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七以転生~転生先で人生謳歌しちゃるきに~  作者: 矢野 肇
以蔵と異世界
8/27

一章 その8 剣速と実力と心強さと・・・

Q次にラトちゃんが活躍するのはいつですか?


A彼女は神なので作者にもわかりませんw

日が傾き、夕暮れが綺麗な景色を作り出す頃、道具屋の一角は少々騒がしかった。

普段は客足が少ないせいか静かな店だが、今日はどうやら違うようだ。

窓辺のテーブルには年頃の女性と女の子が久しぶりの会話に花を咲かせていた。


「っていう訳でついさっき迄、デートしてたわけよ。」


 ノルンの若干「盛っているだろ」という話を聞きながらアリーシャはお茶を飲んでいた。

目の前に居る可愛らしい女の子とは5年ほど前からの付き合いになる。

彼女と出会った頃は背も胸も同じくらいだったが、今ではどちらもアリーシャの方が上だ。

当時のアリーシャは自分と変わらない年なのに、冒険者として自立しているノルンに憧れを持っていた。

そして、会うたびに外見が余り変わらない彼女を何かと気に掛けるようにもしていた。

今では、彼女がドワーフと人間のハーフと言うことを知って、成長が少し遅いだけだと理解もしている。

ただ、それが分からなかった頃はノルンの事を妹扱いしていた時期が有り、そのせいか彼女はアリーシャには背伸びをして話をするようになってしまった。アリーシャとしても無下に出来ないのが現状である。


「それで、ノルン姉さんはどうしてその人と別れたの?」

「私も仕事が有ったし、彼も忙しそうだったしね。」

彼女の仕事と言うのは勿論、アリーシャの祖母に頼まれた薬草の配達だ。

ノルンのギルドランクなら配達等の雑用より稼げる仕事は幾らでも有るのだが、年に何回か配達の仕事を選んでこの村に遊びに来ているのだ。アリーシャもこうしてノルンに会えるのを楽しみにしていた。

「でも、ノルン姉さんが良い人を見つけたみたいで良かった。」

「アリーシャ、男女の出会いは刹那的なのよ。また会えるとは限らないわ。」

「そんなことないわ。だってほら。」

アリーシャが答えるのとほぼ同時に店のドアが開いた。

もちろん入店してきたのは先日、アリーシャを助けてくれた侍風の男である。

少し見ない間に帯刀していた剣の種類が変わっているが、その表情から良い買い物ができた事が窺える(うかが)


「ただいまー」

二日目にして既に馴染んでいる侍こと以蔵。その姿を見て固まるノルン。

「えっなんでイゾーが⁉」

「先ほど話した私を助けてくれた方ですよ。行く宛も無いとの事なので、村を出るまで家に泊まってもらってます。」

 

 目を点にしてアリーシャを見るノルン。そして、アリーシャは「変な事は言いませんよ」とアイコンタクトで返した。アリーシャはアリーシャで、ノルンの話に出てくる侍が以蔵であることには早々に気付いた。

無論、彼女が話の中でちょっぴり背伸びしてたことも承知である。

「おぉ、ノルンじゃないがか。昼間は世話になったのぅ。お陰で良い買い物ばできたきに。」

以蔵はそんな二人の様子を気にも留めずに会話に混じると、自慢げに革鎧を見せた。

心臓部の胸当て以外は胴回りを守る様にした簡易的なものだが、品質は悪くなさそうだ。

その装備を見て目の色を変えたのはノルンだった。

「イゾーってもしかして冒険者にでもなるの?侍なのに?」


 ノルンの知る侍はトヨアシハラの出自の者で、此方でいう騎士に近い。

そのため大概は自国で自分が主と認めた者についている事が多いのだ。

なにより、そうした侍の殆どは自身の主やその忠節に誇りを持っている様に見受けられた。

逆に言えばそれが見つけられなかったものや、そうした古い考えが嫌になった者が外に出てくるのだが。

 

