最初の村
丘にあったこの世界の自分の体で目覚めて死霊術師は今村に向かって歩いている。
その途中に魔物の死骸があったので、それを拾うことにした。
「村からそんなに離れてない場所に5種類の魔物の遺体。それが約50体分か。あの村の人は無事なのかな?」
そう思いながら鞄に入っている袋や試験管に魔物の血や骨や皮膚をしまった。
これらは死霊術を使えば色々なことに使える。
本気を出せば人から死の概念を奪うことも出来る。
それが自身に複数の残機を与えられる死霊術師なのだ。
「まぁ、死体からは私に残機を移せないからこのまま村に向かおう」
自分の体をいじられないから先に村の様子を見に行くことにした。
おそらくあの村はこの魔物達に襲われてるはずだから潰れてたら行く意味がなくなる。
草原を抜けて村に着くと、普通に人々は生活していた。
ただ、男達はかなりの傷を負っている。
そんな連中で一番偉そうな老人がこちらに気付いて近づいてきた。
そして、目を見て腰を抜かしそうになった。
「な、なぜ女神様の使いがこんな辺ぴな村に足をお運びになられたのですか?」
そう言われて疑問に思った。
女神様の使いとはどう言う意味なのか。
「とりあえず言っておくけど、私はあの女神の使いではないよ。目に印があるけど、これは加護のついでにもらっただけ」
「なるほど、女神フレイアはまたそんなことをなさったのですか。毎度毎度あの方は言葉の魔力でおもちゃを用意する。最低な方です」
その老人の話で詐欺にあったことを理解した。
でも、あの女神の力は本物のようだ。
目を見ただけで女神の使いをみんなが恐れている。
「こうなってしまったからにはあなた様も諦めて女神様の言うことに従ってください。世界のために我々も力を貸します」
「怖がってる者の言うことでは無いよね。私は女神と同じで命はおもちゃだと思ってるけど、ここにいるみんなを殺そうとは考えてないよ」
震えながら強がる老人の言葉に対してそう返した。
すると、余計にみんなが怯えてしまった。
その理由はすぐに分かった。背後に奴の一部が立っていたからだ。
「あー、女神は私をそんなに死なせたく無いの?安心してよ。この程度に負けないから」
振り返らずにそう言うと女神のカケラは姿を消した。
本当にこいつが女神の使いであることを理解して全村人が土下座して頭を下げた。
「何をしてるの?」
「女神様の使いの方、なにとぞ我々をお救いください。どんな手を使っても生き残りたいのです」
老人の「どんな手を使っても」という言葉に反応した。
自分自身がどんな手を使ってもこの人生だけは死なずに生き続ける。そう決めたから反応したのだろう。
「はぁ、どんな状況か話してよ。そうしたら女神の使いにされてたサテラがどうにかするから」
サテラに名前を変えて名乗った彼女は目の紋章を輝かせながらそう言った。
その目を見た村人達は喜んだ。
「それで、私は何をすればいいの?」
「えっと、私が村長のフランクです。ここに来るまでに魔物の遺体はご覧になったでしょう?奴らのせいで村の男達は使い物にならないほどにボロボロになってしまったのです」
「それを治せってこと?死霊術師にそれを頼むなんてすごい人たちだね。でも、やってみるよ。その代わりに家をちょうだい。あと、そこに作業中は誰も入れないようにして」
「かしこまりました。空き家はすぐそこにあるので好きに使ってください」
「それじゃあ、一番強そうなあんたから始めるよ」
自分の居場所を手に入れる。
サテラは力を恐れながら哀れんでくれる村長を気に入ったからここのために動こうと決めた。
それで、サテラは自分の家を手に入れて、そこで手を消毒したり準備をしていた。
ここを女神フレイアの使いの住処にするなら、本気で村一番の力持ちを治す必要がある。
少しでも守りを固まらないといけない。
「あの、本当にこの村に住むんですか?」
「なに?女神の印を背負ってる奴に居られるのが嫌なの?」
「いえ、あの方が助けてくれるとは思わなくて。何度か使いを世界に寄越してくるんですけど、毎回問題を起こして女神自身に怒られてるんです」
処置の前にそんな話を聞かされてクスリと笑ってしまった。
あの女神なら選ぶのが変なのになるのも納得がいく。
それでも今回の自分はそいつらとは違う感じで転生させられたことを態度で示した。
「さて、準備も終わったから始めるよ。治療魔法じゃなくて、死霊術のゾンビ作成の応用で腕をはやすから痛くても我慢してね」
そう言うと患者に欠損した右腕を出させた。
まだ生々しい切られた痕のある場所の包帯を取ると早速術をかけ始めた。
「血肉をかの者に与えよ」
たったそれだけを言うと鞄から取り出した魔物一部が細胞レベルでばらけて彼の傷にくっつき始めた。
その時、再生させるのに体が拒否反応や、神経を無理矢に理繋げることで激痛が駆け巡った。
