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【小ネタ】公爵令嬢の旅行業

インフルエンサー公爵令嬢

 アストリッヒ公爵家が王都に戻ってから、ティモス家はアストリッヒ公爵家の契約農家になった。だいたい公爵令嬢が原因だ。

 ティモス家で食べた黒パンやチーズの味を気に入った彼女は、自分でも麦を作りたい、羊を飼いたいと言い出したが、五歳の幼児にできるはずもなく、牧場が持てるようになるまでは、ティモス家の近くの畑の一角を彼女の名義にして、普段はティモス夫妻が管理して、収穫時期に彼女が訪問して刈り入れを出来るようにした。そして畑の管理費として質のいい白小麦粉や肥料がアストリッヒ公爵家から贈られることになった。またそれとは別に彼女が王都でティモス家で食べた黒パンやチーズを楽しめるように定期的にティモス家から黒小麦粉やチーズを買い取る契約も交わした。結果的に、ティモス家は子爵だった頃より経済的に豊かになった。


 そして、アストリッヒ公爵家、特に『あの』薔薇の妖精姫が黒パンを食べているという情報が王公家を中心に広がり、王都では一気に黒パンブームがきた。

 もともと黒パンは、長期保存ができるように焼き固めたパン、つまり一度に大量のパンを焼いて保存することで、釜の薪を節約するという貧しい者が食べるというイメージがあり、裕福な貴族が口にするものではなく、王都のような都会ではほとんど流通していなかった。

 それが薔薇の妖精姫と同じものが食べたいと、黒小麦粉を買い求める貴族が増え、ほぼ自給自足であった北部の農夫も経済的に豊かになり始めた。またそれと同時に東都近郊に流出していた農夫たちがアストリッヒ公爵領北部に戻り黒小麦の栽培を始め、鄙びた村にも活気が戻ってきた。

 そして王都の貴族が黒パンを食べ始めたことで、黒パンの調理方法についての研究が盛んになった。

 独特の酸味をまろやかにするために、単なるチーズやバターだけではなく、香草や野菜などを混ぜて味付けしたチーズやバターに、ハム、レバーをはじめ肉や魚介類をペースト状にしたスプレッドが多く開発され、また酸味を生かすために、果物を挟んだフルーツサンドも作られるようになったり、独特の風味がお酒のおつまみにもなると様々な場所で黒パンが使われるようになった。

 また、黒小麦粉だけではなく白小麦粉と混ぜる比率を変えることで、風味や食感が変わるパンになることからパンそのものの種類も増え、食生活がより豊かとなった。


 そして、『あの』薔薇の妖精姫が、『農業遊び』(遊びじゃないわよ!)を始めたことで、真似する王公貴族が増え、同じように空いた土地を買い、農夫を雇い畑を管理させるようになった。

 農村の経済が回り始めた一方で、年間を通して土地や人を管理する資力がない貴族もせめて彼女が気に入った村を見たいと旅行で訪れる者が増え、現地の食事を味わいたいと農夫に無理を言うものも出てきて少しばかり困ったことが起きているという。

「……オーバーツーリズム……」

 その話を聞いた彼女は遠い目をした。いきなり脚光を浴びる田舎。農村の人員だけでは処理しきれないだろう。そもそも彼らは観光業ではなく、農業関係者だ。

 まさか自分の行動でこんなことが起きるとは。彼女は頭を抱えた。誰がその情報を流したかなんてことは考えが及ばなかった。

 彼女の前世でも、観光客が商品を購入する「モノ消費」から体験型の「コト消費」に消費者の行動が変わって、体験ツアーが増えたというニュースがあっていた。

「農村で、都会の人間が、農業体験」

 これは完全に。

「農業民宿……」

「農業民宿? 何ですか、それ」

「農家とか農村の家とか宿に宿泊して、農業とか田舎の生活を体験できる旅行?」

「なるほど。そうですね。それを専門にした宿を用意すれば、混乱が少し落ち着くかもしれませんね。宿を経営する人間と、畑を管理して指導する人間を置けば雇用も生まれますし」


 そうして、ジュリア・フロス・アストリッヒ様ご考案の、「田舎暮らし体験の宿」は好評を博すこととなり、アストリッヒ公爵領の新たな産業として注目されるようになった。


「ジュリアのおかげで、北部の空き地問題と雇用問題が解消したよ」

「え、うそでしょ? リアの牧場地!!」

「ジュリアは牧場より観光立案をするのがあってるのかもしれないよ」

「待って! 私は牧場経営したいのであって、宿の経営がしたいわけじゃないの!」


「ウチのジュリアが最近黒パンにハマってるんだよ」

「なにっ?(ガタッ!!」

「あと農業にも興味を示すから、北部に小さな畑を買って、来年は麦の収穫をさせてあげる予定にしているんだ。来年の麦の収穫時は少し休暇を貰うことになるだろう」

「こうしちゃいられない! 我が家も早く畑の手配を!」



だいたいはおじバカ様方を扇動するパパ公爵のせい。



「牧場経営? ウチの子が本当にそんなこと出来るわけないだろう」

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