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旦那と過ごした15年  作者: しずく
3/3

〜再会〜

中学校を卒業した私は、女子校へと進学することにした。

その高校は普通科が5クラス。生活デザイン科が1クラスの学校で、私は生活デザイン科に入学した。

生活デザイン科はいわゆる、家政科みたいなもので、被服の授業や調理の授業がたくさんあり、検定も受けられる。勉強嫌いで料理が好きな私には願ったりかなったりの学校だった。

3年間、担任も代わらないし、クラス替えもないから、先生との仲も良く、クラスメイトとの仲も自然と深まり、私はこの高校で一生涯の親友と出会うことができた。


高校卒業後は、デザイン科での被服の知識を活かせる会社へ親友とともに就職が決まった。担任の先生が見つけてくれて、最初は楽しく仕事へ通うことが出来ていた。

ただ、10ヶ月がすぎる頃、往復2時間の運転、早朝出勤、残業で22時帰宅が当たり前に…。身体を壊し、上司からの重圧。ごはんを食べても吐いてしまう日が続くようになった。一ヶ月で体重が10キロ減。病院へ行くと遠回しに仕事を辞めるよう言われてしまい、辞めることとなった。

会社出勤最終日に、仕事を見つけてくれた、先生に、お詫びに高校へ足を運んだ。

そこで思いがけず、アルバイトをしないかと、話をもらった。全く違う職種「看護助手」の仕事。この仕事がきっかけで、短期バイトを終えたあとに医療事務と調剤事務の資格をとり、本格的に就職活動を始めた私は、まずは経験を積みたくて、派遣社員として働く事になった。ただ、何故か事務で登録し面接へ行くと看護助手や検査員など…医療機関の経験は増えるけれど医療事務の経験は出来ないでいた。


そんなとき、たまたま、中学の同級生と、当時の先生に会いたいと話す機会があった。

私はこの時、ホームヘルパーの学校に通っていて時間に余裕があったし、年令も22歳。学生だったら卒業が決まる次期だった。

タイミング的には丁度よく、この友人と二人で幹事をして、クラス会を開くことにした。

このクラス会の幹事をしなければ旦那と付き合うことも結婚することもなかっただろう。


幹事をするということは、全員と連絡を取らなければならない。一人ひとり、電話をし、私を思い出してもらってから話をする。幸い、皆覚えていてくれたので、怪しまれずにすんだ(笑)

そのうちの一人が鏑木春人だ。

『次の電話は無礼者か…』

と思いながら電話をするとすぐに呼び出し音が止まった。

「どちら様ですか?」

「桜井ですけど、鏑木春人さんのお宅ですか?」

と聞くと、全く中学と変わらず

「夏実かぁ!覚えてるよ。なに?」

と相変わらずな感じだった。

私がクラス会について一通り話をし、電話を切ろうとすると

「今度メシ、行こうよ。機会があったらさ。」

と言われた。この時、彼氏がいた訳ではなかったし

「じゃーそのうち!」

と答えた。半分社交辞令だと思っていたし、

『鏑木とごはん…ナイナイ』と心の中で突っ込みを入れていたくらいだった。


それから数日後、クラス会の出欠確認のため、再度何人かにメールを送っていた。

「鏑木は?クラス会、来れそう?結構みんな来るよ?」

すると、割かし早くに

「大学休みの日だから行けるよ」

と返答が来た。正直、素直に嬉しかった。

やっぱり、皆で集まりたかったから。

私の学生時代一番好きなクラスだったから。

鏑木はあまり、皆とわいわいと騒いだり話したりするタイプではないと思っていたから。だから、少し『来てくれないかも…』と覚悟していた。来てくれると言われて、とても嬉しかったことは鮮明におぼえてる。

メールだったからか、話しやすく、クラス会とは違う話をした。成人式で会えなかったねとか、大学どうよ?とか。他愛もない会話。そうこうしてたら、

「明日空いてる?メシ行こうよ。」

と言うメールがきた。特に用事もなかったし

「いいよ〜明日ね。」

的な返信をしたのを覚えてる。


次の日、丁度私も仕事がお休みで、午前中だらだらとしながら、携帯をみた。

日付が2月14日…。

『マジかぁ。今日バレンタインデーじゃん。』

急いで着替えてチョコ買わなくちゃ。

何か、2月14日なのに手ぶらは申し訳ないような気がしてしまう、面倒くさい性分だった私は、すぐに買いに出た。ただ、当日だったから中々売ってなくて、結局、買うのに3時間、待ち合わせギリギリに帰宅した。


