3 女流頂上対戦
最後はメイプルとセイラーの対戦だ。
試合での女流剣士同士の対戦では木剣を使用することが多い。その例に漏れず、サリー・セイラーも木剣を希望した。
「最後は女流剣士同士の戦いです。挑戦者は、フィレシティが全世界に誇る最強女流剣士、サリー・セイラー!」
前の二人と同じく、色気のない兵服を来たセイラーが姿を現す。
最終戦の対戦相手の登場を見て、メイプルは木剣を手に取った。
「メイプルなら勝てる」
闘技場へ向かうメイプルへ、クリスが言葉を投げた。
メイプルは笑顔で頷き、闘技場へ上がる。
メイプルの紹介文も、大歓声に掻き消された。直後、歓声はどよめきに変わる。
「若い!?」
メイプルは肩を落とした。
闘技場の中央でセイラーの顔を見ると、彼女も吃驚した顔をしている。
(どう見ても、私より年下だわ。本物?)
メイプルは深呼吸して悲しみを心の外へ追いやった。
メイプルの顔付きが変わったのを見て、セイラーも剣士の顔になる。
(偽物だとしても、二大剣士とパーティを組んでいるのは間違いないわ。気を抜いちゃダメ)
二人の周りの空気が変わったことに観客も感付き、静寂が闘技場を包む。
「始めっ!」
メイプルとセイラーがそれぞれに剣を構える。メイプルの構えには隙が見当たらない。
(勝てるのかしら。いえ、勝つのよ。こんな小娘に負ける訳にはいかない)
セイラーが仕掛けた。
メイプルの剣先を払って隙を作り踏み込む。いや、踏み込もうとして、セイラーはとどまった。
メイプルは、剣先を払われたことを利用して、セイラーよりも速く横凪に一閃していた。
メイプルの剣が通り過ぎると、セイラーは剣を振り下ろす。メイプルは返す剣で、セイラーの剣を弾く。
メイプルとセイラーは、メイプルが三大剣士に数えられていることを除けば、どちらも同じような評価を得ている。
力も拮抗しており、ヴェンやクリスのような瞬殺はお互いにできなかった。
勝負が長くなりそうな空気が会場を支配し始めた。
しかし、セイラーはそれを嫌った。何度か激しい応酬を繰り返したが、メイプルの剣技に隙が生じる様子はない。一方、セイラーは応酬の直後に僅かに構えが崩れている。それを自分で感じている。長引けば、メイプルに分がありそうだ。
セイラーは、メイプルの構えから一番遠いところを狙って攻めた。例えば、メイプルが上段に構えている時は足下を払い、下段に構えている時は頭部に振り下ろす。
するとメイプルにもほんの僅かだが隙ができる。そこから崩そうと激しく休むことなくセイラーは攻め続ける。
対するメイプルは最小の動きで隙を埋め、守る。セイラーに隙を見付けた時も軽く突く程度にとどめた。だが、激しく動くセイラーは、軽い反撃にも大きく避けてしまう。
クリスやヴェンが予想したよりも早く、決着は付いた。
大きく肩で息をするセイラーと涼しげなメイプル。メイプルに打たれる前に、セイラーは降参した。
「こんなに差があるとは思わなかったわ。これが三大剣士なのね」
セイラーはメイプルを賞賛した。メイプルは恥ずかしそうに、いえ、と首を振る。
「セイラーさん、とてもお強いです。持久戦になっていたら、勝てたかどうか」
「まあ、お優しいのね」
「いえ、ほんと……」
「本当に二人とも正しいですよね」
闘技場に上がったクリスが割り込んだ。
「メイプルはセイラーさんを崩す力がないとわかっていましたよ。だから、セイラーさんが仕掛けなければ勝負は付かなかったでしょう。ただ、メイプルは全く隙を見せませんから、遅かれ早かれセイラーさんは仕掛けちゃいますよね」
セイラーは空を見上げた。日は落ちて、一番星が輝いている。
「そうね、実力は紙一重かも知れないけれど、差はやっぱり歴然としているわ」
セイラーはメイプルに手を差し出した。メイプルが手を出すと、それを強く握る。
「あなたと戦えて良かった。自分より強い女性剣士がいるのって、思ったより楽しいわ」
「あ、それ、わかります。あたしも、自分より強い人に会えた時、とても嬉しかった」
二人の周りに、クリス、ヴェン、イク、ガイアリが集まり、彼等と彼等の対戦を大きな拍手が称えた。
対戦の後には、対戦者にスペックを加えた七名での会食が用意されていた。
戦いの後の食事での会話は、ほとんど対戦のことになる。
「力で負けるとは思わなかった」
ガイアリは感想を述べた。
「力を利用したんだ」
ヴェンの答えが、スペックとセイラーは理解できないようだ。イクは得心したようで、やはり彼はスペック配下で別格のようだ。
そんな彼でも、
「どうやって剣が手から離れたのかがわからない」
と言う。
皆の視線がクリスに集まるが、クリスはメイプルを見ただけだった。
それで皆の視線がメイプルへ移る。メイプルも、これは自分が答えないといけないのだろうと理解した。
「イクさんの懐に素早く入ることで、イクさんの意識を剣から離したのだと思います」
そして意識が離れた瞬間に剣を取り上げた。
「それを見て、メイプルは何を考えたの?」
ヴェンやクリスの対戦をただ見ていただけではないメイプルは、クリスの質問に即答する。
「セイラーさんとの対戦の時に、隙を作らないことを心掛けました」
「うん、それで?」
「あたしの構えは綺麗だと、クリスもヴェンも言ってくれてるから、構えをちゃんとすれば、たぶんセイラーさんにも簡単には崩されない。無理に崩そうとすればセイラーさんに隙が生まれると考えました」
クリスは泣きそうな顔をしている。
「えっと……」
想定外の反応に、メイプルは困惑する。答えに結構自信があったんだけど、間違えたのかな。
「あ、大丈夫。ちゃんと伝わっていることが嬉しくて嬉しくて仕方がないんだよ」
ヴェンがクリスの表情を説明した。
セイラーは、いや、イクもガイアリも、メイプルの話を聞いて、力や技だけでなく、考えることも大切なのだと思った。
実はこれもクリスの狙いだったりする。大陸全土で、剣の実力が上がる方が絶対に楽しいから。
その日、フィレシティは夜明けまで興奮に包まれた。
エカト・イク、サリー・セイラーの名付けの由来は覚えていません。
タク・ガイアリは、名前は覚えていないけど、名字は巨人(giant)だったと思います。
giant -> gi + ant -> giの読み(ガイ)+antの意味(蟻) -> ガイアリ
安直ですね(汗)




