【小ネタ】公爵令嬢と刺繍入りのハンカチ
ソルクロット王国の第二王子、アーノルド・フォス・ソルクロットは過ごしやすい美しい秋晴れの日に三歳の誕生日を迎えた。まだ公務デビューを果たしていない、それも王太子ではない第二王子ともなれば国賓が祝いの品を持って列を成すということはなかった。それでもアーノルドの機嫌は良かった。
「お誕生日おめでとうございます、アーノルド殿下」
美しいカーテシーを見せ、祝辞を述べるのはこの国唯一の公爵令嬢であるジュリア・フロス・アストリッヒ。薔薇から生まれた妖精姫と呼ばれるほど美しい少女だ。
「リアねぇさま!」
無邪気な子供を装って抱きつくアーノルドを、彼女は嬉しそうに抱きとめる。
「お祝いの品を持ってきましたの。受け取ってくださいますか」
「うん! ありがとう、リアねぇさま! 開けてもいいですか?」
「はい。気に入っていただけるといいのですが」
開いた包みの中から出てきたのは、光沢の美しい白絹のハンカチ。そこに、彩やかな碧色の糸で猫の刺繍が施されている。
「この刺繍はリアねぇさまが?」
「はい。まだ簡単なものしか刺繍ができないんですけど。かわいいかわいいアーノルド殿下を想ってひと針ひと針刺繍しました!」
「ありがとうございます。リアねぇさまみたいにかわいいネコさんですね!」
ネコさん……!
かわいいショタのかわいい言い方に彼女はキュンキュンとした。
「猫……?」
彼女に付いてきた、アストリッヒ公爵家の養子、ルクハルト・アストリッヒがアーノルドの言葉に眉をひそめた。
「義姉さま、もしかして、僕にくださったハンカチは」
「ええ! アーノルド殿下とお揃いの猫ちゃんのハンカチよ!」
ルクハルトにはブルーグレーの糸で猫の刺繍をしたものを渡している。彼女にとって二人はかわいい弟だ。そんなかわいい弟達がお揃いの猫ちゃんのハンカチを持っていると思うだけでキュンキュンする。
「二人とも喜んでくれて嬉しいわ!」
かわいい弟分が二人とも、スン――と真顔になっているのに気づくことなく、彼女はにこにこと嬉しそうにしていた。
「お前、持ち上げて落とす天才だな」
そんなやり取りを見ていた王太子、アレステア・フォス・ソルクロットが呆れたように呟いた。
「で、俺には」
「は? 勿論ないですけど」




