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七色の……  作者: 四十水智美
暗殺未遂
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7 ロウディ(後半)

「ところで、今日はどうしたんだ?」

 ロウディに尋ねられ、クリスはマーブルを見た。マーブルが話してくれ、という合図である。自分で話すと、何でも言ってしまうので、自粛したのだ。


 しかし、ロウディ・ヴィドゥニとこのように話すことになるとは全く予想していなかったマーブルは、何をどこまで話して良いものなのか、判断に迷った。

 そして、マーブルはメイプルを見た。


 その視線に気付き、

「えっ、あたしが話すの?」

 メイプルは心底驚いた。


 クリスはにこにこと笑って頷いているし、マーブルは顔にお願いしますと書いてある。仕方なく、メイプルは話すことにした。


「えっと、あたし達の旅の目的なんですけど、それは何かと言えば、剣技を披露して有名になることなんです。だから、タンレリアで一番人の往来が多い都市に行こうってことになったんです。それで、一番と言うとウルバネかスレッドですよね。でも、ウルバネは最近まであたしがいたところだったので、エリーからは遠くなるけど、スレッドに来ることになったんです。そして今日やっと着いたんです」


 折角丸く収められそうな話を拵えたのに、クリスは、

「良い子でしょ?」

 ぶち壊しにした。


 マーブルが話すのを躊躇った時点で、こんな何事もないような話ではないことは想像が付くだろうが、わかっていても話さないのが暗黙の了解というか、ある種の美徳なのだ。


「マーブルが躊躇したことで、俺達が何をやっているのかわかったんじゃないの?」

「うん。と言うか、おまえが彼に話をさせようとした時点でわかったよ。でも、流石に、今日暗殺に来るのが君達のような超一流の三人組とは思わなかったけどね。だから、クリスがスタンレーさんに話を振らなければ、先程ウィリアムズさんがお話になったことを素直に信じたと思います」


「暗殺というのはどう調べたんだ?」

 ロウディが暗殺未遂ではなく暗殺と言ったこと、クリスが実行部隊のうちの一人であると知らなかったことに、クリスは疑問を感じた。ロウディにしては、情報が中途半端だ。


「昨日、ネオレド王国のアテナンド・フィーニックと名乗る人物が来て、コムフィット王国で俺を暗殺しようとする動きがあると言ってきたんだ」

「アテナンド?」

 声を合わせて聞き返すクリスとメイプル。

 アットの本名がアテナンド・フィーニックではないか、と思ったのだ。


「知っているのか?」

「いや、人違いかも知れない。そうだ、マーブルは知っているんじゃないか?」

「そのアテナンド・フィーニックがアットじゃないかってことか?」

 クリスとメイプルは同時に頷く。


 それにマーブルが答えようと口を開き掛けた時、ロウディが尋ねた。

「そのアットというのは?」

「俺達におまえの暗殺未遂を命令した奴だ」


「未遂?」

「成し遂げないこと」

「意味を聞いているんじゃないと思うよ」

 クリスに小声で伝える、親切なメイプル。

「わかってる」

 と、こちらも小声で返すクリス。


「兎に角、暗殺失敗を前提とした人選になっているんだと。そうだったよな」

 クリスはマーブルに確認した。

「そう言う意味では、ロウディ・ヴィドゥニ暗殺部隊が一番適切な人選だったことになるな」

 マーブルの発言に、

「ほんとだね」

 と賛同するメイプル。

 しかし、ロウディは反対する。

「結果的にはそうだが、純粋に戦力だけを考えると、俺は殺されてるなあ。人選、誤ってないか?」


「アットの考えている構図は、俺がロウディの暗殺を謀る、ロウディは防御する、マーブルもロウディを守る、メイプルは戦力に入らないってところだと思うぞ。だから、一応正しい人選だったと言えるな」