 ノルンから見た以蔵はそれらには当てハマらなかった。と言うのも、以蔵は若干、他の侍より変わっていた。行商人の所にいるのを見つけた時には、その姿に失笑してしまいそうな程だった。なんせ、トヨアシハラの民は外に出たがらない事と温厚な事で有名だ。傲慢な態度さえ取らなければカモとしてはちょうどいい相手。それが紋付の袴まで着ているのだから、世間知らずを自ら広めているような物である。


「そのつもりじゃが。」

「でしたらちょうど良いですね。こちらのノルンさんは冒険者なんですよ。」

「そうじゃったのか⁉だから色んなことに詳しかったのか。」


いや、普通の一般人でもあそこ迄、自然体(無知)で生活はしない。と胸中にしまうノルン。


「イゾー本気で冒険者になるの?」

「なんか、おかしいがじゃ?」

「アンタって紋付を着てるってことは、どっかの名家の生まれなのよね?家に帰らなくてもいいの。」

「うむ、残念ながらこの身は帰る場所を亡くしちょるきに。自分の食い扶持ぐらいは稼がないとの。」


 つまりは、家に勘当されたか、はたまた家出をしてきたと。そして、お金は有っても増やせない今、自分で稼ぐ方法を得たいという事かしら。


ノルンが何かを考えるように目を閉じていると、アリーシャからお願いされてしまった。


「ノルン姉さん、もしよかったら以蔵さんが冒険者になるまで手ほどきをお願いできませんか?」


ノルンとしては興味が無い訳では無いが、かと言って世話をする義理もないのだが、アリーシャからの頼みには弱かった。

「解ったわ、あんたの世話このノルン姉さんが見て上げようじゃない‼」

少々、ヤケ気味ではあったものの了承する事にした。 




◆◆◆




 次の日、以蔵は昨日買った革鎧を身に着けてノルンとラプトアの森に出かけた。

目的は錬気を知るためにノルンとの模擬戦をするためだ。

なぜ、模擬戦になったのかと言うと、実は錬気をよく分かって無い事をノルンに相談したのだ。



「じゃ、明日はみっちり特訓に付き合ってあげるわ。」

「すまんきに、ノルン恩に着るがじゃ」

その一言に口元をニヤリと緩めたノルンはすかさず

「別に良いわ、二日連続でアルタイルでご飯なんてそうそうないもの。」

と、以蔵に言い放った。アルタイルと言うのはノルンと食事に行ったレストランだ。

少々高いが以蔵には断る術も無い。

「おぅ、任せちょき‼うまい飯ば食わせちゃる‼」

別に以蔵が作る訳では無いのだが、そんな二人の様子を見てアリーシャは微笑んでいた。




 「弱い弱い、そんなんじゃ低位のゴブリンも狩れないよ。」

以蔵の剣は尽くノルンに弾かれていた。自身の剣術に自身の有った以蔵もコレには少々感じるものが有る。

純粋な剣術では確実に以蔵の方が強い。練習用の木剣だったが、ノルンの木剣を弾き飛ばすのに時間は掛からなかった。剣術での実力差はノルンの得意武器が剣では無い事を差し引いても明らかだ。

だがしかし、ノルンに打ち込んでもどうにもダメージが通っていない。

感覚としては狼が堅かったのと非常に酷似している。


「何故じゃ⁉何故効かんがー」

最初こそ「女子(おなご)を殴るわけには…」などと言っていた以蔵だが、試しに一本入れてみると何の手応えも感じない。自身が手を抜いている為かと思ったが、2回3回と試してようやく気付いた。

手を抜くどうこうの前に本当に打撃が通っていないのだと。


「だから、錬気ってのはこうガーと感情をぶつける感じでやるのよ。いい、見てて?」

そう言うとノルンは自身のハンマーを取り出して深呼吸すると、たまたま近場を通った狼をぶっ叩いた。キャインという声も出ぬままミンチになる狼、なかなかに陰惨な光景だ。

「どうよコレ。簡単でしょ?」

潰されたのはブラッドウルフという先日以蔵が倒した物の近似種だ。以蔵が倒したブラッドホーンウルフより二回りほど小さく、弱いらしい。だが、それでも以蔵は一撃で倒す事は出来ず苦戦していた。

