女神のおもちゃの転生
私は元々別世界に生きていた。
でも、同級生にいじめられて親にも見捨てられてた。
「お前は不気味だ」「居なければいいのに」と私は言われてきた。
だから、自殺を選択して高い場所から飛び降りた。
「くふふ、遺書にはあいつらが悪いと書いておいた。自殺の死者と生きてる無自覚者、警察はどっちを選ぶかな?どうでもいいけど」
私が最後にあの世界に残したセリフだ。
それを言ってからまっすぐにあの世を目指した。
それなのに、神様は余計なことをして私を拾ってしまった。
「行かせませんよ」
そんな美しい声が聞こえると同時に体が蝶に変わってバラバラになった。
そして、あの声の持ち主である女神の元に連れて行かれた。
その女神の空間で私はしばらくして目が覚めた。
飛び降りをしてたからその間に意識をなくしてたのかもしれない。
「目覚めましたか。まったく、もったいないことをするところでしたよ」
意識がまだはっきりしていない私でもそれがどれだけの存在なのかすぐに分かった。
美しいピンクの髪に可憐なそのお姿、その周りを飛び回るたくさんの蝶、これが女神なのだろう。
「えっと、私は確か飛び降りたはず」
「それが才能を消す行為だったので、あなたがうまく生きていけそうな世界に連れて行くことにしました。迷惑ならこのチャンスを捨てればいいです」
最初は女神の言ってることなんて理解できなかった。
私の死を武器にできる力は普通の世界において迷惑なだけ。
霊を操ったり、ゾンビを作り出したり、寿命を犠牲に何かをしたり、そんなことは超常現象で否定のために消されるだけ。
何でそんな力が才能だと、役立つと言うのだろうか。
「あっ、そういえば言ってませんでしたけど。この私の周りを飛んでる蝶は魂ですよ。あなたのような選ばれし者を苦しめた方々への罰です」
そう言われた途端、その蝶の正体が親やいじめてきた同級生であると分かってゾッとした。
短時間でこの女神は30人の命を奪ったのだから。
「あっ…えっ...?」
驚きのあまりちゃんとした声を出せなかった。
その様子を見た女神はニヤリと笑って近づきながら蝶を一体ずつ握りつぶした。
「混乱するのも分かりますよ。でも、その力なら世界を征服するのもたやすいでしょう。私の言うことを聞いてくれますか?聞いてその才能を活かしてくれれば、私はこの場であなたを消すことはありません」
余計に何を言ってるのか分からなくなった。
でも、この場で私は言うことを聞かないと死ぬまでに苦しむことになりそうだ。
しかも、最後の一体を潰すと目の前に立って指パッチンをした。
その瞬間から潰された30人の断末魔が響き渡った。
そんな風に追い詰められれば逃げ場なんていうことを聞いて異世界に行くしかなくなる。
「さて、もう答えは出ましたよね?なら、おまけに尋ねます。普通に異世界ライフをエンジョイできるが私の力は得られない。もう一方は異世界ライフを楽しめないけど私の力ですぐに征服できる。これならどちらを選びますか?」
邪悪な女神は最低なことをして最悪な選択を迫ってきた。
もう怖くてそんなのをじっくり選んでる余裕なんてなかった。
それでも、この女神に力を借りればどうなるかくらい予想できた。
「力なんて借りない!私の死霊術だけで十分だ!」
そう答えると女神は真顔になった。
私の言うことに従えないなんて悪い子だ。とでも言いたそうな目で私を見下ろした。
その目に怯えながら私は精一杯に力を振り絞って恐怖を耐えた。
「まぁ、いいでしょう。その代わり、これから行く世界で簡単に死なないように私の印を刻みましょう」
そう言うとまた指パッチンをした。
その瞬間、両目に激痛が走ってその目を悶絶しながら押さえた。
その痛みが引いたところで女神は私に対して静かに言った。
「これであなたは私に守られる。加護を与えてあげたのよ。感謝されても恨まれたり睨まれる道理は無いわ」
冷たく笑う女神、私は憎くてしょうがなくなった。
でも、いくら力を使ってもこんな何でも出来そうな力には勝てる気がしなかった。
「うふふ、お似合いよ。地べたにはいつくばる無様な姿と私の蝶の模様が入った目」
そう言いながら奴は私に鏡を見せた。
そこに映る私の目は両方に赤い蝶が簡単な書き方で存在していた。
視界に影響はないが何か特別な力を感じる。
化け物だから分かることなのかもしれないけど、これが女神の送り込んだ証拠になるのだろうと思う。
