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七色の……  作者: 四十水智美
七色の剣
68/72

13 変遷

「では、始めようか」

「ああ」


 クリスの呼び掛けにマーブルが応え、再戦が始まった。


 直後、クリスが素早く踏み込み、マーブルの胴を払う。

 クリスの動きの速さに驚いたマーブルだったが、『黒い剣』を『竜の剣』で受け止め、直撃を回避する。


 クリスは一旦後ろに下がり、マーブルの間合いを外すと、またも素早い踏み込みで、今度はマーブルの頭上へ向けて剣を振り下ろす。

 マーブルに避ける時間はなく、やはり剣で受け止める。


 クリスが次々に繰り出す攻撃に、マーブルは反撃ができない。中断前とは逆に、クリスが攻めマーブルが守る構図となった。


 クリスの攻撃を何度か防いだ後、マーブルはクリスの攻撃が意外に単調なことに気付く。

 どこが単調かと聞かれても答えられないが、その答えを見付けるのに時間はそう掛からないだろう。これだけクリスが攻撃を繰り返しているのだから。

 その答えがわかればクリスへ反撃する糸口を掴めるかも知れない。


 対するクリスは苛立っていた。

 愛用の剣『紅葉』が折れたことへの深い悲しみ、その原因となった『竜の剣』への苛立ち。

 怒りを『竜の剣』にぶつけたかったが、相手は正真正銘の『伝説の剣』だ。銘剣を乱暴に扱う訳にはいかない。だが、『竜の剣』は、特別に丁寧に扱わずとも、普通に使う分には傷付けることは能わない。


 しかし、対戦者が『竜の剣』を持っているのなら? 正当な理由の元に『竜の剣』を破壊できる。

 自分が手にするのが『伝説の剣』の中でも最高峰と言われる『黒い剣』なら? 『竜の剣』を叩き折ることもできるかも知れない。


 クリスは、自分でも気付かぬうちに、『竜の剣』を折ることを目標にしていた。


(クリスはもしかして『竜の剣』(これ)を折ろうとしている?)


 マーブルはそこに気付いた。

 そうとわかれば攻撃を躱すのは容易だ。あとは反撃ができるかどうか。


 だが、クリスに反撃する隙は見当たらなかった。

 クリスの攻撃はマーブルに当たらず、マーブルは反撃できない。たまに反撃しても通じない。


 傍目には物凄い攻防が繰り広げられているように見えて、その実、戦いは膠着していた。




 事実上の膠着状態に入って暫く経った。


「もしかして、引き分ける?」


 それまで静かに対戦を見守っていたメイプルが、呟いた。

 クリスが優勢だが、決め手に欠いているように見える。


「思ったほどクリスは強くないな」


 メイプルの呟きを拾って、隣に座るヴェンが答えた。

 その発言内容には、メイプルは違和感がある。


「そう?」

「ああ、いや、剣聖に相応しい剣技だと思うよ。ただ、封印を解く前とあまり強さに変化がないなあ、と」

「そういうこと。それはあたしも思う」

「マーブルと攻守交代した程度だろ。もう少しマーブルが苦労するかと思った」

「クリスの踏み込みの速さが尋常じゃないんだけど、マーブルも慣れてきてるわよね?」

「そうだな」


 だからと言って、マーブルが反撃できる訳でもない。引き分けに近付いているだけだ。

 ヴェンと話すためにクリスの戦い方を整理していて、メイプルはふと気付いた。


「なんとなくだけど、クリスは小手狙い?」

「それなんだけど、ちょっと雑なんだよな」


 二人は再び無言で対戦を見る。

 クリスの目線や剣筋を見て、ヴェンは突拍子もない想像をした。


「あ、いや、待てよ」

「何?」

「クリスの狙いは剣か?」

「剣?」

「剣を斬ろうと、折ろうとしてる?」


 ヴェンの話を聞いてクリスを見ると、確かにメイプルにもそのように見えた。


「え、もしかして!?」

「何かわかったのか?」


 何やってんのよ!

 メイプルは思わず叫びそうになったが、その前にヴェンに問われて、なんとか大声を出さずに済んだ。


「クリスはたぶん『竜の剣』に復讐しようとしているのよ」




 メイプルが憤慨する姿を視界に捉えて、クリスは攻めるのを一時中断した。


 メイプルはすぐに落ち着きを取り戻したようだったが、あれは何だったのか。

 状況的にこの対戦への感情としか考えられない。もっと言えば、クリスに対してだろう。メイプルなのだから、クリスに対してに違いない。


(そうか、剣神を目指す者の戦い方ではなかったな)


 クリスは、一瞬で自分の戦いを振り返ってそこに思い至り、剣を構え直した。

 剣を真っ直ぐ中段に構える。それは、以前見たメイプルと同じような、正統派の構えだった。


 クリスの変貌にマーブルは舌打ちしたい気分だった。クリスが感情に任せて攻めてくれれば、もしかしたら疲労の蓄積が早くて隙を見せたかも知れない。だけどそれはもう期待できそうにない。


 改めて対戦相手のマーブルを見て、クリスはマーブルの構えが綺麗なことに気が付いた。

 クリスの封印が解けて、動きが格段に良くなっているはずだが、それでもマーブルを打ち崩せないのも頷けると言うものだ。

 見た目上はマーブルに隙が見当たらない。

 クリスの優勢は揺るがないだろうが、勝負は付かないかも知れない。


 クリスが『竜の剣』への感情を抑制した後も、クリスが攻めマーブルが守る形は変わらなかった。

 但し、違いが二つある。

 一つは、クリスが無駄な体力を消費しなくなったこと。もう一つは、クリスがきちんとマーブルの隙を作ろうとしていること。


 直接戦っているマーブルや、第三者として見ているヴェンやメイプルは、改めてクリスの強さを認識していた。

 ところが、当の本人は、意外に窮屈に感じていた。クリスは元々正統派じゃないから、自分が正統派の剣を振るおうとしても慣れない。その相手が本物の正統派だと、やりにくくて仕方がない。


 十分ほど頑張ったが、マーブルに隙らしい隙を作ることはできず、クリスは、やっぱり自分らしく行こうと考え直した。

 将来的には正統派を目指すとして、今は得意の攪乱戦法を採用する。余計な体力を使うけど、それ以上にマーブルに精神力を使わせれば良い。


 無駄のない剣捌きと足運びで質実剛健な攻めを見せていたクリスが、突如踏み込んで来て、マーブルは驚く。

 安易な踏み込みなら返り討ちにするのだが、クリスはマーブルが剣を引いた瞬間、その一瞬だけは反撃できないという間隙を突いて、踏み込んでくる。しかも、速い。


 対処を少しでも誤ると隙を作ってしまうところだが、マーブルは確実に防ぐ。

 防いだ直後は逆にクリスに隙が生まれるが、反撃しようとした時には既に距離を取っている。


 クリスは運動量が増えるが、持続するだけの体力がある。マーブルは緊張が続くが、途切れないだけの精神力がある。


 動と静を繰り返していた対戦が、継続的な動になっても、やはり実力は拮抗していた。


サブタイトルの命名理由

攻守が入れ代わった

クリスの戦い方が変わっていく


次回、決着です。

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