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七色の……  作者: 四十水智美
メイプル・ウィリアムズ
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9 馬車の必要性

 サリスの剣は、『氷の剣』である。クリスはそれを戦利品として奪った。別段欲しい訳ではないが、サリスが伝説の剣を持ったままなのは嫌だ。敵対したヴィヴィアンに返すのも変なので、自分で持っておくことにした。


 その後、クリス達三人は、サリスの腕と、ヴィヴィアンの肩と、その他大勢の応急処置を行い、アンバーの屋敷を後にした。


 別にクリス達がサリスを警備に突き出す必要はないだろう。騒ぎに気付いたレイル市警がすぐに駆け付けるはずだし、それでサリスを罪に問うことができなかったとしても、彼の陰謀をスペック・ロイドが知っているのだから、戦争はもう起こり得ない。もしかしたら実際にはサリスの陰謀はなかったという可能性もなくはなく、ここから先は一剣士の出る幕ではない。


 ヴィヴィアンにしても、あとは本人の問題だ。サリスと決別するかどうかは、自分で考えて、自分で答えを出すしかない。


「この後、どうするんだ?」

 門を出たところでヴェンが尋ねた。

「どうするって?」


 クリスは怪訝そうな顔をする。『緑の剣』が済めば、次は『竜の剣』だ。その認識は合っていると思っていたが……。


「ロイド邸に寄るのか?」

「ああ、馬車か」

 馬車がロイド邸に置いたままである。馬車を取りに寄れば、ヴィヴィアンの家族に会うことになる。だが、ヴィヴィアンより先に会うのはまずいだろう。

「うん、馬車は諦めよう」

 クリスは即答した。


「じゃあ、『竜の剣の洞窟』まで歩くか?」

「まあ、気持ちは逸るが、洞窟は逃げないんだろう。歩いて行くさ」

 ヴェンは意外そうな顔をした。勿論、剣の修行という一面から見れば、馬車より徒歩を選ぶ。しかし、クリスは『竜の剣』をすぐにでも手に入れたいのだと思っていた。


「今までだって『竜の剣』を探してたんだ。確からしい情報を得たからと言って、急に旅のスタイルを変える必要はないだろう?」

「クリスは強いな」

「な、なんだよ、突然!?」

「目先に『竜の剣』()がぶら下がっても、修行(目的)を忘れないんだなと思って」


 ヴェンの意図がよくわからないが、もしかして、

「ヴェンダードは馬車が良いのか?」

 訝しげにクリスは尋ねた。

「ヴィヴィアンの両親や妻に俺達から話すのはまずいが、スペックには報告すべきかと思う。そしてそれは少しでも早いほうが良い」

「確かにそうだな」

「だから俺は馬車が良いと思うが、これはクリスとメイプルの旅だから、どうするかはクリスとメイプルで決めてくれ」


 クリスはメイプルを見るが、メイプルは微笑むだけで、決める気はない。

 微笑むメイプルを見て、心の底から幸せそうに笑うクリス。


「早く決めろよ」

「うん、俺も馬車にするべきだと思うよ。じゃあ、馬車を見に行こう」


 と言うことで、一行は馬車売り場へと進路を変えた。その後、道中では、クリスとヴェンはどんな馬車にするのかを話し合っている。必要な会話ではあるが、ほとんど沈黙せずに話し続けている二人を見て、

(仲良くなったなあ)

 とメイプルは思った。


 そしてすぐにメイプルの興味は『緑の剣』へ戻る。クリスとヴェンが話している間、メイプルは『緑の剣』をゆっくりとじっくりと眺めていた。

 ウィリアムズ家には、代々『緑の剣』が伝えられていたが、数代前から失われている。メイプルは、こんな話を幼少の頃から何度も聞かされている。それが今手元にあると思うと、とても感慨深い。


 メイプルは『楓』も持っている。どちらも剣神クリストファー・ストラティの銘剣だ。『緑の剣』と『楓』に想いを馳せていると、自然と頬が緩むメイプル。これからは『緑の剣』と『楓』のどちらを使えば良いのかな、と贅沢な悩み事をしている間に、馬車に乗っていた。


 ヴェンが御者で、クリスとメイプルは後席に座る。でも、クリスとヴェンの会話は続いていた。

 その会話は、

「スペックと何を話すんだ?」

 と、次の話題に移っていた。

(ほんとに仲良くなったね。良かった)

 メイプルは一瞬クリスとヴェンを見て、またすぐに『緑の剣』を眺め始める。


 クリスは、ヴェンとの会話の途中で時々メイプルの嬉しそうな顔を見ては、クリス自身も嬉しそうな顔をした。


 そこに来て、ようやくヴェンは気付く。

(メイプルの邪魔をしないために、俺と話してるのかよ)

 その通りだった。


(そういうことなら、馬車じゃなくても良かったな)

 実は、長時間の移動中ずっとクリスとメイプルの惚気を見ているのが耐えられそうもなかったので、ヴェンは馬車を買いたかったのだった。スペックに早く連絡した方が良いのは間違いないが、それは手紙を送れば済むのだし。

 どうやらヴェンの本心は、クリスにもメイプルにも気付かれなかったようだ。ヴェンの演技もなかなかのものである。


今回はコムフィット王国の国名の由来です。

商業を意味するcommerceと、利益を意味するbenefitを分解/結合して作りました。

名前の通り、商業で利益を上げている国という設定です。


最初はリヒット王国とうい名前にしていました。

由来は忘れましたが、たぶん「リ」は利益だったんじゃないかと思います。

格好悪いと思い、変えました。

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