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七色の……  作者: 四十水智美
七色の剣
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7 洞窟の戦い(前半)

 およそ百年前、ネオレド王国の建国よりも七十年以上も前、当然王国の軍事拠点などは存在しない頃、サン街道の南半分は大陸有数の危険地域だった。


 その街道はスレッドシティとリーティングシティを結ぶ。

 スレッドシティは大陸の中心にあり、ネオレド王国勃興時の戦禍により多くの商人がウルバネシティへ逃げてしまうまで、大陸で最も栄えた大都市だった。

 リーティングシティは、大陸で最も肥沃な大地を有するウィラーン王国の中央付近に位置するという特性から、スレッドシティの次に栄えた大都市だった。


 当時の大陸の一番目と二番目の大都市を結ぶ街道は、ちょっとやそっと治安が悪くとも、利用者は多かった。


 街道近辺には小さな町や村しかない。そんな町や村の防衛力は高が知れている。それを補う治安維持機関も近辺にはない。そんな田舎道にも関わらず人通りは多い。

 更に、スレッドシティもリーティングシティも首都ではなく、国家機関がない。そのため、官吏がサン街道を利用することもあまりない。


 盗賊が通行人を襲っても、国に喧嘩を売ってしまう確率が低いから、討伐隊が組まれる恐れがない。サン街道の南半分は盗賊にとって天国のような場所だった。


 国家が直接の被害を受けないため、盗賊は野放しだった。いつしか、そこに力のある盗賊が生まれた。

 その盗賊は、名も無き洞窟、今で言う『竜の剣の洞窟』を拠点に、近くの町や村、街道を荒らし回った。


 それまでは、盗賊が出るのは月に一、二回だった。盗賊に襲われたのは運が悪かったからだと、次もサン街道を利用した。金品を渡せば命の危険も無かった。

 しかし、徐々に盗賊が襲う回数が増え、二、三日に一度は誰かが被害に遭った。襲われた男性が命を落とし、女性や子供が連れ去られることもしばしば起きた。


 ここまで被害が拡大すると、流石に討伐隊が送り込まれる。

 ところが、遠くの街から移動し疲れているところを急襲したり、守りやすい地形を活かして翻弄したりして、何度か編成された討伐隊を、洞窟の盗賊は悉く追い返してしまった。


 討伐隊にできたことは、盗賊の最新情報を持ち帰ることだけだった。

 街道の各地に幾つかいた盗賊が、討伐隊の派兵を機に、一つに統合されつつあること。

 それをまとめているのは洞窟を拠点している盗賊であること。

 洞窟の盗賊の頭が悪賢い上に力も強いこと。


 盗賊の頭は謎の剣士最強だという風評が立ち始めた。

 また、街道を通る者は必ず盗賊に見付かり、屈強な護衛を伴っていても襲われようになった。襲われないのは運が良かった時だけだ。

 サン街道の南半分を利用する者は激減した。


 そんなある日、早朝のサン街道を北上する何かがあった。

 赤と白の派手なマントを頭の上で翻し、身体全体を隠している。


 風のように移動するそれは規則的に動き、街道を監視する盗賊達はそれが視界に入っているにも関わらず、誰も気に留めない。

 しかし、赤と白のマントが直角に曲がる移動は、注意を引いた。赤と白のマントが街道を左折し、西へ、洞窟へと向かった時だ。


 枝道の入口を監視している五人のうちの一人が口を開く。

「今、何か入っていかなかったか?」

「誰も入ってないぞ」

「何かって何だ?」

「いや、よくわらかないが」

「俺も何かを見たぞ」

「何だ?」

「布が飛んでったようだ」


 結局その五人は何があったのかわからなかったが、頭から、侵入者がいたら知らせろ、いなくても知らせろ、と言われている。

 監視の一人が鳴子を揺らして、そこから西へ上がったところにある洞窟へ、いるかいないか不明な侵入者の存在を伝えた。




 枝道と平行に走る鳴子がガラガラと音を発する。

「気付かれたか」

 頭の上で赤白のマントを手に持つ男は淡々と事実を口にした。そこに感情はなく、歩く速度も緩めない。


 接近を気付かれても、それを阻む者は現れなかった。

 スレッドシティやリーティングシティでは、有志による討伐隊ではなく、周辺国家や地域の有力者による連合軍が洞窟へ派遣されるとの噂が流れている。そして、実際に大陸の中央部で軍隊が編成され、スレッドシティに集結している。当然、この一帯の盗賊もその噂を聞いているだろうし、偵察が軍勢を直接見ているだろう。

 そのため、盗賊の多くはサン街道山間部の北の入口で守りを固めている。洞窟周辺には、盗賊団の頭と幹部が数名、それと若干の下っ端メンバーしか残っていなかった。


 盗賊が待ち構えていたのは枝道の終わりだった。最後の急な上り坂の上に、弓を手にした盗賊が二人いる。

 赤白マントの男が構わず近付いていくと、坂の上から矢が放たれた。

 男は、腰に差した剣を引き抜き、矢を払う。

 盗賊はすぐに次の矢を番え、放つ。だが、道が狭く横に二人しか並べないため、同時に放てるのは二本だけだ。それでは男の足止めにもならなかった。


 男が坂を上がると、台地に建つ平屋が見えた。情報によるとそれは盗賊の頭の住居だ。


 矢を放っていた盗賊二人はその平屋へと逃げていく。

 平屋の手前には弓を構えた男が四人いた。逃げた二人が平屋の手前で振り向き、合計六人から男へ向かって一斉に矢が放たれる。


 男はマントで矢を(はた)き、そのままマントを盗賊に向かって投げて注意を引くと、盗賊が次の矢を番えるより早く、盗賊達へと近付いた。

 盗賊の半分はそのまま矢を放とうとし、半分は弓を諦め腰から剣を抜こうとした。

 男は、先に剣に手を掛けた盗賊を、そいつらが剣を抜くより前に斬る。続けて、男の動きが速く狙いを定められなかった弓の盗賊を斬った。


 倒れた盗賊を見ると、三人に息があった。うち二人は重傷だ。男は軽傷の一人を覚醒させる。

「その二人を医者へ連れて行け」

 その盗賊は息のない三人と重傷の二人を見て頷いた。


 男が盗賊から離れようと視線を盗賊から外した直後、盗賊は腰から短刀を抜き出し、男へ投げようとする。

 だが、盗賊の胴がずれ落ち、投げることは叶わなかった。


 ここにいる盗賊が最後まで刃向かってくることを認識した男は、その顔を厳しくする。


 男は落ちていたマントを拾い羽織ると、平屋の中へ入っていく。その瞬間、視界が室内へ切り替わるのを利用し、男は気持ちを切り替えた。

 男は感情が命取りになることを理解していた。その顔から再び感情が消えた。


 平屋の中に誰もいないことを確認すると、男は腹部から小瓶を取り出し、中の液体を家具の一つに掛けた。それは油だ。火を付けると油は勢いよく燃えだした。

 数秒間、火を眺めて、火が消えないことを確認すると、男は平屋を出て洞窟へ向かう。男が洞窟へ足を踏み入れる頃には、平屋は勢いよく燃えていた。


洞窟の戦いのお話は、本筋から外れるので、400文字くらいで概要だけで済ますつもりでした。

ですが、ちょっと味気ないかと思い、1話追加することにしました。

2話(6000字超)になるとは思いませんでした。

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