一章 その7 新しい世界で3
ℚ:武市先生ってロリコンだったの?
A:それは銀魂の影響です。実際には愛妻家でした。遊女に馬鹿にされた、と言う逸話があり、そのため商売女を嫌ってたとか…この話を二回りくらい膨らませれば・・・いや、二回りじゃ足んないなw
「たのもーう」
まるで道場破りのような掛け声とともに以蔵は武器屋の敷居をくぐっていく。
中は10畳ほどの広さで、盾や鎧などの防具をはじめ、剣やフレイル弓など、
それこそ、以蔵の見たことある物から、どう使うか分からないものまで並べられていた。
壁や棚の目立つ所に飾られているものは値段も高めだ。この世界の機微に疎い者でも
値段を参考にすれば、そこそこの物が買えるわかりやすい店作りだ。
店内の奥にはカウンターが設置されていて、どうやらその奥に工場が有るらしい。
つい先ほどまで何かを作って居たのか、熱の籠った店内は外より数段蒸し暑くなっていた。
「修理を頼みたいんじゃが。これ直せるかの」
そう言って以蔵は宜振打をカウンターの上に置いた。店主はその有様に眉をしかめる。
「おまえ、これは修理どうこうじゃどうにもなんねぇだろ。パッキリ折れてるじゃねーか」
「やはり、無理かの?」
「ああ、無理だな。この状態だと素材を使って打ち直すのがやっとだ。」
店主は折れた宜振打を持って様々な角度から見ている。
「ていうか、あんたよくこんな武器でブラッドホーンウルフの討伐ができたな。」
「ほぅ、よく儂が狼退治をしてきたと分かったの。」
「こんな辺鄙な村でそんなけったいな恰好してる奴が何人も居る分けないだろう。」
むむ、ここでも恰好を指摘されたのぅ。結構気に入っておるんじゃが。
「それより、この小太刀には結晶石が使われてないじゃないか。こんな錬気を通しにくい武器でどうやってあの魔獣を倒したんだ。」
「んー。首元に刀ば刺して、弱った所を目ん玉に拳銃突きつけてズドンじゃ。」
「常軌を逸してやがる。そんな危険な狩り方、初めて聞いたぜ。」
「そうかのー」と気にも留めない素振りの以蔵に店主はあきれ気味だった。
「それで、今日はこの小太刀だけかい?」
「実はのこっちも見といてほしいがじゃ。それと、急場凌ぎで構わんから武器じゃな。」
そういうと、以蔵は腰に差した七以斬も店主に渡した。
「名刀だよ」ラトはそう言っていたが、宜振打が簡単に折れた所を見るとどうにも信用できない。
生前からの知識ではどちらも名刀として遜色ない。だが、もしもこの世界の生物が自分が居た世界の常識で測れないならどうだろうか。実際、あの狼は魔獣と呼ばれていて、動物とは思えないくらいに堅かった。ならば、ラトが渡してきたこの武器は有用なものなのだろうか。
「急場凌ぎね・・・目的はなんだ?狩りか?」
「いや、近々冒険者になるんに隣町のギルドに行こう思うちょるき。そん時に武器がなきゃ恰好付かんが。」
「なるほどな・・・なら、この刀はまだ使えるな。」
そういうと店主は刀の柄を外して以蔵に渡した。森で見た時には気にならなかったが、僅かな窪みが有った。大きさは直径五センチ程だろうか。円の中心には何もないが、渕をなぞる様に溝がある。
以蔵がそれが何なのかわからず見ていると店主が説明してくれた。
「とりあえずそこに結晶石を嵌めるんだが、お前さん結晶武器は初めてか?」
「普通の武器と何か違うがじゃ?結晶中のもわからんがか。」
「お前さん、本当に侍か・・・」
店主の話はとても分かりやすい物だった。曰くこの世界の生き物は全て錬気を使って生きている。
それは人間も魔獣も魔物も、当然、動物も変わらない。そして、基本的に相手に手傷を負わせたいなら相手の錬気を破らなくてはいけない。それには、魔法での攻撃か、此方も錬気をまとわせた攻撃をしなくてはならない。そして、錬気をより浸透させるために作られたのが結晶武器と呼ばれる物。
