さんわ
学校への距離よりも駅や商店街へのアクセスを重視した結果としてそこそこの距離となった通学路。とはいえ電車などは利用しないため遅刻などが起こるなら単純に寝坊などになるだろう。入学式早々に遅れることも無く、案内通りに自分のクラスへと辿り着く。
ざわざわと騒がしい人溜まり。元々の友人なのか親しげに話をする数名を除けば、騒がしくしているのが女子であるというのは違和感を感じる。出身こそ地方都市だが別に10人のいくつかの学年を纏めて一クラスにしているような田舎では無かったのだ。
馬鹿話やゲームやアニメの話題で盛り上がった彼らは最早存在せず、更に物理的に距離が出来た以上この場で話すことは出来ない。流石に初日から電話し続けるとかダメな方の高校デビューだろう。といってもこういう状況で何が良くて何がダメかなんて理解できないけど。
特に中学の時と変わりない入学式が終わり、教室に帰ってきて自己紹介が始まる。名前順になった座席的に考えれば最前列の入り口という場所から考えて当然の様に最初に当てられたのは僕だった。何も考えていなかった上にどういった挨拶が普通なのか分からない。
「安東悠です。趣味は料理です。これからよろしくお願いします」
当たり障りのない挨拶をする。どこからとなくよろしくーという声と拍手。それからの自己紹介は全体としてチャラいのは女子、大人しめなのが男子といった雰囲気。まあ女子にも物静かな人間はいるし、男子にも馬鹿っぽい奴はいる。有名高校といっても別に全員ががり勉眼鏡という訳ではない。
そんな挨拶がよろしかったのかよろしくなかったのか。誰とでもそれなり程度には会話するものの、仲良く話す相手、というか友人と呼べるほど親しく付き合う相手が出来なかったのは、別に僕自身の気質が悪かったわけではないと思いたい。
どことなく別の生き物のように思える、日常での些細な違和感。元々親しい人間の居ない環境。噛み合わない話題。原因なんて探せばいくらでも出てくるが、だからと言って既に手遅れとなりつつある環境に一石を投じる勇気はない。
気が付けば休み時間にも教科書とにらめっこ。悲しい時間だけが過ぎていた。