ごわ
放課後の図書室。屋上や校舎裏、あるいはファミレスなんかも考えたけど没にした。屋上は開いてるか知らないし、校舎裏はなんだかいいイメージはしない。カラオケやファミレスにいきなり誘っても存在しない用事で断られるだろうと踏んだ。
「そ、その、相談ってな、何かな?」
「うん、桜井さんってゲームとかする?」
まずは軽くジャブ。少し固まった桜井さんの内面は手に取るようにわかる。正直に答えるべきか誤魔化すべきかの葛藤だろう。相手が興味を持っているのだからもしかしてという期待と、正直に話して馬鹿にされたり引かれたりどっきりだったっりしないか的な。
「ま、まあ普通にっ! 人並みにはするかなっ!」
「そう? 良かった」
微笑ましくなるほどの回答である。視線の泳ぎ方といい、答え方と言い、満点と言えるほどだろう。
「それとさ、アニメとか見る?」
鋭いジャブ。一度簡単な質問に答えている的な心理学的効果を期待しつつ。
「ぇあ、ま、まぁ少しくらいなら、ぅ……見る、かなぁ」
ビンゴである。この反応でオタクじゃない事があるだろうか、いや無い。自分では完璧に当たり障りのない返答が出来た的雰囲気を醸し出す彼女は正にテンプレートなライトオタクである。本人的には上手く誤魔化せてる的な表情が最高にクールだ。自然と頬が緩む。
「良かった、じゃあ今日遊びに行ってもいいかな?」
「ウェ? う、家に?」
これは放置すると何らかの理由を付けて断るタイプの反応だ。つまり強引にOKを取りに行く必要がある。まあ元の世界的に考えてみれば男がいきなり女の子の家に遊びに行っていいか聞くとかちょっとアレだが、こちらの世界基準で言えばそこまでアレな感じではないだろう。
まあこれが物凄くキモイ不衛生ハゲデブ的生命体がやったら確実にアウトだろうが、これでも自分で言うのもなんだが顔はそれなりに整っている方だと思っている。それなりに運動も出来る方だし、まあ絵面でいえば犯罪にはならないんじゃないかなぁという打算はある。
まあつまり、横に振られそうになっている手を机に乗り出してぎゅっと握った上でこう頼んだところで許される側の人種なのである。
「お願い、僕に出来る事なら何でもするからさ」
「にゃ、にゃんでもすりゅっ?」
噛みながらもごくりと唾を飲み込む人間なんて本当に居るんだなぁ。