前もって

「近くまで迎えに行くから。」

と言われていたので、待ち合わせ場所までとにかく走った。

丁度、待ち合わせ場所に着いた時に、物凄い音の車が目の前で止まった。ヤンキーか?と、こわばったらまさかの鏑木だった。車がスポーツカーだったから音が凄かったのだ。見た目がスポーツカーっぽくないから私には全然わからなかった。そんなことよりも、ドアが開いて、

「よう!久しぶりだな。夏実。」

と話した鏑木は中1の鏑木とは違っていた。なんと、アルコールで、少しふっくらしてたのだ。

とりあえず、車に乗り、シートベルト。

少し走ったところにある、ファミレスに行くことにした。

よくよく考えたら、中1以来会って話す訳で、とにかく緊張が車に乗った途端に襲ってきてしまって、ファミレスに行くまで何を話したのかさっぱり覚えていなかった。

ただただ、早くついてくれ、二人だけの空間が耐えられない!と思っていたのだけを覚えてる。


ファミレスに着くと手前の席に案内された。

緊張で注文が決まらない。

でも、鏑木は全然変わらない。いつもどおり。

そりゃあそうだよね。

沢山の女の子と食事してきただろうからね。

結局、私はパスタを鏑木はステーキとリゾットを。

サラダとピザも頼んだ。

そんなに食べられんのか?と思っていたら、サラダもピザも二人で食べるようだったらしく、器用にお皿に取り分けてくれた。

とても慣れた手つきでサーブしている。びっくりして、おもわず、

「何でそんなにとり方きれいなの?」

と聞いたほどだ。

「イタリアンレストランでボーイのバイトしてたときに色々学んだ。取り分けとか、運び方とか。」

何か、意外だ鏑木が接客業。

だから、色々、気がつくのか。実は今に至るまで色々、気になる点があった。

車に乗ったとき、シートベルトを止めてくれたり、ファミレスで、扉を開けて入るの待ってたり、食事が来たら取り分けて、更にフォークを取ってくれる。どんだけだ!と思っていたから、接客業で丁寧な立ち振る舞いやエスコートを学んだらしい。


食事をしながら自然と中学を卒業してからの話になった。

「鏑木はどこの高校行ったの?」

「俺?高校行ってないよ。てか、一週間位でやめた。」

「?今大学生だよね?」

「そうだよ。3年。」

「ちょっと意味分かんないんだけど?」

「俺、大検取ったんだよ。だから高校行ってないけど、高卒みたいなもんなんだよ。で、高校辞めた後にいくつかバイトして、ちょっとしたことがきっかけで大学行って学びたくて、大学入学した。だから、普通なら4年だけど、俺はまだ3年生。」

他にも色々な話をしてくれた。

両親が離婚していること。

お父さんが亡くなったこと。

お姉さんがいること。

半分しか血が繋がってないこと。

母親との確執。

今は一人暮らしなこと。

手料理を食べたことがないこと。

他にも色々。聞けば聞くほど、辛くなったのを覚えてる。涙をこらえるのに必死だった。

何でこんな辛い人生、鏑木は、歩いてるんだろう?私に力になれることあるかな?