つまり、儂があの狼を倒せたのはホンに奇跡だったちゅう事か。
「ただし、お前の刀はそれこそ急場凌ぎしかできねぇな。」
その一言にここが自分の常識が通用する世界ではない事を思い知らされる。
「なんでがじゃ⁉その結晶石っちゅうのを嵌めれば良いだけじゃろ?おんしもさっき使える言うたがじゃ。」
「いや、なんつーかこれに関しては可哀想でも有るんだが、コレ一体幾らで買ったんだ?コイツは鈍らも良い所だぞ。」
貰ったものだ。だがどういった経緯でと言うのは言いにくい。以蔵はなんとか言い訳を探した。
「買った物じゃなか・・・家の、そう言えの蔵に有ったじゃき。」
「なんか怪しいな。まぁ詮索好きは早死にと相場が決まってる。こっちはちゃんとした買物客なら文句はないけどよ。この刀は結晶を嵌める事は出来ても、素材自体が弱いんだよ。ちゃんと結晶武器として制作されてないって感じだな。これ、ほぼ鉄だけでできてるぜ。鍛え方は凄いが、これじゃぁ生き物は切れねぇよ。」
いや、刀は鉄製じゃろ。あれ、硝子とかも入ってるんじゃったか?
そんな思いを胸に秘めつつも以蔵は店主との会話を続けた。
「つまり、七以斬りで戦おうもんなら、そいつも折れるがー?」
「まぁ十中八九で折れるだろうな。仮に結晶石を仕込んでも、錬気に耐えきれずすぐにダメになっちまうだろうな。わりい事は言わね、二つとも武器としては諦めろ。」
「うー親父さんは刀は打てんがじゃ?」
「できなくは無いが…高いぞ?」
「40リデル相当なら有るがじゃ。」
そう言って以蔵は例の丁銀を出した。
「おい、これ丁銀じゃねーか。この辺じゃまずお目に掛れない重さだぞ。」
「おう。知り合いに聞いたが、銀の保有率は8割程がじゃ。」
店主は以蔵の出した丁銀を軽く叩いて強度を確認した。
「こりゃとんでもねーな。お侍さん良かったらなんだがコイツを材料にしないか?」
「銀だけでがか?」
「いや、もちろん鉄も使うし、ほかにも欲しい鉱石や部位がある。値段は・・・そうだな6リデルでどうだ?鉱石なり部位を取って来てくれるなら1リデルでも良いぞ。」
「乗ったがじゃ!」
以蔵は必要な素材を聞き、メモを取った後に手持ち金銭で買える範囲の装備を整えてもらった。
希望としては刀が良かったのだが、やはり需要が少ないせいか高いらしい。
致し方なく近い形をした方刃の細剣を選んだ。こちらの剣は斬るというより突く事に特化している様だ。
「で、結晶石はどんなタイプにする?」
「タイプってなんがじゃ。どんな種類があるんがー」
「まぁそうさな。癖と言うか特徴だな。うちに有るのだと、剣速向上とか摩擦減退とかだな。質量増加っていう斬り潰しにうってつけなのも有るぞ。」
「んじゃ、摩擦減退じゃな。剣速より切れ味の方が大事がじゃ。」
そもそも、剣速には自信がある。誰に言われたか、『撃剣矯捷なること隼の如し』と称えられた以蔵の剣筋は伊達ではないのだ。
他にも軽くて丈夫な革製の簡易鎧も付けてもらえたが、手持ちの1分金等もともと財布に入っていた金銭の殆どは使ってしまった。それでも以蔵としても満足いく買物だった。少なからずこれで戦いやすくはなったことだろう。以蔵は店を出ると、ホクホク顔でアリーシャの道具屋に向かうのだった。
ℚ:撃剣矯捷なること隼の如しってなんですか?
A:ものっすっごく簡単に言うと、なんでも真直線に切れるくらい、すんごい力と速さで斬れる。
って事らしいです。ただ速いのではなく、力も有ったことや、その剣速を見極めきれない事からこう称えられていたみたいですね。