じゅうにわ
米俵と言えば大体60kgらしいが、なんでその重さになったかと言われれば大体の労働者が持ち上げて運べる最小単位だったかららしい。何故そんな話をするかと言えば、つまり米俵より軽い桜井さんを持ち上げて運ぶ程度は労働とすら呼べない朝飯前の行為ということだ。
しかも僕の今住んでいるアパートは学校よりも駅の方が近い。というかほぼ目の前のようなものだ。つまり桜井さんを抱えて走ったのは5分にも満たない程度である。幸いにも休日の朝の微妙な時間帯故に目撃者はそれほど居なかった。これが誘拐なら中々の手際だろう。
「着いたよ、桜井さん」
「あっ」
玄関前で桜井さんを降ろすと、どこか残念そうに声を出す浮かれ桜井さん。こちらとしても残念であるのでこれは引き分けだろう。桜井さんの割には中々の勝負だ。と、ここで起死回生の一手を思いつく。男女の待ち合わせと言えばまずは容姿に関してコメントしてしかるべきだろう。
「そういえば桜井さん私服はパーカーなんだね」
「ひぅっ」
便利だよねパーカー。着やすいしねぇ、わかるとも。そう思っていたらどうも桜井さんは気落ちしたようだった。別にジャージパーカーは僕としては問題ないと思うんだけど、高校生がする格好にしてはダサいとかだろうか? 上下黒じゃなければ良いと思うんだけどなぁ。
「別に似合ってないとかじゃなくて、お揃いだねって」
「ひぇ? あ、そそそそうですね! えへ、えへへっ!」
嬉しそうに指先を揃える桜井さん。胸周りはぱっつぱつの癖にダボついているパーカー袖の先からちょこんと出ている指先を胸の上で揃える光景は、その顔の何とも言えない残念さを漂わせた緩み方と相まって僕の心を笑顔にしてくれる。
「とりあえず上がってよ、狭いとこだけど」
「おおお、お邪魔しましゅ」
玄関を上がってすぐに通路の半分を段ボールが占拠している通路を行って少し、生活空間へと到着する。アパートの3階故にベランダはそれなりに景観も良く、雨でなければ布団や洗濯物を干すようにしている。今日は来客もあるので干してるのは布団だけだが。
「ほ、ホントに一人暮らしなんだ……ほぇー」
「今飲み物出すから適当にくつろいでて」
来客に備えてオレンジ、りんご、ぶどうジュースを取り揃えておいた僕に敗北は無いと思っていただこう。紅茶やコーヒーだと党とかあるから、アイスティーしか無い状況など戦争の苗床に違いない。まあ桜井家で出された飲み物が全て果物ジュースだったことも関係してるけど。
図は概略ですが、なまらすげぇ良いとこ住んでない? 僕もそう思う。デカいディスプレイとかもあるんだぜここ。
まあ事故前の住む予定地に比べて『大分』グレードアップしてます。バイトの保証人についての電話を入れたら仕送りが増えたりとか。まあ高校生の息子が一人暮らしとか心配だから仕方ない。(世界観に関する重篤な汚染)
多分アルバイト先でなんやかんやのIfルートとかあったかもしれない。無かったかもしれない。