝込む事になった。
回復するまで兄は弟にずっと付き添った。
「ああ・・お前にまで・・私が守るからな、アルバーン」
弟の額を優しく撫でる兄の瞳からは大粒の涙がポタポタ滴って・・
弟はまるでクリスタルの様に綺麗な粒を、朦朧とした頭の中に記憶した。
「にいさ、ま・・泣かないで・・」
二人を見つめていた母親である寵妃は決意した。城を出ようと。
皇位継承など構うものか。二人の命より尊いものはない。愛する子供達を守るのだ。
兄皇子も、まだ幼い頃から何度も命の危機に見舞われていたのだ。
寵妃の目からポタポタと・・涙が止まらなかった。
優しく賢い自慢の子供達だ。それなのに大人の都合で翻弄されて・・
「いらない。皇位なんか、要らない。アルフィン、アルバーンがいてくれれば」
犯人など分かり切っている。正妃だ。
陛下と寵妃である自分は幼馴染で、周りも二人が結婚すると思っていた。
身分も相応だった。だが、正妃の一派に出し抜かれ、今の王妃と婚約されてしまった。
柵や思惑、派閥などに阻まれて二人は引き裂かれる事となったが、彼はなりふり構わず行動に出た。
不本意ではあったが、寵妃として彼女を先に後宮に送り、その後正妃と結婚はしたが、一度たりと寝室には足を踏み入れなかった。
『放っておかれた哀れな王妃』の憎悪は凄まじく・・呪いや呪詛の攻撃だけではなく、こうして暗殺まで企て来るのだ。自分だって何度毒牙にかかりそうになった事か。
涙を乱暴に手で拭い、きっと空を睨む。
そんなに皇位が欲しければくれてやる。陛下だって、くれてやる。
家族を守れない、守ってくれない陛下(夫)など要らない。
幼い頃から愛を育み、心から愛していた。だから我慢して此処にいた。だが、もういい。
寵妃は皇帝が贈った宝石もドレスも、幼い時に交わした思い出の品さえも、全てを置いて二人を連れて城を抜け出した。信頼する侍女一人と騎士一人、僅か2人を供にして。
辺境伯で近衛術騎士団の総団長、フォートレス伯爵は極秘に自分の領地に寵妃親子を匿った。
この時、寵妃は男装、王子二人も女装をする事にした。
身体の弱い親戚筋の男やもめと言う事にして、城下に住む事となった。
寵妃親子が辺境伯の領地に身を寄せて半年・・
「あれ?空き家に灯が点いてる!」
一人の子供がそっと窓を覗くと、可愛らしい女の子二人が父親といるのが見えた。
兄、いや姉が気配を感じ、窓を見た少女と目が合う。
「・・ん?あっ!誰だ!!」
姉『アルフ』は女の子とは思えない俊敏な動きで、覗いている子供を捕まえた。
「うわ、早っ!」
「見たな」
そして少し遅れて妹『アルン』が駆け寄る。
「に、ねえさん」
もう少しで『兄様』言いそうになるが、頑張った。まだ兄を姉と言うのに慣れない。
「ご、ごめんなさい。此処空き家だったから、気になって」
小柄な子供のした事だが、用心に越した事はない。あまり吹聴されては困る。
さて、どうしたものか・・アルフは僅かの間に思案し、ニコッと笑ってウインクをした。
「私達が此処にいる事は・・『秘密』にしてくれる?」
この言葉に、子供は目を輝かせた。
「秘密?」
「そう。秘密。守ってくれる?」
「内緒なの?」
「そう。な、い、しょ」
唇に人差し指、『しーっ』とする。
秘密で内緒。子供は秘密が大好きだ。
「分かった!・・あの・・また・・遊びに来ていい?」
ちらちらとアルフとアルンを見るが、返事をしない二人にしょんぼりとして、足元を見つめる。
私たちのことをあまり知られたく無いのだが・・モジモジとする子供をどうしよう。
『姉』が思案する数秒後、『妹』が返事をした。
「いいよ!遊ぼう!」
「おい、アルン!」
だが二人は手を繋ぎ、笑い合う。
「僕はアルン!君は?」
「ボクはアルル!」
え?
姉・・兄は目を見開いた。
名前の頭に『アル』を付けて良いのは、王家の男だけだ。父・・皇帝陛下も『アルフレド』だ。
(どういう事だ?)
まずはともあれ。
これがアルバーンとアルルが出会った瞬間であった。
話も徐々に増えてます。他の話も読んでちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
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