歌鳥の話
――飛べない鳥は不幸でしょうか?
切り落とされた自らの羽根を見ながら、娘は心に問いかけました。
森にすむ歌鳥の娘と、狩りにやってきた領主の息子。そう、この世に数ある物語のように2人はまたたくまに恋に落ち、若者は娘に会うために森へと通うようになりました。そんな日々が続き、ある日のこと。
「木から降りて、こっちへ来てくれないか」
若者は緊張した面持ちで娘に言いました。娘は少し不思議に思いましたが、微笑んでその通りにしました。すると、ああなんということでしょう。茂みに隠れていた男たちがたちまち娘をとらえてしまいました。見上げた若者の顔は悲しそうな、追い詰められたような顔でした。娘はもがくのをやめておとなしく檻に収まり、城へと運ばれてゆきました。
城での暮らしは森とはずいぶん違いましたが、望むものはなんでも与えられました。部屋の外に出ることが禁じられている以外は。
若者は毎日娘の部屋を訪れました。窓から外を見ていると若者がなにかにおびえたような顔をするので、彼が部屋に来ているときはできるだけ窓の方を見ないようにしました。森にいたときと同じようにふるまいました。彼は優しくしてくれましたし、なにより彼を深く愛していたのです。
だから、その日若者が持ってきたナイフを娘の翼に押しあてた時にも、娘は微笑んでいました。ためらう若者の手に逆に自分から翼をぐいと押し当てて、バラバラになった羽根が落ちた時だって、ひとつの後悔もありませんでした。
これで、もう森には帰れません。もう森には帰せません。結局のところ、娘には彼の気持ちが、相手が離れていくことを恐れずにはいられない気持ちがよくわかったのです。娘も同じ気持ちでしたから。そう、ただ彼のことが愛しかったのですから。
―――それが、普通の形とはいくらか違っていても。