と思ったりした。

たんたんと鏑木は私に今までの話をかいつまんでしてくれた。この時の話を聞いて、鏑木がどうして、お弁当が買ったパンか無しだったのかがわかった。

私が、いかに恵まれていたのかと思った。

「夏実は?何してたの?高校どこだっけ?」

「私、デザイン科出たんだよ。いっぱい料理したから、同じ年の普通科よりはできる!はず!」

「マジかぁ!確かに、夏実は家庭科の授業だけは生き生きしてたし、成績良かったよな。」

「なんかムカつくけど、確かにそうだからまぁいいか。どうせ、家庭科しか出来ないですよ。」

「で、高校卒業後は?」

私は卒業後、アパレル関係に就職したこと。

看護助手をしてたこと。

医療事務の資格や調剤事務の資格をとったこと。

眼科で検査員をしていたこと。

など、色々話した。気がつくと、もう20時過ぎ。待ち合わせが17時半だったから2時間以上も話していることになる。


帰りの車の中は行きとは違って、全然緊張はなかった。完全に中学の頃の感覚になっていたと思う。

クラス会楽しみだね。みんなに会える!みたいな話をしてたような気がする。

ただ、鏑木の様子が何だか変。うん。とかそうだね。とか。『食べすぎてお腹痛いのかな?大丈夫か?』何て考えてた。そうこうしてるうちに、家の近くまで着いた。あ!チョコ渡し忘れてた。バックに入れていたチョコを思い出したのだ。ここ、住宅街だから、この車の音だと、止まっていると迷惑になるかなと思い、

「すぐ近くに車止められる所があるからそこに行ってもらってもいいかな?」

と聞くと

「うん。わかった。」

と了承してくれた。

駐車場について、迷惑になるからエンジン切って、

「ハイこれ、今日一応バレンタインデーだから買っといた。でも、今日気づいたから、もう、殆ど売ってなくて、こんなんしかなかったんだけどね。鏑木に義理チョコ渡すの2回目だね。」

「ああ!今日14日だったんだ。ありがと。」

「これ。渡したかっただけだから。もう、家行って大丈夫だよ。」

「ああ・・・。」

やっぱり変。

「具合い悪い?食べすぎた?大丈夫?」

「・・・。」

沈黙がたえられない。

「…あのさ、俺じゃダメ?」

「?は??」

何が何だかさっぱりわからない。

「俺じゃダメかな?又、ご飯食べに行ったり、出かけたり、色々さ。ダメかな。」

何を鏑木は言い出したんだ?私は頭が真っ白だった。

「さっき、色々話してた時、夏実、泣きそうだっただろ?今まで、何人か話したけど、大変だったねとか、力になるよとか言う人いたけど、お前みたいに何も言わない奴いなくて。でも泣きそうだっただろ?その時に、もう少し一緒にいたいとか、夏実はどんなやつなんだろ?とか、思ったんだよ。」

確かに、何も言わなかった。正しくは言えなかった。私には鏑木がどんな思いをしてきたのかはわからなかったし、何を言っても上辺だけに聞こえるとも思ったから。でも、聞けば聞くほど辛くて、涙をこらえるしか出来なかった。

「だからさ、俺とさ、付き合ってみない?彼氏いないって言ってたし、どうかな。」

「・・・。」

とにかく、絶句だった。まさかこんな事言われると思ってなかったから。それに、鏑木なら、別に私でなくてもすぐに、彼女を作ろうと思えば作れるだろうから。ただ、さっき、話した中で、一つ気になっていた。『母親の手料理を食べたことがないんだよね、いつも一人で御飯。コンビニか出前。』と言っていたこと。私は、一人で御飯を食べたことはなかったし、お母さんが作ってくれた御飯が当たり前だった。だからこそ、一人で御飯を食べる鏑木を思うといたたまれなかった。

「わかった!どうせ、すぐ、新しいかわいい彼女できるでしょ。鏑木のことだから!遊ばれてあげるよ(笑)」

と照れと、内心を隠すために、冗談めかして、返事をした。

「良かったぁ!1年間クラスメイトで話していたとはいえ、今日の今日だから。」

「そうだけど、私、今日楽しかったしね。」

「本当にありがとう!」

と同時に、ハグされた。突然でびっくりして、やっぱり頭が真っ白だった。でも何か、ホッとする温もりだったし、私でも役に立てたらいいなぁなんて思っていた。

その後、家まで送ってもらって、部屋に帰ると、何かものすごく、動悸があった。現実?夢?ん?よくわからなくなってきた。私と鏑木が付き合うってこと??しばらく放心状態でいると、メールがきた。

『家ついた、これから宜しくな。それと、明日、会える?』

・・・どうやら、夢ではないらしい。と現実を再確認した。





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