半年後
外での仕事を終えた木戸が事務所へ帰ってくると、いつもと変わらない日常がそこにはあった。マーティンはカフェで常連相手に客働き、ジュナは当たり前のようにバイトをさぼり、メイヤーは事務所で依頼人と話をしていた。その横では犬のマリーが寝そべっている。
あれから、ブレントの行方はわかっていない。傷が完治してから何度か灯台に足を運んだが、あの花瓶の中の花が取り換えられることはなかった。気が付けば、いつの間にか木戸が花瓶の花を差し替えるようになっていた。
すべては悪魔の消失によってうやむやにされてしまったかのように思われた。彼が散らかした玩具は今でもそのままになっているのだ。
木戸は何か飲もうと思い、キッチンへ入った。キッチンではケイが面倒くさそうに二人分のコーヒーを淹れていた。
「え、三人分要るんですか?」
ケイは木戸の姿を見るなりそう言った。
「いや、いい。……不機嫌そうだな」
「さっき、リサから手紙が届いたんです。ジュナが私がここに住んでいることを喋ったようで」
「リサ?」
「ブレントがチャンだった時に売った私の友達ですよ。……と言っても、本人はもうそんなことどうでもいいみたいですが。彼女、今いる店を辞めて結婚するんだそうです。それで、『あの時のあなたの言ったことは正しかったのかもしれない。きっかけをくれてありがとう』だそうです。クソッ」
「それが不満だと?」
ケイはジョボジョボと音を立ててコーヒーをカップに注いだ。跳ねた熱々のコーヒーが木戸の方まで飛んできた。
「熱っ」
「結婚式の招待状が届いたら燃やします」
ケイは構わず続けた。
「でも、一応感謝の手紙だったんだろ?」
木戸がそういうと彼女は一層顔をしかめた。
「わかりませんか? 結局彼女を救ったのは、私じゃないんです。彼女の結婚相手は店の常連です。それも私よりよっぽどマトモそうな」
「待て。もう調べたのか?」
「いえ、写真が入ってたので。もちろん、本当にまともかどうかは後でちゃんと調査します。最近すっかり忘れかけていましたが、一応私は調査員なんで」
ケイはそう言うとコーヒーを依頼人の所へ持って行った。終始不機嫌そうではあったが、彼女は本気で怒っているようではなさそうだった。木戸の目には、どこかほっとしているようにも見えた。
キッチンの窓から春の温かい日差しが差し込んでいた。この日差しの中にいると、まるで自分が平和な世界の住人であるかのように錯覚してしまう。悲惨な出来事などまるでなかったかのように、悪魔などこの世に存在しないかのように。
木戸は窓を閉めた。そして冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、二階の寝室へ上がっていった。
寝室のデスクの上には、教会に関する資料の山が乗っていた。
ここから先は番外編を書けたら書こうかな…と思っていますが、今のところストーリーは考え付いておりません。ですのでしばらく更新が途絶えます。
大変中途半端ですが、本編はここまでです。
反省会↓
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