「どうして戦力に入ら……、そっか、知らないんだな」

 マーブルもさっきまでメイプルを知らなかったことを思い出し、ロウディは納得した。


「それで、アットの本名はアテナンド・フィーニックなのか?」

 クリスは中断されていた質問を再度マーブルに投げた。

 だが、マーブルの答えは、

「前にも言った通り、アットのことはどんな些細なことでも、俺の口から言うことはできない」

 予想通りだった。アットがアテナンド・フィーニックだとすると、全然些細なことではないけれど。


 そこへロウディが予想外の発言をする。

「アットが何者かは知らないが、アテナンド・フィーニックと名乗った人物の本名は、多分ヴェンダード・リンだぞ」

「な!?」


 流石のクリスも、ここで現代の二大剣士のもう一人の名が出てくるとは露程も考えていなかった。

「もしかしたら、クリス対ヴェンダード・リンの勝負が見られるかも知れないな」

 ロウディはちょっと楽しそう。


「いや待て、さっき、ネオレド王国の、と言わなかったか?」

「ヴェンダード・リンはエルテック王国出身なのに、か?」

 クリスは頷いた。

 ロウディは笑って続ける。

「偽名を使うのに、出身国を偽らない理由はないだろう。まあ、俺の勘違いと言う可能性も否定できないが」

「おまえの言うことだ、間違いじゃないだろう」


 クリスと二人だけなら、ロウディも曖昧な予想を口にするが、メイプル、マーブルと言った初対面の人間との会話では、ロウディが確証を得ている予測しか言わないことをクリスは知っている。


 ヴェンダード・リンと接触するかも知れない、と考えると、ちょっと緊張するクリスだった。


「それはそうと、ネオレド王国とコムフィット王国が争っている理由は知っているのか」

 ロウディが心配そうに尋ねると、クリスは、まあな、と頷いた。


 マーブルは、自分が話さなくても、クリスが情報を入手する手段を持っていたことを知った。それなのにわざわざマーブルから理由を聞いたのは、何故だろうか。少しでも早く知りたかったから、とは思えない。本当にマーブルをフリクトシティへ帰らそうとしていたから? それともマーブルに打ち解ける切っ掛けを与えた?


 ロウディは、

「理由を知っているならクリスなりの考えがあるのだろうが、一応言っておく」

 と前置きしてから、クリスが荷担しているコムフィット王国が加害者で、ヴェンダード・リンが協力していると思われるネオレド王国が被害者だから、抜けた方が良いぞ。二大剣士と呼ばれる剣士の立場が異なると、色々と比較されるぞ。などとクリスに注意した。


 クリスは口元に微笑を浮かべ、しかし目は真剣にロウディを見つめ、その話を聞いている。

 それを見て、メイプルは二人の関係を素敵に感じた。


 忠告の後は雑談に花を咲かせた。




 この日、クリス達三人はそのままウィラーン王国大使館に宿泊した。


 夕食も四人で一緒に取り、その場でクリスは、メイプルとロウディにお互いを名前で呼び合うように勧めた。クリスにとって、ロウディとはこれまでもこれからも親友だし、メイプルとはこれから先一緒に旅をする仲なので、その二人の間が他人行儀なのは嫌だったのだ。


 今回もまたマーブルが蚊帳の外になったが、ロウディは偉い人で、ちゃんとフォローを入れた。

「今後はスタンレーさんとも親交を持ちたいと思っています。これを切っ掛けにお互い名前で呼び合いませんか?」

 そして、マーブルが、

「私の方からもお願いします」

 と返事をして、ロウディとマーブルも名前で呼び合うことになった。


 ロウディが素晴らしいのは、そこで終わらないことで、それまでメイプルとマーブルがお互いの名前を呼んだのを聞いていなかったので、その二人も名前で呼び合うようにしようと働きかけた。

 もしかしたら、メイプルはここに来る前にマーブルの名を呼んだことがあるかも知れないが、少なくとも、マーブルは今日メイプルの名を知ったはずだ。


「それでは改めまして、ロウディ、マーブル、ストラティさん、宜しくお願いしまーす」

 遊び心いっぱいのメイプルの挨拶は、みんなの心を和ませた。


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