ノルンが以蔵に課したお題は今日中にこのブラッドウルフを一撃で倒す事。攻撃さえ通れば容易い事だが、錬気が上手く使えない以蔵には結構難しいお題だった。また、ラトと違いノルンの教え方は直感型なのだ。「考えるな、感じろ‼」と言わんばかりに先ほどから狼が潰されて行く。


「わからんきに。こうもっとヒントは無いがじゃ?」

「わっかんないかな~こう、集中して、その意識をぶっ殺してやる~って感じでぶつけるのよ。」


 何度聞いても続く要点を得ない説明に以蔵もヤキモキしていた。

思い返すのは先日自身と相対した狼だ。何故あの時は倒せたのだろうか?

今一度考えてみる。相手は油断を許せない奴だった。一瞬のよそ見も許されない状態。

そして、攻撃が通らなければ此方が殺されるという極限状態。


 つまり、殺意が足りていないがじゃ?


先ほどまでの以蔵は効率よく倒すという事に終始していた。

「一撃で倒せ」とのお題に当然のように相手の隙を就いた攻撃を選んだのだ。

つまるところ問題は「こうすれば倒せる」と言う意思なのではないか。

 

「おん、わかった気がするきに。次はその目かっ開いてよお見ちょけ。」


 そう言うと以蔵は眼を瞑り深く集中して耳を澄ませた。

近くに聞こえた足音を頼りに森を踏み分けて進む。

必要以上に音を出さないように気を払って進むと、ブラッドホーンウルフを見つけた。

前回、対峙した物より一回り程小さいが、それでも並みのブラッドウルフより大きい。

以蔵は静かにノルンの方を見ると、コクンと頷いて、ブラッドホーンウルフを顎で指す。

ノルンの手元を確認するとハンマーを握る手に力を込めていた。


 これなら儂が打ち漏らしても大丈夫じゃろ。


 以蔵は静かに頷くともう一度深呼吸をする。相手もこちらに気付いているようで、目線を動かさず

ジッと此方を見ている。以蔵がスッと茂みから身を出すと、相手が襲い掛かってくる。

その動きを見ながら以蔵は空を撫でるように鋭い一閃を放った。

「こうすれば倒せる」から「こうやって殺す」と意志をもって放つ一閃は確かな手応えを以蔵にもたらした。気を抜かずに後ろを振り向くと狼は首と胴が別れている。動いていたにも関わらずその斬り口はまっすぐな物だ。切り口を併せれば今にも生き返りそうなほど、綺麗なものである。


「見事な物ね。さっき迄ブラッドウルフにさえてこずって居たなんて思えないわ。」

「おん、コツば掴んだら一瞬じゃ。儂は剣の天才じゃき。」

そんな明るい一言にフッとノルンは笑ってしまったが、とても気持ちのいい笑顔を以蔵に向けてくれた。

「うん、そうね。あなたは確かに剣の天才かも。さぁアルタイル(おいしいご飯)が待っているわ。」


踵を返して村に向かうノルンに「そうじゃった…」と少し浮かない表情の以蔵。装備を新調したせいで金欠気味だ。


「ノルン、ちょっとまつにゃー」

以蔵はそう言うと、先ほどのブラッドホーンの革に剥ぎ目を入れ始めた。

「コイツの交渉をお願いしても良いかにゃー」

「いいけど、今回は6:4よ」

「おん、倒した儂が6でノルンが4がじゃ。」

「いいえ、交渉と手ほどきをした私が6でイゾーが4よ。」


 「そんなー」と言いつつ、文句を言わない以蔵。それを見てすぐに微笑むノルン。

二人の帰り道は会話が弾んだ。以蔵は人と話すのは苦手な方なのだが、不思議とノルンとは馬が合った。話していて楽しいと感じる相手は以蔵のこれ迄では数えるほどしかいなかった。

だが、ノルンとの会話はとりとめもない物だったが、どこか心地よく自然と笑みがこぼれてしまう。






いとしさと~せつなさと~心強さと~♪

こうして以蔵さんの心強さ(プライド)は守られたのでした。

しかし、コイツ思いのほか尻に敷かれそうだなw

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