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七色の……  作者: 四十水智美
公開試合
51/72

3 女流頂上対戦

 最後はメイプルとセイラーの対戦だ。

 試合での女流剣士同士の対戦では木剣を使用することが多い。その例に漏れず、サリー・セイラーも木剣を希望した。


「最後は女流剣士同士の戦いです。挑戦者は、フィレシティが全世界に誇る最強女流剣士、サリー・セイラー!」

 前の二人と同じく、色気のない兵服を来たセイラーが姿を現す。


 最終戦の対戦相手の登場を見て、メイプルは木剣を手に取った。

「メイプルなら勝てる」

 闘技場へ向かうメイプルへ、クリスが言葉を投げた。

 メイプルは笑顔で頷き、闘技場へ上がる。


 メイプルの紹介文も、大歓声に掻き消された。直後、歓声はどよめきに変わる。

「若い!?」

 メイプルは肩を落とした。

 闘技場の中央でセイラーの顔を見ると、彼女も吃驚した顔をしている。

(どう見ても、私より年下だわ。本物?)


 メイプルは深呼吸して悲しみを心の外へ追いやった。

 メイプルの顔付きが変わったのを見て、セイラーも剣士の顔になる。

(偽物だとしても、二大剣士とパーティを組んでいるのは間違いないわ。気を抜いちゃダメ)

 二人の周りの空気が変わったことに観客も感付き、静寂が闘技場を包む。


「始めっ!」

 メイプルとセイラーがそれぞれに剣を構える。メイプルの構えには隙が見当たらない。


(勝てるのかしら。いえ、勝つのよ。こんな小娘に負ける訳にはいかない)

 セイラーが仕掛けた。

 メイプルの剣先を払って隙を作り踏み込む。いや、踏み込もうとして、セイラーはとどまった。

 メイプルは、剣先を払われたことを利用して、セイラーよりも速く横凪に一閃していた。

 メイプルの剣が通り過ぎると、セイラーは剣を振り下ろす。メイプルは返す剣で、セイラーの剣を弾く。


 メイプルとセイラーは、メイプルが三大剣士に数えられていることを除けば、どちらも同じような評価を得ている。

 力も拮抗しており、ヴェンやクリスのような瞬殺はお互いにできなかった。


 勝負が長くなりそうな空気が会場を支配し始めた。

 しかし、セイラーはそれを嫌った。何度か激しい応酬を繰り返したが、メイプルの剣技に隙が生じる様子はない。一方、セイラーは応酬の直後に僅かに構えが崩れている。それを自分で感じている。長引けば、メイプルに分がありそうだ。


 セイラーは、メイプルの構えから一番遠いところを狙って攻めた。例えば、メイプルが上段に構えている時は足下を払い、下段に構えている時は頭部に振り下ろす。

 するとメイプルにもほんの僅かだが隙ができる。そこから崩そうと激しく休むことなくセイラーは攻め続ける。

 対するメイプルは最小の動きで隙を埋め、守る。セイラーに隙を見付けた時も軽く突く程度にとどめた。だが、激しく動くセイラーは、軽い反撃にも大きく避けてしまう。


 クリスやヴェンが予想したよりも早く、決着は付いた。

 大きく肩で息をするセイラーと涼しげなメイプル。メイプルに打たれる前に、セイラーは降参した。


「こんなに差があるとは思わなかったわ。これが三大剣士なのね」

 セイラーはメイプルを賞賛した。メイプルは恥ずかしそうに、いえ、と首を振る。

「セイラーさん、とてもお強いです。持久戦になっていたら、勝てたかどうか」

「まあ、お優しいのね」

「いえ、ほんと……」


「本当に二人とも正しいですよね」

 闘技場に上がったクリスが割り込んだ。

「メイプルはセイラーさんを崩す力がないとわかっていましたよ。だから、セイラーさんが仕掛けなければ勝負は付かなかったでしょう。ただ、メイプルは全く隙を見せませんから、遅かれ早かれセイラーさんは仕掛けちゃいますよね」


 セイラーは空を見上げた。日は落ちて、一番星が輝いている。

「そうね、実力は紙一重かも知れないけれど、差はやっぱり歴然としているわ」


 セイラーはメイプルに手を差し出した。メイプルが手を出すと、それを強く握る。

「あなたと戦えて良かった。自分より強い女性剣士がいるのって、思ったより楽しいわ」

「あ、それ、わかります。あたしも、自分より強い人に会えた時、とても嬉しかった」

 二人の周りに、クリス、ヴェン、イク、ガイアリが集まり、彼等と彼等の対戦を大きな拍手が称えた。




 対戦の後には、対戦者にスペックを加えた七名での会食が用意されていた。

 戦いの後の食事での会話は、ほとんど対戦のことになる。


「力で負けるとは思わなかった」

 ガイアリは感想を述べた。

「力を利用したんだ」

 ヴェンの答えが、スペックとセイラーは理解できないようだ。イクは得心したようで、やはり彼はスペック配下で別格のようだ。


 そんな彼でも、

「どうやって剣が手から離れたのかがわからない」

 と言う。


 皆の視線がクリスに集まるが、クリスはメイプルを見ただけだった。

 それで皆の視線がメイプルへ移る。メイプルも、これは自分が答えないといけないのだろうと理解した。

「イクさんの懐に素早く入ることで、イクさんの意識を剣から離したのだと思います」

 そして意識が離れた瞬間に剣を取り上げた。


「それを見て、メイプルは何を考えたの?」

 ヴェンやクリスの対戦をただ見ていただけではないメイプルは、クリスの質問に即答する。

「セイラーさんとの対戦の時に、隙を作らないことを心掛けました」

「うん、それで?」

「あたしの構えは綺麗だと、クリスもヴェンも言ってくれてるから、構えをちゃんとすれば、たぶんセイラーさんにも簡単には崩されない。無理に崩そうとすればセイラーさんに隙が生まれると考えました」


 クリスは泣きそうな顔をしている。

「えっと……」

 想定外の反応に、メイプルは困惑する。答えに結構自信があったんだけど、間違えたのかな。

「あ、大丈夫。ちゃんと伝わっていることが嬉しくて嬉しくて仕方がないんだよ」

 ヴェンがクリスの表情を説明した。


 セイラーは、いや、イクもガイアリも、メイプルの話を聞いて、力や技だけでなく、考えることも大切なのだと思った。

 実はこれもクリスの狙いだったりする。大陸全土で、剣の実力が上がる方が絶対に楽しいから。


 その日、フィレシティは夜明けまで興奮に包まれた。


エカト・イク、サリー・セイラーの名付けの由来は覚えていません。

タク・ガイアリは、名前は覚えていないけど、名字は巨人(giant)だったと思います。

giant -> gi + ant -> giの読み(ガイ)+antの意味(蟻) -> ガイアリ

安直ですね(汗)

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