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七色の……  作者: 四十水智美
暗殺未遂
19/72

8 スレッド見物

 翌日、クリス達一行はロウディの案内でスレッドシティを見物した。


 最初に、ヴェンダード・リンかも知れないアテナンド・フィーニックを見てみようということで、ロウディはクリス達三人をネオレド王国に雇われた剣士達が集まっているという建物へ連れて行ったが、そこには誰もいなかった。

 仕方がないので、それから昼過ぎまで、お土産屋の名物おじさんやランチの美味しい店など、庶民の視点で市内を楽しめるスポットを何ヶ所か巡った。

 その後、もう一度アテナンド・フィーニックを見に行ってみたが、やはりいなかった。

 結局、一日を市内見物に費やし、クリス達はロウディからスレッドシティでお金をかけずに遊ぶ方法を学んだ。


 クリスやメイプルのような有名な剣士は大概金持ちだが、旅をしている時にはあまり金を持たない。いや、そう言うと語弊がある。勿論、全額を持って歩く訳ではないが、それでも大金を身に付けている。だが、宿泊費や食費は毎日必要だし、旅をしているといつ金が必要になるかわからないので、無駄遣いはできない。

 そう言う意味では、金を使わずに遊ぶ方法を教えてもらえるのは、非常に価値のあることなのである。




 夕方、ウィラーン王国大使館に戻ると、ロウディはクリスに、いつフリクトシティに戻るのか、尋ねた。

 その質問に答える代わりに、クリスはマーブルを見て、

「俺達って三日間だけ遊べるのか?」

 と聞いた。アットが、ロウディはあと三日いるだろうと言っていたことを指している。

「そうだな」

 マーブルは肯定した。


 明日がその三日目である。

「では、明日はスレッドリンドル城を案内しましょうか?」

 ロウディは、クリスではなく、マーブルに尋ねた。ネオレド王国とマーブルのスタンレー家との確執を抑える手助けをしましょうか、と提案しているのである。


 これ以上ウィラーン王国の外交長官の貴重な時間を奪っては申し訳ないと、マーブルは丁重に断った。

 しかし、

「どうしてマーブルが勝手に決めるかなぁ。俺はスレッドリンドル城に入ったことがないから、一度行ってみたいんだけど」

 と、我が儘な発言をするクリス。


「クリス、クリス、それはね」

 メイプルはクリスに、ロウディの提案の意味を教えようとしたが、

「あれ?」

 メイプルははたと気付いた。

 クリスがロウディの真意に気が付かないはずがない。


 それを見て、マーブルもクリスが我が儘で言ったのではないと気が付いた。

「まさか、クリスも俺とネオレド王国を仲直りさせようとしてる訳?」


「別に。ただ、ロウディの申し出を無下に断るから」

「無下にではない。個人的な争いに他人を巻き込む訳にはいかない」

「それならそう言えば良い。忙しいロウディの時間を言い訳にするのが腹立たしい。それでもロウディはマーブルの為に時間を割きたいと言っているのに、どうしてそれをそんな理由で断れるかなぁ」


 マーブルは、クリスの友を思う心に感銘を受けた。一緒にロウディの暗殺未遂を手掛けることになってからのクリスを見て、クリスは勝手な人間だという印象を強く受けたが、そこまでロウディのことを考えているとは少しも思わなかった。


「クリスの言う通りだな。じゃあ、お言葉に甘えて、明日はスレッドリンドル城へ行こうかな」

「おいおい、他人を巻き込むことは出来ないんじゃないのか?」

「そんな他人行儀なことを言うな、とか言われて、結局行くことになるんじゃないの?」

「おまえ、意外と良い奴だな」

「クリスの意外性には負けるよ」

 にこにこと笑うクリスとマーブル。


 それを見て、ロウディは、クリスとマーブルの仲を取り持つ役目を終えたと、安心した。

 満足そうに笑うロウディを見て、ロウディの真意はクリスとマーブルの仲を取り持つことだと気付いたメイプルは、クリスとロウディは親友なのだと得心した。そして二人を羨ましく思った。




 スレッドシティの三日目は、約束通りロウディがクリス達をスレッドリンドル城へと案内した。


 スレッドリンドル城は大陸で最も荘厳な城である。スレッドシティは地理的に大陸の中心にあり、この地域では昔から戦火が絶えなかった。それを絶やす為、数百年前、時の権力者は巨大な城を築き、力を誇示した。それ以来、この地域における武力衝突は激減した。だから、この城は平和の象徴でもある。