そのせいで大きな声で悲痛な叫びを上げ始めた。
「我慢しなさい!痛みで死んだなんて情けないでしょ!」
そういう激励もしてあげた。
時々そうしてあげることでどうにか8分で処置を終えた。
「お疲れ様。その腕は完全に別物だけど違和感なく使えると思うよ。てか、前以上に性能はいいはず」
出来た腕があまりにも綺麗なので彼は見とれていた。
それから激しく振り回したりして本当に動かせるかをチェックした。
しばらくして次の準備に取りかかっていたサテラに彼は頭を下げた。
「こんないい腕をくれるなんてありがとうございます!女神様もたまにはいいことをしますね」
そう言うと彼はサテラに何も言わせず出て行った。
そして、無くしたはずの腕の綺麗な再生を見せびらかした。
「あれって魔物が原料なんだけどね。まぁ、下手に血や魔力を摂取しなければ目覚めることはないか。何かあったらまた改良するまでだよ。さて、後12人もパッパッと終わらせよう」
その後、彼女の家で悲鳴を響かせながら12人が足や目といった部分を再生してもらった。
正確には創造の方が正しい。
その作業を終えた頃には日が暮れていた。
今晩の夕食はどうしようかなとサテラが思っていると村長がやってきた。
彼は一応年上なので術のためにまとめていた髪をほどいて対面した。
「今日はありがとうございます。よければ私の家でお食事しませんか?」
村長は腰を低くしてサテラに感謝とお誘いをした。
最悪魔物の肉を食べて夕食を済まそうとしていたサテラには願ったり叶ったりだった。
「是非ともお願いするわ。来たばかりで食事のことを考えてなかったのよ」
「では、食事が冷める前に参りましょう」
今晩はまともな物にありつけそうでわくわくしながら村長の後を付いて村長宅に向かった。
木造の家ばかりの村の中でもその家はとてもしっかりしていて魔物の襲撃にも耐えられそうだった。
そんな家に入るといい匂いが死体によく囲まれるサテラの鼻に広がった。
「いい匂いね。こっちの料理は女神に送り込まれたばかりで知らないんだけど」
「今晩は鶏肉と野菜のスープとウシブタの串焼きとパンです。お口に合えばいいのですが」
そう言いながら村長は食卓の自分が座る席の対面をサテラに勧めた。
そこにサテラは嬉しそうに座った。
それから村長は着席する前に井戸からくんだ水をカップに注いで自分の所とサテラの所に置いた。
他に足りない物がないかを入念に確認して着席した。
「さて、いただくとしましょう」
「そうだね。いただきます」
どうやらこの世界に「いただきます」を言う文化はないようだが、サテラはあの女神に感謝を込めてそれをした。
村長はその行動が不思議なようで尋ねてきた。
「あの、申し訳ないのですが。その手を合わせてそれを言う行為にはどんな意味があるのでしょうか」
「これは私の母国の儀式みたいな物で、食事の前と終わりにそれぞれの言葉を言って感謝を伝えるの。手を合わせる行為自体が祈りを意味してるから、そこに神様と食べ物への感謝をする。その両方のお陰で私達は生きれているのだから失礼の無いようにするのよ」
長々とあの行為の説明をしてあげると村長は感銘を受けたようで真似をした。
すると、生きてることへの感謝が芽生えて泣き始めた。
その時だけ村長の背後に死んだ奥さんが現れて優しく微笑むようになった。
「村長さん、あなたの背後には亡くなられた奥さんがいます。生きてることに感謝して長生きしましょう」
「はい。ありがとうございます」
こうしてようやくサテラは夕食にありつけた。
それからおじいさんと子供の食事は静かに進められた。
量はそんなに多くないのでサテラはすぐに食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
また手を合わせてそう言うと、後から食べ終えた村長も真似をしてそう言った。
その後、食後に村長が大事な話をしそうな顔をした。
サテラはそれが本命かと理解して聞いてみた。
「村長、何か言いたいことがあるなら言いなさい。私は諦めて女神のおもちゃを認めたのだから、頼みたいことを言っても失礼にはならない」
サテラが真っ直ぐに村長を見てそう言うと、彼は言いにくそうな顔で話してくれた。
「では、数日前の魔物の襲撃で死んだ者達の遺体は好きにしていいので、この村を治めていただきたい。そして、村を守ってほしいのです」
「元々そのつもり。頼まれなくても女神フレイアのおもちゃとして守ってやるさ。でも、報酬の死体はもらうよ。死霊術に死体はつきものだからね」
「では、墓に案内します」
村長はこの話の流れですぐに出かけることにした。
サテラは夜の暗い中でどうやって行くのかと疑問に思った。
その時、村長は光の魔法で照らせることを見せてきた。
それで納得がいった。
どうやって暗い中を歩いて墓まで行くのか。