はちわ
「そそそそーいえば安藤君はど、どうして家に?」
3回ほどフリーズを経て一瞬無限ループって怖くね? と呼び方を桜井さんに戻したところ、正常起動した桜井さんからそんな質問をされた。正直桜井さんで遊……もといコミュニケーション、まあそんな感じのあれそれが面白すぎて初志を忘れていたところはある。
「そうそう、僕ゲームとかアニメとかに興味があるんだけど全然わからなくてさ。桜井さんなら教えてくれるかなって思って」
オタク文化を楽しむには必要な前提知識が多い。例えば何かのパロディなどのネタは元ネタを知らなければさっと流してしまうが、元ネタを知っていればギャグとして楽しめるとかである。つまりそういったネタの解説役などになって欲しいというのが当初の目的であった。
ついでに言えば通信機能の付いたゲームとかで対戦協力プレイをしたりとか、そういった友人関係を構築したいという思いもあった。今もその思いは変わらずに残っているが、それ以上に桜井さんで遊ぶのが愉しくて一瞬忘れていた。これはいけない。
「あ、そ、そうなんだぁ。じゃ、じゃぁさ――」
「うんうん」
「それから――それで――」
「ふんふん」
「とりあえず――」
「おおー」
ゲームの話題になった桜井さんは正に水を得た魚のようだった。最近販売のゲームの話からそれの古いナンバリングの名作、ジャンルに関してもいくつか初心者向けと題して紹介してくれたし、実際に簡単なパズルゲームを協力して遊んでみた。
「ここかな?」
「そう、そこ! そこにはめて!」
「おーこれは気持ちいい「何してるのかなぁ!」」
ガチャリとドアが開き、飲み物を乗せた盆を片手に入ってきたのは桜井さん母であった。こういうの漫画で見たことあるわ。実際に突入される側になると正直びっくりしかしない。別にやましい事は何もしてないわけだし。なおテンパっている桜井さん親子は一体何を想像したんですかねぇ。
「ゲームしてただけじゃん! 急に入ってこないでよ!」
「あ、あらごめんね? でも若いのに間違いとかあったら駄目だし、飲み物くらい出さなきゃ」
「わかったから! 大丈夫だからほらもう出てって!」
奪うようにして盆を丸机に置き、桜井さん母を追い出して鍵をかける桜井さん。重ね重ね信用の低さに心の笑顔メーターが急上昇である。明日腹筋痛くなってるんじゃないだろうか。