じゅういちわ
翌日の朝、駅まで桜井さんを迎えに来た。駅前の木陰のベンチに腰掛けながら春後半の陽気にのんびりと過ごす。もしこれがどうせ近所だからと適当なシャツ一枚だった場合は既にナンパされていただろうが、僕はそれなりに学習する生き物なのでパーカーのフード着用である。
……夕食の材料を買いに行った繁華街で度重なる声掛けを体験した僕に、最早死角は無いと思っていただこう。まあ夏になったら多分普通にラフなシャツで出かけると思うけど。おしゃれには気合が云々っていうのはこういう事だったのかなぁ(多分どころじゃなく違う)。
そんな訳で、とりあえずスポーツジャージにパーカーとかいう休日に女の子と待ち合わせをする格好にしてはふざけている格好でベンチに腰かけていると、駅の改札から下ジャージに上パーカーの桜井さんが出てきた。今日も朝から僕の腹筋はゴキゲンだぜ!
「おはよう、桜井さん」
「ひぁっ! あ、おおおおはようゴザイマスぁぁ安藤くっ、み”!」
軽く手を振りながら挨拶をすると、最初知らない人に突然声を掛けられたコミュ障みたいな反応をした桜井さんが、いつも通りにどもりながら挨拶を返してこちらに歩こうとした結果、足元の点字ブロックに躓いて転びそうになる。まあ桜井さん足元見えてないもんなぁ絶対。
「大丈夫? 危ないよ」
「(コッチノホウガアビュナイヨォォォ!)」
幸いにも転ぶ前に抱きとめることが出来た。怪我をさせるのも怖いので、というか立ったままで受け止めようとすると下手をすれば足が当たりそうだったので、転ばないように伸ばした手をすり抜けるようにしてのハグである。むにゅりと胸板で潰れる柔らかさという暴力に対抗するべく、こちらも耳元で囁いておいた。これで相子だな。
あわあわと首の後ろで暴れる桜井さんの腕と、それに付随してむにゅっ、ふにゅっと感触を変える凶器。そのバストは実に豊満であった。胸の話してる時に使ってもその通りじゃんってあまりインパクトが強くないが、それ以上のインパクトを受けているためにニューロンが死滅していた。
「ごっ! ごごごごめんなさい安藤君すみません悪気があったわけじゃなくていやほんとすみません通報だけは勘弁してください」
「い、いや、全然大丈夫だよ!? とりあえず目立ってるし、行こうか」
「(……オワタ!)」
突き放すようにして離れる桜井さん。土下座する勢いで謝り始めた彼女に対してショックの抜けきらない影響で多少どもってしまう。周囲がざわつき始めたので移動しようと声をかけたが、涙目で青ざめている桜井さんは微動だにしない。くそ、通報されたら不味いが致し方なし。
「桜井さん、ちょっとごめんね?」
「うぇ!? ふぇ!? ぴぇ!?!?!?」
最初の声は僕の声に対する返事、返事? ……多分そんな感じ。二言目のはお姫様抱っこされたことに対する現実に追い付いてないときの桜井さんの声。多分最後のが現状を認識した桜井さんの動作音だろう。何回か聞いてるから多分あってる。
「よっと!」
「ぴゃぁぁぁ!?!?!?」
風になれ僕! 手始めに変に通報される前にこの場から去り家へと向かうのだぁ!
Ifルート:目指せアイドル、ナンパされてホイホイ、その他多数がカットされてる可能性? 筆者が観測してないんでしゃーない。今一華ちゃんを安藤君で遊b……甘やかすのに忙しいから!