 そして、今はネオレド王国の王城である。


 既に訪問することを伝えてあったと見えて、ロウディが正門で門番に来意を告げると、

「少々お待ちください」

 しかし、少しも待つことなく、一人の男が出てきた。


 爽やかな身嗜みのその男は、見たところは三十過ぎで、体格が良く、風格を備え、威厳があった。

「エリアノス・ソーラだ」

 本人が近付く前に、ロウディが小声で伝えた。


 それを聞いて、メイプルは、

「えっ」

 あの人が、と小さく驚いたが、クリスとマーブルは無反応だった。

 解説すると、メイプルはソーラの名を知っていて反応したが、クリスは知らなかったので反応しなかった。そして、マーブルが反応しなかったのは、ソーラの顔を知っていたからだ。


 エリアノス・ソーラはネオレド王国の国防長官である。政治的にはそれだけで十分に有名な人物だが、現実には、政治的に有名な人物で一般的にも有名なのは国王の名くらいである。長官の名を知っている人は案外少ない。だから、他国の王の名は知っていても、その国の長官の名を知らない人は多い。


 それでもまず間違いなく、旅の剣士は各国の長官の名を知っている。全員とは言わないが、国防や外交などを担う重役の名くらいは。各国の情報に詳しくないと旅の剣士を続けるのは危険だし、逆に情報が豊富なら何かと有利だからだ。

 統計的に、強い剣士ほど各地のニュースをよく知っている。そういう意味で、クリスは異質である。


 ところで、メイプルがソーラの名を聞いて驚いたのは、わざわざ長官がお出迎えに来たから、ではない。ロウディも長官なので、長官が出迎えても可笑しくはない。


 エリアノス・ソーラは長官である一方、非常に強い剣士として有名なのである。この為、タンレリア大陸でこの長官の名前を知らない人は少ない。

 ロウディ・ヴィドゥニとエリアノス・ソーラは、国家の重役でありながら、剣も強いと言うことで、大陸全土で有名なのだ。


 そう言う有名人に会えたと言うことで、メイプルは驚いたのである。


「お待たせしました」

「わざわざのお出迎え、ありがとうございます」

 ロウディはお辞儀を返した。


 続けてロウディがクリス達を紹介しようとすると、ソーラはそれを制す。

「初めてお目にかかる方も見えますが、紹介は後にしましょう。中で陛下がお待ちです」


 これには流石のクリスも驚いた。ネオレド王国には、スタンレー家の人間も連れて行く、とロウディから伝えてあったと思うが、それに国王が参加すると言うことは、それだけ古い名家との確執を重く見ていると言える。ウィラーン王国の重役としてタンレリア大陸全土に大きな影響力を持つロウディが提案したとは言え、問題をそこまで重要視するネオレド王国が、クリスには意外だった。


 一行は、スレッドリンドル城の優雅なエントランスから二階の迎賓室に上がる。

 そこで待っていたのが、ネオレド王国の三代目スネイキー・リンドル王である。


 まず、ロウディがクリスの紹介をする。

「私の友人であり、剣聖としても名高い、クリストファー・ストラティです」

 クリスは軽く会釈した。

 スネイキー王とソーラ長官は会釈を返さなかった。礼儀に欠けているのではなく、驚いて挨拶を忘れた、と推察するのが正しい。クリスが行くことは伝えてなかったようだ。


 と言うことは、メイプルのことも伝えてないはずで、

「その剣仲間であり、私の友人でもあるメイプル・ウィリアムズです」

 と紹介すると、彼等は、今度は、メイプルの会釈に対する返礼だけでなく、顔に現れた驚きの表情を隠すのも忘れてしまった。


「同じく彼等の剣仲間であり、私の友人でもあるマーブル・スタンレーです」

 最後にマーブルを紹介すると、国王と長官はようやく我に返り、マーブルに会釈を返した。


 続いて、ソーラが紹介を始めた。

「我が王、スネイキー・リンドル王です」

 ネオレド王国建国時代を知る最後の国王である。建国からまだ三十年経っていないネオレド王国は、スネイキーが二十歳を過ぎた頃に建国された。

「そして私はネオレド王国で国防長官をしているエリアノス・ソーラです」


 それぞれの紹介が終わると、早速国王の案内で、スレッドリンドル城を見て回った。メイプルは噂と違って十代なんですよ、と言う話もあり、城の見学は良い雰囲気のまま終わった。


 ロウディの紹介がすべてだった。スタンレー家のマーブルは、クリストファー・ストラティ、メイプル・ウィリアムズと言った錚々たる剣士と友人であり、ウィラーン王国の重鎮であるロウディ・ヴィドゥニとも親交がある、と伝えたのである。

 つまり、スタンレー家と仲良くしない場合、人気と実力を兼ね備える剣士と、それを支持する大陸全土の庶民、そしてウィラーン王国やその友好国が、ネオレド王国に敵対する可能性がある、と示唆したも同然なのである。


 だからと言って、すぐに友好関係を築ける訳ではないが、少なくともスタンレー家に対する圧力は減るに違いない。


暗殺は未遂に終わりました。

次から、新章です。

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