表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコキラーはここにいない  作者: 生吹
Knave And Youth
6/32

取引

 時計の針が六時を回ったころ、ビスカッチャのドアはガチャガチャと耳障りな音を立てた。

 佐倉は相変わらずカウンターの椅子に座ったままケイの帰りを待っていたが、ドアが開かれる音を聞いた瞬間、もげるほど猛烈な勢いで首をそちらに向けた。

 そこには数時間前に路地で出会った人物とは似ても似つかない女が立っていた。癖のある薄茶色の髪を適当に一つにまとめ、上は胸元の空いたシャツ、下はショートパンツにショートブーツといういかにも元気そうな出で立ちである。決して童顔というわけではなく、どう見ても二十歳は越えているように見えるが、どことなく子どもじみた雰囲気をまとっている。

「ただいまー」

 女は何食わぬ顔でそう言うと、佐倉の隣の椅子を引いてどっかりと腰かけた。

「なんだジュナか。ケイはどうした? うまくいったか?」

 マーティンはアジの酒蒸しを皿の上に乗せながら、ほぼ確信した様子で尋ねた。

「幸い、朴の言ってたことは正しかったみたいだよ。でも強盗たちについては、どっから湧いた奴らかわからなくて……ケイはチャンのところに行っちゃったし、強盗の方は木戸に任せることにした。私は面倒だから帰ってきちゃった。私はただのここのアルバイトだし」

 ジュナという女はマーティンから魚の乗った皿を受け取ると、佐倉の方に差し出した。

「で、佐倉サンはチャンにいくら渡した?」

「え?」

 予想外の質問に佐倉はしきりに目を泳がせた。どういうわけかジュナは佐倉の名前を知っていた。この手の人間には噓をついてはいけないという気がした。

「五万? 十万? もっと上?」

 ジュナはそう言って無邪気な眼差しを向けている。彼女の目に自分の怯えた顔が映っている。

「い、いくらだっていいじゃない! 実質お金は全部強盗に取られちゃったんだから……」

 佐倉は絞り出すように言った。

「いいなあー。あなたからたんまり貰った挙句、荷物丸ごと盗んで、更にはケイをどっかのジジイに売り飛ばして、チャンは一体いくら儲かったんだろう? 仲間の強盗と分けるにしたって、それなりの額が手に入ったでしょうに。……マーティン、お酒取って」

 ジュナは自分の分の魚をナイフでつつき回しながら言った。

「あなた、何者? ケイちゃんと面識があるの? あの子はあれからどうなったの? チャンに捕まったって、それ大丈夫なの?」

「質問はひとつずつにしてくれない? あの人さらい愛好会が誰と取引したのかも、とっさの判断であんたとケイの存在をすり替えることも、こっちは全部予測してたの。と言っても、強盗の存在は想定外だったけど。今回の目的は二つあって、一つは二日前に誘拐された女の子を救出すること。そしてもう一つは――」

 ジュナはマーティンから酒のボトルを受け取ると、並々とグラスに注いだ。

「もう一つは、あなたからお金を巻き上げること。つまり、客の横取りね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