ep-017 フルアーマーイブ爆誕!ですよ皆さん!
「ここだ」
ソールが案内したその店は、盛んに商売が行われている町の中心から外れた、住宅街にある小さな鍛治屋だった。
「ここっすか」
「普通の民家っぽく見えるね」
「腕は確かだからな、心配するな」
「まぁ、とりあえず入ってしまいましょう」
そう言ってキュヒールが先陣を切って入っていく。
「いらっしゃい」
店に入ったイブ達に、無愛想なそんな声がかかった。
声のした先には、立派な髭を蓄えた、がたいのいいおじさんがカウンターの奥に座ったまま剣を磨いていた。
「おやじ、私だ」
遠慮なく声をかけたソール。
「あぁ、ソールか。どうした?確か防具は前に直したばかりだったよな?」
ソールだということに気づいた店主は、手に持っていた剣と布をしまうと、カウンターから出てイブ達の前へ立った。
「防具はちゃんと働いてくれてるな。今日は彼女の装備を揃えようと思っているんだ、頼めるか」
ソールに紹介され、店主の視線がイブに向く。
「ふむ……ちと筋力が足りてないように見えるな。付けられる防具は結構限られてくるぞ?」
顎髭をすりつつ、そう評する店主。
「あぁ、わかっている。具体的な装備はこんな風にしようかと考えているのだが」
ソールは、懐から一枚の紙を取り出して店主へと渡す。そこには、昨夜零と話しあい決めた装備の候補がずらりと書かれていた。
「ふむ、なるほどな。探してこよう。それまでそこらの装備でも試してな」
「あの、すみません。ついでにこのメイスの点検もお願いできますか?」
「おう、任せな」
キュヒールから受け取ったメイスを担いで、店主は店の奥へ入っていく。
「ねぇねぇ、イブ!フルプレートメイル着てみない?」
「フルプレートメイルって、この甲冑のことっすか?」
「そうそう!こういう時でもなきゃ着る機会ないよ?」
「レイが着たいだけじゃないんすか?」
「それもある!」
「正直っすね。まぁ、いいっすけど」
「よし着よう!ソール、手伝って!」
「止めはしないが、大丈夫か?」
「流石に大丈夫っすよ、着るだけっすから」
「え、いや」
「ほら、ソール!早く!」
しぶしぶといった感じで、イブにフルプレートメイルを着せていくソール。
「んぐっ、なかなか……重いっすね」
「おおー!こんなに重いんだ!」
「まだ手足しか付けてないが……これ以上試すか?」
「お願いします!」
「まだいけると思うっす」
腿当て、肩、腰、胸当てとどんどんパーツを付けていく。その度にどんどんと重量は増し、イブはちょっとずつ辛くなっていき、零のテンションは上がっていった。
「だ、大丈夫か?」
「このまま頭までいってみよう!」
「ここまで来たら後は着けるしかないっす!」
謎のテンションに飲まれて二人は引き戻せなくなっていた。
「えぇい!被せるぞ」
「来るっす!」
かぽん。
「よっしゃあ!」
「重装甲イブ、爆誕!」
二人のくぐもった叫びが聞こえてくる。
「辛くなったら直ぐに言うんだぞ?」
心配そうに見守るソール。とキュヒールがイブに声をかけた。
「あ、イブさん。少しこちらに来ていただけますか?」
「え?そっちに行くっすか?」
「はい♪」
楽しそうなキュヒールの声に、零とイブは嫌な予感をひしひしと感じていた。
「分かったっす、今これを脱ぐっすから……」
「駄目です」
「え?」
「駄目って言ったんです。早くこちらに来て下さい」
なんだか無駄に艶やかな気配を纏って、キュヒールが手招きする。
「そんなこと言ったって、ろくに動けないっすよ!?」
「早く早く♪」
よたよたとしか動けないイブをどんどんと急かしていくキュヒール。
「こうなったら!レイ!ブーツに取り憑いて私を浮かせるっす!」
「了解!ホバーブーツ!」
すっと浮き上がったイブが仁王立ちのままキュヒールへと近づいていく。
「どうっすか!来たっすよ!」
自力で来た訳でははないのだが、なんだか誇らしげに胸を張ってそう言うイブ。
「それでなんだったっすか?」
「呼んでみただけです」
「なんすか!」
お店にイブの声が響く。その声もまた、くぐもっていた。
「おー、楽しそうだな」
と店主が沢山の武器防具を抱えて帰って来た。
「ほれ、胸当て、肘当て、脛当てと革鎧に小盾、それとサーベルとレイピアだな」
「あれ、サーベルっすか?」
「あぁ、それは私が頼んだ。確かにレイピアは軽くて取り回し易いが、扱うには多少の技量が必要になってくる。それに比べればサーベルの方が少し重いが、振れるのならば初心者でもある程度は扱えるだろうからな」
「そうっすか」
「さて、じゃあ試していこうか」
甲冑を全部外し、軽くなったイブに防具を着せていくソール。
「どうだ?動けるか?」
「問題ないっす。ただ、これだけで大丈夫っすかね?」
「急所と要部は守ってるさ。これ以上はさっきの甲冑みたいに動けなくなると思うぞ」
イブにバッグを背負わせつつ、ソールはそう言う。
「引っかかったりしないか?」
「大丈夫っすね」
「じゃ、次は盾と剣だ。まずこっちのサーベルを持ってみてくれ」
「……思ってたよりは重くないっすね」
「無理してないか?」
いかつい顔の割に、丁寧に客の様子を見る店主。商人の鑑である。
「大丈夫っす」
「盾も持ってみてくれ」
「こっちもいけるっすね」
「まぁ、その分打ってある板が薄いからな。剣とかの突きを喰らったり、長弓の矢を喰らったりすると貫けたりするかもしれねぇから気をつけておけよ」
「分かったっす」
「これにすんのか?」
「そうするっす」
「そうか。請求はソールにすりゃいいか?」
「あぁ、私であれば支度金として請求できる」
「じゃあ、合わせて中銀貨22枚だな」
ぽんと銀貨を支払うソール。
「おう、確かに。じゃ、調整すっから一回脱いでくれ」
「はいっす」