表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七色の……  作者: 四十水智美
三大剣士の旅
29/72

4 襲撃

 前日メイプルが希望した通り、二日目の移動はメイプルが馬を操る。そしてクリスとヴェンが後席に座るのかと言えばそうではなく、クリスは狭い前席にメイプルと座った。

 クリスとメイプルは馬の御し方を実践しながら話をして楽しそうだが、ヴェンは客席で何もやることがない。


 クリスとメイプルを見ているとお互いに好きなんだなと言うことはわかる。まるで無防備で、今朝二人と稽古をして剣筋を見ることがなければ、この二人が自分と同じ三大剣士と呼ばれているとはとても思えなかった。


 昼が近付いた頃、一日半続いた田園風景が終わり、街道は林の中に入った。林に入ってすぐの町で昼食を取る。


 もっと操縦したい、とメイプルが望むので、午後からも御者はメイプルだった。

「もう一人で大丈夫?」

 クリスの問いに、うん、と笑うメイプル。


 その笑顔を見て、クリスは客席に座った。

(客席にクリスと二人で座ったら、何か会話をしないといけないんだろうな)

 クリスと会話を楽しむシチュエーションは想像が付かない。一人寂しく座っている方がまだましだ。


 心配するまでもなく、クリスは身を乗り出してメイプルが馬を御す姿を見ていた。結局、後ろに座っても前に座ったのと同じようなものだった。




 昼に休んだ町を出てから数時間、馬車は林の中を走り続けている。クリスは身を乗り出したままだ。

(よく飽きずに見続けられるものだ)

 クリスを評すヴェンは、飽きもせずクリスを見続けていたりする。


 やおらクリスは少し顔を上げ視線を前方に移した。

 前方かなり遠くに、道幅いっぱいに広がって歩いてくる人の集団が見える。


 クリスの表情が険しくなった。

「メイプル、急いで」

 理由も言わずにメイプルに告げると、クリスは『紅葉』を腰から抜き、高く掲げた。


 集団からも勿論クリス達の馬車は見えている。その馬車の上で赤い服の剣士が剣を掲げたのが見えれば、襲撃だ、と戦う準備をすると言うものだ。集団の前方に護衛の剣士達が集まり、守りを固める。

 すると、その集団のすぐ前ともう少し手前の林の中から十数人の盗賊が現れた。目の前に急に現れた盗賊団に護衛の剣士達は驚いた。もし集団がそのまま進んでいれば、盗賊に前後を挟まれ戦いの準備をする間もなく壊滅させられていただろう。クリスのパフォーマンスのおかげで、集団は戦闘態勢を整えて盗賊を迎えられた。


 しかし、クリスの策も焼け石に水だった。十数人の盗賊は集団での戦いに慣れており、その半数の剣士では勝負にならなかった。

 盗賊は強い剣士を相手にせず、弱い剣士から倒していく。更に躊躇うことなく一般人も斬り捨てる。

 集団は三十人近くいたが、クリスがそこに着いた時には、八人にまで減っていた。その八人中二人が警護の剣士の生き残りだったようで、二人で残った六人を護ろうとしている。


 この二人はなかなかの使い手のようで、十人以上の盗賊を相手に頑強な抵抗を見せていた。しかし、多勢に無勢、一人が怪我を負い、剣を落としてしまう。武器を持たない剣士に五人がかりで、斬り掛かるのではなく、体当たりを食らわせる。倒された剣士が顔に巻いていたマスクを、盗賊の一人が剥ぎ取ると、そこからは美しい女性の顔が現れた。斬らなかったのは、女だと気付いたからだ。

 にやつく盗賊、叫ぶもう一人の剣士。


 次の瞬間、一人の女剣士に群がる五人の盗賊から、次々に悲鳴が上がった。

「あぁ、『紅葉』、君を汚してしまった。許しておくれ」

 盗賊の腿や脹ら脛を深く斬ったクリスは、その場の全員に聞こえるように呟いた。


 『紅葉』と聞いて、その場の誰もが、そこに登場した、派手な服装の剣士がクリストファー・ストラティだと察した。


 クリスは倒れた五人の盗賊から剣や金棒などの武器を奪うと、それらを離れた場所に投げ捨てた。そして、盗賊を押し退()けて、倒れている女剣士が起きるのを手伝い、尋ねる。

「あなたが守ろうとしている人達は誰?」

「カーリー卿、ノーム共和国で有数の富豪です」

「なるほど。では奴等は金持ちを狙った盗賊って訳だな」

 大きな声で確認するクリス。


 可能性として、襲った側が被害者と言うこともないとは言えないので、一応確認したのだ。

 もし違っていれば、盗賊から何らかの反応があるはずだが、予想通り盗賊から否定の声は出ない。

 勿論、女剣士は

「ええ」

 と肯定した。


 盗賊退治が正当であることを確認したクリスは、もう一人の剣士、これは紛れもなく男、それと復活した女剣士と力を合わせ、盗賊と戦うことにした。


 数えると盗賊は十五人。そのうちの五人は道にうずくまって呻いている。

 十人ならば、最近もナコとアトを助けた時に戦った。違いは、クリス一人ではないことと、盗賊がクリスと知って警戒していることだ。


 警護の男剣士はかなりの腕前だった。クリスの援護を受けて、クリスと同じペースで盗賊に深手を負わせていく。クリスが三人、男剣士が三人、女剣士が一人、盗賊を斬り捨てた時、残った三人は逃げた。


 しかし、その先にはヴェンが両手に剣を構えて待っていた。盗賊は一瞬躊躇したが、クリスを含めた三人を相手にするよりましだと判断してヴェンに突っ込む。それがまさかクリスと互角の強さを持つ剣士だとは微塵も思わない。

 盗賊三人はものの見事にヴェンに斬られた。


今回は、女性側の主役、メイプル・ウィリアムズの名前の由来です。

メイプルは、『大久保町の決闘』という小説に出てくるヒロインの杉野紅葉から採りました。


その小説は大久保町シリーズという三部作の第一作目なのですが、それぞれ完結しています。

紅葉が出るのは一作目だけです。

言うまでもなく、うちにあります(笑)


紅葉ちゃんは本当に良い娘で、ヒロインの名前を考えた時、紅葉以外は考えられませんでした。

『七色の……』の人物名はカタカナなので、紅葉そのままは使えず、メイプルに変えました。

メープルでなくメイプルなのは、英語の発音記号に従いました。


紅葉が出てくる一作目を、私は十回以上読みました。滅茶苦茶面白いです。

最初に読んだ時、電車の中だったのですが、面白すぎて笑ってしまって、恥ずかしかったです。

続きは家で読みましたが、小説を読んで抱腹絶倒したのは、このシリーズだけです。

今はもう書店では売っていませんが、古本屋などで見かけたら、是非読んでみてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