ep-008 何もしてないっすよね!?
夕方5時以降って書いてるしセーフだよね(震え声)
「やっと……たどり着いたっす!」
晴天の昼過ぎ、眼前に広がる城壁と、その門の前で並ぶ人々を見てイブは叫ぶ。
「こうして、長きに渡るイブの旅は終わりを告げたのだった!」
━━完━━
「って、まだ終わってないっすよ!?私がしたのゴブリン刺し殺しただけっす!」
「それも二回とも敵じゃなくて俺だしね」
「そうっすけど!」
「あと、そろそろ周りから『なにこの娘、剣と一人で会話してるんだけど……』的な目で見られそうだけど、どうする?」
「うぅ……!そもそも、なんで剣にとりついてるっすか!?」
「それはロマンだからね!」
「ロマンって……ただの錆び付いた剣っすよね!?」
「それでも俺にはロマンなの!」
「全く理解できないっす……」
「まぁそれはおいといて、どうする?イブの体に移った方がいい?」
「まぁ……お願いするっす」
「おっけー」
するりと剣から抜け出した零は、イブの体へと憑依する。
(終わったよー)
(了解っす)
暫く無言で歩き、門の前の行列に並ぶ。
「にしても、凄い行列っすねぇ」
数台ほど馬車が並んでいて、その間から何人もの人の姿が見える様子を見て、イブはそうポロリとこぼす。
(そう?)
(そう?って、レイの世界ではこれ以上に並ぶっすか!?)
(うん、並ぶことはあるよ?あー、でも日本人はよく行列をつくる方だったなぁ。行列がある店は絶対美味しいから自分も並ぼう、的な感じで)
(それだけでこれ以上の行列をつくるっすか)
(そもそもの人の数も違うと思うしね、首都だと人口が900万人越えてるから)
「き、900万っすか!?」
(ちょっ!?イブ、声!声でてる!)
(しまったっす!)
イブの目の前の馬車に乗った御者が、ちらりと顔を出してこちらを覗きこんできた。
「こ、こんにちはっす」
ぎこちない笑顔でそう返すイブ。
変人には関わらない方がいいと判断したのか、それとも聞き間違いだと思ったのかは分からないが、怪訝そうな顔をしながら、御者は顔を引っ込めた。
(この世界でも愛想笑いするんだね)
(誰のせいっすか!)
(いや、自分で叫んだんじゃん)
(ぐっ!?)
(あはは。あ、前進んだよ)
イブが心の中で騒いでいる間に、イブとその前の馬車との距離が開く。
そんな感じで話をしながら、列が進むのを待つイブ達だった。
▽ ▽ ▽
「よし次、ここまで入ってこい」
「ようやくっすね」
十数分ほどで列の先頭に到着したイブ達の前に、門番が声をかける。
「嬢ちゃんは、一人でここまで来たのか?」
「最初の方は送ってもらって、そこから暫くは一人だったっすね」
「なるほど、途中まで送って貰ったのか。それで、何しに王都まで来たんだ?」
「勇者の証が出たっすよ!」
イブは、門番に自分の左手の痣を見せた。
「あー、なるほど。勇者ね、ちょっと待ってろな」
それだけ言うと対応してくれていた門番は、見張りの門兵を残して一度門の中へと引っ込んでいった。
「何してるんすかね?」
(さぁ……裏で連絡でも取ってるんじゃない?迎えを寄越すようにとか)
(そのわりに、勇者ってことにたいして驚いてなかったっすけど)
(だよね。なんか事務処理的な感じだったよね)
「あったあった。嬢ちゃん、左手見せてくれ」
「あ、はいっす」
イブの出した左手に門兵はなにやら石できた四角い柱型をしたものを当てる。すると、勇者の証がいきなり光を放ち始めた。
「ちょ、なんっすかこれ!?」
「うん、OKだな」
「説明が欲しいっすけど!?」
「これか?これは、女神様の力が込められた石なんだと。この石が近くにあると勇者の証が光るってんで『本物』かどうかを確かめるために使ってんのさ。勇者には支援金がでるってんで一時期は偽物の勇者ばかりが来た時もあったしな」
「(なるほど)っす」
「んじゃ、『本物』の嬢ちゃんに一つ。今の時間だと城に寄る前に宿取っといた方がいいぞ」
「そうなんすか、わざわざありがとうっす」
「おう。頑張れな」
あっさり門を通れたイブは、そのまま王都の中へ行こうとする。
(あ、イブ待って)
(どうしたっすか?)
(門番の人にオススメの宿聞いた方が楽じゃない?)
(それもそうっすね)
「門番さん、オススメの宿とかはあるっすか?」
「んー、そうだな。ここから真っ直ぐ行って突き当たりを左に入ったとこにある宿が嬢ちゃんにはちょうどいいと思うぞ」
「重ね重ねありがとうっす」
「おう」
そうとだけ答えると、門番は次の人へと向かっていった。
「さて、教えて貰った宿に行って、早くお城にいくっす!」
そう言ったイブは、門の前の広場に出た瞬間声を失った。
産まれた村一つ入りそうな広場を沢山の人々が行き交っている。広場の周りには何階分もある高い建物がまるで壁のように並んでいる。そして、まるで空の中に建っているような巨大な城。イブにとって、今その目に映る光景は、初めてが飽和していた。
(おーい、イブ?大丈夫?)
「す、凄いっす……」
(聞いてる?)
「聞いてるっすよ……」
(うん、駄目だ。俺が体宿まで移動させとくよ?)
「そうっすね……」
零は、体の方の操作権だけ確保すると、宿へ向かって歩き出した。そのうち、イブが「凄いっす!」や「ヤバいっす!」などとうるさかったので、口の操作権も確保して黙らせた。
一応零も異世界の城下町というシチュエーションに興奮してはいるのだが、あまりにイブがうるさすぎて、興奮による気分の上昇を相殺した結果、いつもより少し冷た目な零という状況だったのだった。