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ep-004 できることならやっぱり普通の転生がよかったです

 暫く歩き続けて日が暮れて来たため、イブは道の端にテントを立てて夜営の準備をしていた。


「おぉっ!出た!火打ち石!」


「ほんと、レイは何にでも驚くっすね」


「だってさ、何もかもが初めて見るんだもん」


「どんだけ田舎な世界から来たんっすか?」


「ちっちっち、間違いなのだよイブ君」


 指……はないので、手と思われる部分を指振りの様にして振る零。ただ、イブは零を首から下げているため、イブの視界の端にチラチラと映る位にしかその動作は見えてはいない。

 イブは、さっさと火を起こすと、料理に取り掛かった。


「間違いっすか?」


「俺は君の世界よりももっと発展した世界から来たのさ!だから、火を使いたいならスイッチを一捻りするだけで火を使えてね。わざわざ火打ち石で火を起こすようなことはしないのさ!」


「へぇー、それは便利そうっすね。でもそう考えるとレイは幽霊で助かったんじゃないっすか?」


「え?なんで?」


「なんでって、レイのいた場所から近くの村まで最低で1日はかかるっす。絶対に一晩は夜を明かさないといけないっすし、道を間違えれば何日も歩かないといけないっす。それなのに火も起こせないんじゃ、どっかでのたれ死ぬの確定っすよ」


 そのイブの言葉に、真っ暗な闇の中で一人飢えに苦しんでいる自分の姿を想像してしまった零は、人形の体を身震いさせた。


「怖っ!?確かにゴーストで良かった!」


 物語の異世界転生というのは誰かに助けられたりしているが、あれはとても運の良い例なのだと。大抵はイブの言うとおりに、のたれ死んでいるのではないかと零は心の底からそう思った。


「ふふ、本当にゴーストで良かったんすか?」


 だというのに、いたずらを仕掛けた子供のような笑顔で、イブはそう訊ねる。


「え?だって、一人で生きてく技術はないし……」


「確かにそうっすけど、ここには私が居るっす」


「うん?見りゃ分かるよ?」


「多分、体が有っても無くてもレイは私を助けてくれたっす、レイは良い人ぽいっすから」


「まぁ、助けに行ったときはまだ普通に体があるって思ってたしね。体が有っても助けにいったとは思うけど」


「だったら多分、今と同じような感じで旅すると思うっす。つまり、火とかは私が起こせるっすよ。それで、流石に何度か見れば火起こしなんて覚えるっす」


「えっと、つまり体が有っても、なんとか助かってた?」


「そいうことっす。それでもお化けが良いっすか?」


「そういうことならやっぱり体は欲しいよ!あと、さっきのたれ死ぬって話の時わざと自分の存在隠したでしょ!」


「別に隠した訳じゃないっす。話してる途中で普通に助かることに気づいたから、からかっただけっす」


「だいたい一緒だからそれ!」


「ふふ。よし、出来たっす」


 零のツッコミと同時に料理が仕上がる。

 味噌汁のようなスープがほくほくと湯気を上げていた。


「あ、出来た?うわぁ、結構美味しそうだね」


「まぁ、旅に出る前は普通の村娘やってたっすから。食べるっすか?」


「いいの?じゃあ、いただきます」


「え?いや、冗談っすよ?それにどうやって食べ」

(るって言うんすか?)


「そりゃまぁイブの体でに決まってるじゃん。ま、実験だと思って許して♪」


 零は、一瞬でイブに取り憑くと体の制御権を奪った。そして器に汁を注ぐと、ずずずと啜り、一息ついたようにほっと息を吐き出した。


「うん、美味しい。そんで憑依中は味も熱も感じれると……イブ、そっちは?」


(味もなんも感じないっす)


「なるほど、うん。じゃ、体返すね……の前にもう一杯だけ……うん、美味しい」


(さっさと体を返すっす)


「はいはーい」


 零は持っていた器を置くと、イブに体を返した。


「全くもう、急に体を盗らないで欲しいっす!聞いてるっすか!」


(うん、ばっちり)


「って、まだ居るっすか」


(感覚の共有で一つ試したいことがあってね、あ、好きな様に食べててくれていいから)


「そうっすか、ならそうさせてもらうっす」


 イブは、器を持ち上げると、がつがつとスープを飲み干していく。


(うーん、ここ?こっちかな。体の制御系はこの辺りだと思うんだけど……)


 零がなにやらぼそぼそと呟いているのも気にせずに、イブが食べ進めていると、急に食べ物の味がしなくなってしまった。


「レイ、味がしなくなったっす」


(あ、本当?でもこっちも味はしないしな……あ、もしかしてこっちをこうすれば……うん、なるほど。よし!憑いてる側と憑かれている側の味覚の調整するところ発見!)


「見つかったんなら早く戻して欲しいっす」


(あ、食べ終わるまで憑いててもいいよね)


「いいっすから、早く戻すっす」


(よいしょ、これで戻ったと思うけど、どう?)


「うん、オッケーっす」


 軽く汁を啜って確めると、イブはそう言った。


 その後は、イブが食べては零が美味しいと誉めるというやりとりが繰り返され、食べ終わる頃にはイブの不機嫌も直っていた。


「いやー、幽霊になってもこうやって温かいご飯を食べられるとは思わなかったなぁ」


「それはよかったっす」


「イブに感謝だね、得体の知れない幽霊の男だっていうのについていってもいいって言ってくれるんだもん」


「それを言うならこっちこそありがとうっすよ。レイが助けてくれなかったら死んでたっぽいっすから」


「女の子が襲われてたら普通助けるよ?」


「普通はすくんで動けなくなるっす。助けてくれるだけでも実はすごいことなんすよ?」


「そうかなぁ」


「そうっす」


 食べ終わった器と鍋を軽く水で洗い、布で拭き取ったイブは器を仕舞うと、零をテントの天辺に引っ掛けて、テントの中へと入っていった。


「じゃ、私は寝るっすから。分かってるとは思うっすけど覗かないでくださいっすね」


「あ、うん。お休みー」


「お休みなさいっす」


 吊るされる形になった零は、人形の状態では身動きが取れないので、人形から出て幽霊の姿でテントの上をプカプカと漂ってみることにした。


「満天の星空ってこういうことなんだなぁ」


 かつて見た、真っ暗な空にポツポツと小さな光が浮かぶだけのようなそんな星空ではなく、光が空を埋め尽くすような、まるで黒の色の方が割合が少ないんじゃないかと思うような空に、零はなんとも言えない思いに囚われた。


「別世界なんだなぁ。本当に」


 言葉にしたことで、その思いがより強くなる。


「にしても、なにか忘れているような……よく読んでた小説では……えっと、そう!夜警とか見張りとかで交代で夜を越すやつだ!……ってあれ?」


 イブが入っていったテントはもう静まりかえっている。釘を刺されたので入っていくことも出来ない。


「大丈夫なのか!?コレ!?」

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