「少しでも生に未練を残すんじゃなかった。おかげで悪魔のような女神に捕まったからね!」
「あら、生に未練が無くても私は拾いましたよ。死霊術師を死なせるなんてもったいない」
最低な女神め!私はそう思って睨みつけた。
それでも女神は意に介さないという感じで不気味に笑った。
それから空中にふわりと浮かんで奴は説明を始めた。
「さて、あなたはこれから行く世界で支配する必要がある。やり方は任せるけれど、そこでうまく自分の支配地を獲得しなければ死霊術師なんて勇者に斬られて終わり」
「なら、私が行くべき世界じゃないんじゃないの?」
「残念だけど、そこでは自由に力を使えるから勇者や騎士は簡単に殺せる。ただ、その裏に王家や貴族がいるから邪魔をさせないために人望や味方を作る必要があるの」
「なるほど、女神様の思惑通りではないけれど、結局は世界征服する勢いでやらないと生きていけないわけね」
「そういうこと。味方を集める手段として、あの世界にはたくさんの問題が転がってるから全部解決しなさい」
「分かりやすくていいね。先に装備とかは支給してくれるの?」
「私の紋章を背負う体だから、もちろん過保護に守るためにあげますわ。だから、すぐにでも行ってらっしゃい」
しばらく女神から色々と教わった。
それが十分だと女神が判断して私の後ろに立って背中を押した。物理的に。
そうされると私はなぜか落ちる感覚で異世界に転生させられた。
いや、もしかしたら死霊術師だからアンデットになったのかも知れない。
そんなことはなってみないと分からない。
落ちる感覚がした時に思わず目を閉じていた。
その感覚が無くなったのを感じるとそっと目開けた。
すると、私は仰向けで横になっていた。
「あー、これは生きてるね。しかも健康状態的に私じゃない体で」
死体を隅々まで見える目を私は持っている。
それを応用して見れば生きてる人間でも中を覗ける。
それで見た感じだと私の持ってた喘息はなさそうだ。
つまりはこの体が自分であって自分じゃない証拠を見つけたということだ。
「ていうか、術で客観的に見ればいいんだ」
そう思った私は無詠唱で視覚を繋いだスケルトンを呼び出した。
その目によると、長い銀髪で綺麗な顔、15才くらいの見た目で両目にはしっかりと女神の印が入っているらしい。
その体には女神がしっかりとくれたキラキラな服が着せられている。
女神のプレゼントはどれも一級品のようで、死者を扱い安ように細工もされてるようだ。
「あの女神にしてはいい物をくれるじゃん。しかも、向こうじゃ手に入らなかった杖までくれるし、邪悪だけどそこまで悪い女神じゃなかったのかな」
肩にかけられていた鞄の中から黒に赤の線がデザインされた小さな杖を取り出して女神の評価を改めた。
全てが豪華になった私、死んだ金剛リンネは新しいライフを楽しむことにした。
そのためにまずはスケルトンを片づけた。
それから杖で自分の心臓に魔法かけた。
「さて、今度は死なないようにしないとね。まずは心臓を取り出して疑似心臓に入れ替えないと」
そう言いながら元々ある心臓とあいた手の上に一瞬で作った疑似心臓を入れ替えた。
出した心臓はグロいのですぐに鞄にあった箱に入れた。
これで箱が潰れない限り死ぬことはない。
「成功したけど偽の心臓がやられても生きてて相手が驚くのは一度だけ。気づかれて探されたら死を覚悟する必要がある。でも、多くの命の上で生きるのならここまでしないと申し訳ない」
結局ここまでしても死ぬには死ぬ。それでもないよりマシくらいの処置なのだろう。
「さて、今いる場所を気にしてなかったけど、ここどこ?」
小高い丘の木の下で色々してたけど見られてたらただの変人に見えただろう。
そう思われる自信がこんな世界でも私にはあった。
それでも生きるためには人を頼らないといけない。
だからひたすら辺りを見渡した。
そして少し離れたところに村が見えた。
「おっ!いいところに発見!早速行こうかな。付くまでに新しい名前を考えよ」
そう言いながら目的に向かう準備をした。
心臓は新しい血の結晶体の疑似心臓にしたので機能を確認する。
体を動かしても平気なことを確認したら、今度は本物の心臓が入ってる箱に耐衝撃とかの魔法をかけた。
これで準備が出来たので、異世界での第一歩を踏み出した。
そのまま歩いて村を目指した。
ここから騒がしくなる。死霊術師、つまりネクロマンサーの新人生の始まりだ。