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七色の……  作者: 四十水智美
三大剣士の旅
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12 暗雲

 ヴェンの話が終わってから、暫くは誰も声を発しなかった。

「人の純真に付け込む、卑劣な奴なんだな」

 感情の籠もらない声で淡々と感想を述べるクリス。ヴェンはクリスが怒っているように感じた。

「一旦、ヴィヴィアンとサリスの関係は置いておこう。まずは『緑の剣』だ」

 努めて明るい声でヴェンは話題を逸らした。


「俺が知っていたのは、レイルシティのディール・アンバーと言う男が『緑の剣』を所有している、と言う情報だ。それで今レイルシティを目指しているんだが、スペックによるとそれがサリスの息子らしい」

「偶然にも、接触前に『緑の剣』と縁が出来ちゃった訳だ」

 とクリス。


「そう言うことだな。つまり、このままレイルシティへ向かえば、サリスは、俺達の目的が『緑の剣』とは考えず、サリスの野望を打ち砕きに来ると予測して、警戒すると思われる」

「警戒されると、何か不都合なことでも?」

「『緑の剣』が見たいだけだと言っても、信じてもらえず拒否される」

 それは困る、とメイプルは顔で訴える。


「でもまあ大丈夫だ」

 ヴェンは自信満々で宣言する。

「持ち主の正当性がないから、奪えば良い」

「え、それはちょっと行き過ぎじゃ?」

「じゃあ言い直す。『緑の剣』を懸けて勝負すれば良い」

「勝負してくれるのかな?」


「スペックによると、褒められない対策を講じて、待ち構えているだろうって」

「待っていてくれるんだ」

「う……ん、そう言う考え方もあるな」

 とても前向きなクリスに、ヴェンは失笑する。

「兎も角、勝負の機会は向こうが勝手に提供してくれる。そこに便乗して『緑の剣』を懸けてしまおう」

 ヴェンの策は魅力的だが、やっぱり腹黒いよな、とクリスは思った。


「さてと、さっき横に置いた話だが」

 またヴェンの口調が重くなった。

「スペックと二人で話したことだ」

 神妙な面持ちで、クリスとメイプルはヴェンを見た。それがヴィヴィアンに聞かれたくない話であることは容易に察しが付く。


「形はどうあれ、俺達はサリスと対決することになる。サリスと決別しているヴィヴィアンは俺達と行動を共にするだろう、とスペックは予想している」

「心強いじゃない」

「いや、逆だよ」

 メイプルは意味がわからない。事情を知るヴィヴィアンが味方に加わってくれれば、サリスと戦う時に有利になると思うのだけど。


「伝説の剣を二本も譲ってしまうほどサリスに従順なヴィヴィアンだ。今はサリスの陰謀を阻止しようと行動しているが、いざ面と向かった時に、サリスに立ち向かうことが出来るのか。スペックは、いざという時にヴィヴィアンが俺達を裏切ることを心配している」

 クリスとメイプルは顔を見合わせた。

「まだヴィヴィアンの中で決着が付いていないのか?」

「サリスとの決別の真相は、サリスからのヴィヴィアンの逃亡だそうだ」

 サリスは子供時代のヴィヴィアンにすべてを教えた師匠なのだ。根が深い。


「明日、スペックはヴィヴィアンを引き留めるつもりだが、期待出来ないと言っていた。恐らくヴィヴィアンは俺達に付いてくるから、裏切りには気を付けて欲しい、もし裏切られても叶うことなら許して欲しい、だそうだ」


 はぁーっ、クリスとメイプルは大きく溜め息を吐いた。そのタイミングがぴったり同じだったので、二人は顔を見合わせて笑った。

 深刻な話をしている時に二人で笑ってんじゃねえよ。ヴェンはまたむっとした。




 翌日、朝食の席で、

「兄上は暫くここに留まってくださるのでしょう?」

 スペックは約束通りヴィヴィアンを引き留めようとした。しかし、

「私は一刻も早くサリスの陰謀を阻止しなければならない。すぐにレイルに戻る」

 予想通り、断られた。そして、

「リンさん、目的は『緑の剣』なんですよね。それならサリスと戦うことになるはずです。私と協力しませんか」

 共に戦うことを提案した。


「ロイド家に『緑の剣』を取り返す気はないのですか?」

 しかし、ヴェンは否定的な回答を返す。裏切りを懸念しての発言だ。

 予想外の言葉だった為だろう、ヴィヴィアンは数秒間言葉を失った。

「ありません。元々うちに伝わっていたのは『炎の剣』だけだったのです。二本以上持っていても良いことはありません。一本を守るのが精一杯です」


「二本目はスペックさんに受け継いでもらえば良かったのでは?」

 ヴェンは鋭いところを突く。

「ロイド家は長子相続です。スペックが受け継ぐなど、考えたこともありません」

 ヴィヴィアンは即答した。その通りなのだろう。


「でも、その案は良いですね。ウィリアムズさんが『緑の剣』を入手したら、この城を掛けて勝負を挑みましょうかね」

 クリスが城を欲しがる振りをしてカーリーの策謀を暴いた、と言う話を部下から聞いていたようである。スペックは笑顔でそう言った。

「だめだめぇーっ!」

 『緑の剣』は、クリスのじゃなくてメイプルの。慌てて拒否するメイプルにみんなが笑う。

 一人、クリスは、それが演技だと気付いて、空気を和ませるメイプルを愛おしそうに眺め、自然と頬が緩んだのだけど。


 結局、クリス達はヴィヴィアンと共同戦線を張ることで合意した。

 ヴィヴィアンは、レイルシティでクリス達をロイド家に招待する、と言う。招く準備をする為、キャシーと二人、先に馬で駆けて帰っていった。車を引かない分、早く着く。

 クリス達もすぐ後から馬車でレイルシティへ向かった。


今回は名剣『紅葉』と『楓』の名前の由来です。

本章第4話の後書きから想像できてしまいますが。

小説『大久保町の決闘』のヒロイン杉野紅葉から採りました。


「紅葉」という言葉をそのまま使いたかったので、剣の名前に使うことにしました。

それだけでは飽き足らず、同じような意味の「楓」も登場させました。

紅葉と楓という名前を付けたので、姉妹品という設定もできました。


紅葉もみじ言っていますが、『大久保町の決闘』の主人公は男の子です。

設定が絶妙で、個々の状況では笑ってしまいますが、全体を通した物語はしっかりしています。

今はもう書店では売っていませんが、古本屋などで見かけたら、是非読んでみてください。


他に『大久保町の決闘』から採用した名前はありません。


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