【小ネタ】公爵令嬢の懺悔
彼女が王太子からの茶会から戻ると、ルクハルトがバタバタと駆けてきた。幼くも賢く冷静な義弟には珍しい。
「義姉さま! いつもより帰りが遅いと聞いて心配してたんです」
よかった、と安堵の息を吐く義弟の姿に、彼女の胸はキューンとするような、ギューンと痛むような、そんな思いがして、彼女はまだ自分よりも小さな義弟を抱きしめた。
「ねっ、義姉さまっ?!」
あたふたと慌てる義弟を胸に抱き込むように、彼女はさらに腕に力を込めた。
これがもし、十年後であれば胸に義弟の顔を無理矢理押し当てる痴女令嬢の誕生だが、今は互いに五歳と四歳。ちまちました二人なら、微笑ましいロリショタ義姉弟の抱擁だ。あくまでも彼女視点に限るが。
「ごめんなさい、ルーク。義姉さま、ちょっと他の子に浮気しそうになってたわ」
「はい?」
「ええ。アーノルド殿下もそれはもう、べらぼうにかわいかったけど、ウチのルクハルトも大概かわいいわ!」
「アーノルド殿下……第二王子、ですか」
「ええ」
「まだデビュー前では?」
「お庭には出られるようになったそうよ。ちょうどお庭のお散歩の時間にわたし達がお茶会をしていて、遊びに来られたの」
「それは、いいのでしょうか……」
「膝に座って、お菓子を食べる姿がまたかわいくって」
「膝っ?! もしかして、義姉さまの膝に座らせたのですか?!」
「ええ。だって椅子が二脚しかなったもの。殿下を立たせるわけにはいかないでしょう?」
「それは、椅子を持ってくれば済む話では」
「わたしは地べたでも良かったのだけど」
「良くないですよ」
「そうしたら、アーノルド殿下が、わたしの膝に座ればみんな座れると提案なさったのよ。小さいのに賢くいらっしゃるの」
「なんで、それで納得するかな……」
「アーノルド殿下もルークと同じで、とっても健気な頑張り屋さんなの。ルークもこれから殿下方と会う機会も増えるでしょうから、アーノルド殿下と仲良くしてあげてね」
「ええ、まあ。あちらがそれを望むのなら、まあ、そうしますけどね」
まあ、多分無理でしょうけど。
という義弟の本音はもちろん彼女には聞こえなかった。