【小ネタ】公爵令嬢と慈悲深き女神の娘像
「ジュリア! 一体お父様のプレゼントの何が気に入らなかったと言うんだ!」
何がって、強いて言うなら「量」だよね。
泣きそうな顔で詰め寄ってくる父親に、彼女は小さな溜息を吐いた。
「気に入らないものなんてありません。ただ、同じようなぬいぐるみを何体も持っていても、全部のぬいぐるみと遊べるわけじゃありません。遊ばれることのないぬいぐるみなんて、ぬいぐるみがかわいそうじゃないですか」
「そ、それはそうかもしれないが。これは、ジュリアのために用意したものであって」
「ええ。そうですね。この子たちはリアのぬいぐるみです。でもリアは、リアのぬいぐるみには幸せになってほしいのです。ぬいぐるみの幸せは、子供たちに遊んでもらうことではないですか? だから、リアは、このぬいぐるみを喜んでくれる子たちのもとにこの子たちを送り届けたいのです」
何の話をしているのかというと、彼女の元に贈られた大量の犬と馬のぬいぐるみの処分をめぐっての話だ。
王公各家から、それぞれ一体ずつ贈られてきたのならまだしも、各家から大量に――彼女の部屋がぬいぐるみで文字通り一杯になるほど贈られてくれば、どれだけ素晴らしい出来のぬいぐるみであろうとも流石に辟易とするというもの。飾るにしろ遊ぶにしろ捌ききれない数だ。
それならば、と孤児院に贈ろうと提案したら、パパ公爵が駄々を捏ねるに至ったと言うわけだ。
「お父さまと使用人の皆さんと、それから王家と公爵家のおじさま方から贈られた大切なぬいぐるみです。それぞれ一体ずつはリアの手元に置いて大事にします。それ以外の子たちは、他の子どもたちのところで幸せになってほしいのです」
そうして何とか父親を説得して、彼女は大量のぬいぐるみを寄付することに成功した。
最高級品質のぬいぐるみを惜しみなく分け与え、それだけではなく、ファビュラビットを保護する教会に対して、保護費に充ててほしいと質の良い宝石をいくつも寄附したジュリア・フロス・アストリッヒ公爵令嬢は、教会内で「慈悲深き女神の娘」として密かに信仰の対象となり、花の女神像の隣に、薔薇の花の中で微笑む「慈悲深き女神の娘」の像として奉られることになるのだが、これは彼女の知らぬ話である。