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ブレント

 それから更に一週間が過ぎたころ、テオは近くの海岸で見つかった。彼が生きた状態で教会へ帰ることはなかったのだ。

 彼の葬儀にはブレントもやって来た。彼は終始うつむいたままだった。葬儀が終わってからというもの、彼はいつにも増して教会へやって来るようになった。特に、木戸のそばにいる機会は格段に増えた。

「おい、ブレント! こっち来て遊ぼうぜ」

 リーダー格のケント・ウィリアムズがブレントに声をかけた。彼は木戸の方を見た。親友を失った悲しさからか、このときの木戸はみんなの遊びに積極的に参加しなくなっていた。

「ぼくはいいよ」

「また要と一緒にいる気か? やめとけよ。テオがいなくなって悲しいのはわかるけどさ、いつまでそうしてるんだって感じだよ。女じゃあるまいしさ」

「何言ってるんだ。今一番つらいのは彼なんだぞ」

 いつまでも落ち込み続ける木戸に対し、ブレントは親切だった。そのためしばらくは穏やかな日々が続いていた。しかしある時を境に、再び事態は急変した。

「おれはどうしてテオが死んだのか知りたい」

 始まりは木戸の何気ない一言だった。

「一つだけ思い出したことがあるんだ」

 ブレントはささやいた。

「ケントって子がいるだろ? 彼は少し前からテオと仲が悪かったんだ。確かテオの大事にしてるプラモデルを盗ったとか盗ってないとかで揉めてたよ」

「それ、本当か?」

 木戸はブレントの目を見た。相変わらず真剣で澄んだ目をしていた。

「確かにあいつならやりかねないな。あいつ、自分が一番年上だからってリーダーみたいに威張ってるんだ」

 気が付けば二人の周りには他の子供たちが集まっていた。これはいつもの光景だった。ブレントが真剣に話し出すとみんなが耳を傾けた。

「もしかしたら、彼なら何か知っているかもしれないよ」

 ブレントの一言が、魔法のようにみんなの目の色を変えた。


「おまえ、テオに何かしたか?」

 いてもたってもいられなかった木戸は、その翌日ケントを誰もいない裏庭に呼び出して直接質問することに決めた。

「おれが? バカバカしい。何もするわけないだろ」

「知ってることを全部話せ。そしたら誰にも言わない。おまえが何を言い出しても、おれはそれをばらさないから」

「何もするわけないって言ってるだろ。しつこいな!」

 ケントはついに怒り出した。彼は実際何もしていないのだから当然なのだが、八歳の木戸にその事実を知る術はなかった。

 その時、誰もいないはずの裏庭に数人の足音が響き渡った。

「でも、ケントとテオがケンカしてたのはブレントが見てるんだぞ!」

 仲間たちが総出で駆け付けたのだ。みんながケントのことを敵意を持った目で見ている。その中にはブレントの姿もあった。

「なんで? どうしてみんながここに……?」

 木戸には訳が分からなかった。今日ケントを裏庭に呼び出すことは、ほかの誰にも言っていないはずだった。

「ウソだ! おれ、ケンカなんてしてない!」

 ケントは訳も分からず叫んだ。

「それこそウソだよ。あたしだって見たんだから!」

 ブレントの隣に立っていたユナという少女が金切り声をあげた。ケントはますます腹を立てた様子で彼女を指さし、怒鳴り始めた。

「いつ? どこで? どうせウソつきユナの言うことなんてデタラメだろ! そういうおまえだって、前にテオの悪口ばっか言ってたじゃねえか!」

 辺りがざわざわとどよめきだした。「ウソでしょ」「ほんとなの?」という声は木戸の耳にも入ってきた。

「わたしそんなこと言ってない!」

「じゃあおれだってケンカしてねえよ。それに、おまえの場合はテオに対してだけじゃない。いつも仲良くしてるやつらの悪口も言ってるじゃねえか」

「ねえなんでそんなウソつくの!?」

 突然部外者に口を挟まれ、全く話は進まなくなってしまった。誰もが切り出す言葉を見失っている中、ブレントだけは冷静だった。

「ねえ。ちょっといいかな。ケント。君の上着のポケットからちょっとだけ出ているもの、何?」

「……え?」

 ブレントの言葉に、みんなの目線は一斉にケントの上着のポケットへ集中した。確かに、彼のポケットからは何かが覗いているように見えた。

「あたし見てくる」

 一人の少女が駆け寄ってケントのポケットに手を入れた。

「あっ、これ……」

 中から出てきたのは、テオが生前持っていたプラモテルだった。

「やっぱり、あいつが何かしたんだ!」

「ブレントの言うとおりだ!」

 仲間たちの声が木戸の頭の中で木霊した。その瞬間、自分の目の前にいるケントが、この世のものとは思えないほど歪んで見えた。

「おれ、こんなの知らない! 誰かがおれのポッケに入れたんだ!」

 ケントは泣きながら必死にそう言うが、もう誰も彼の言葉に耳を貸す者はいなかった。

「なあ、いたずらなんだろ? 悪ふざけしてるんだろ? ……なあ?」

 彼の声は届かなかった。小さな真実は大きな嘘によってかき消されてしまったのだ。


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