ep-016 ウォリアの劣等感も分からなくはないですが
土日で書き上がらない……ストックもない……
(っていう感じでイブの防具とか、細かい所とかを話し合ってたんだ!)
約束通り椅子に座っていたイブに取り憑いた零は、ハイテンションで昨日の出来事をイブに話していた。
(そうだったんすか。まぁ、レイが楽しそうならそれで良いっす)
(まぁそういうことで今日はイブの装備を揃える所から始まるみたいだから。いやー、楽しみだね!)
(そこまで楽しみには思わないっすけど、あの剣は持っていけばいいんすかね?)
(持っていった方がいいと思うよ。それとバッグとかも、全部。装備同士が干渉したりするかもしれないから、その確認もしなくちゃいけないだろうし)
(それじゃあそうするっす)
椅子から立ち上がったイブは、一度部屋に戻るとバッグに荷物を全て詰め込んでからカウンターへと向かった。
「おや、もう出ていくのかい」
荷物を全部装備した状態のイブに、女将さんはそう溢す。
「まだ出ていきはしないっす。ちょっとこの荷物が確認のために必要なだけっすから」
「そうかい」
「あともう少しだけでもおばちゃんの美味しい料理食べてたいしね」
何故かいきなり体を奪った零がそんな事を言い出す。
(ちょ、何勝手に喋ってるっすか!?)
(これくらいはいいじゃん、ここの料理本当に美味しいし)
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。今晩のご飯少しだけおまけしておくかね」
「やった♪」
(ほらいいことあった)
(そうっすけど!)
「じゃ、鍵ね」
「あいよ。いってらっしゃい」
「行ってきまーす」
(レイ!)
(今代わるから、ほら)
扉を開けた瞬間に、体を返されるイブ。
(むぅー、好き勝手しないで欲しいっす……)
不満そうに心の中で頬を膨らませる。
(ごめんごめん)
(怒ってはないんでいいっすけど)
(そうなの?じゃあ、お城目指して出発!)
(なんなんすかそのテンション……)
妙に高い零のテンションにリズムを崩されつつ、イブはお城へと歩き出した。
▽ ▽ ▽
「イフ様、おはようございます。そのお荷物はどうなさったんですか?」
荷物満載の格好に、お城の門番さんがそう尋ねてきた。
「今日はソールが私の装備を準備するってことになってたっすから、今の装備を持ってきたっす」
「なるほど、そうでしたか。では、中身の確認をさせていただきますので、そのお荷物を一度こちらで預からせていただいてもよろしいでしょうか」
「あ、はいっす」
イブは言われたとおりに、背中に背負っていた革のバッグを手渡した。
「では、お預かりさせていただきます。それと、イフ様には、イブ様の村への報償金の支払いのための手続きをしていたきます。そちらの案内は他のものにさせますので暫くお待ちください。こちらの装備は、確認が終わり次第ソールの方へ届けておきます」
「よろしく頼むっす」
門番さんが他の兵士と交代して、何処かへと装備を持っていく。暫く待っていると、また兵士がやって来てイブに着いてくるように告げた。
▽ ▽ ▽
(いやー、つまんなかった)
(それは言わない話っす)
(こういう公務って型にはまってて微妙に七面倒なのはどこの世界でも一緒なんだねぇ)
(そうっすか)
「こちらです」
「あ、ありがとうっす」
兵士に案内されてソール達の待つ部屋に入る。
「ソール、キュヒール、おはようっす」
「おはようございますイブさん」
「おはようイブ」
「二人ともおはよう」
「レイさんもおはようございます」
「おはようレイ」
人形に移った零が一度ふわりと浮かび上がってからテーブルの上に座る。
「えっと、今日は装備の確認をするらしいっすね」
「あぁ、そうだ。イブは戦った経験ほとんどがないようだと聞いて、それなら一から私が指導した方が良さそうだと思ったんだ」
「よろしくお願いするっすよ」
「ソールの指導は、厳しいけれども身に付くって評判なんですよ」
「そうっすか!なら安心っすね!」
「まぁ、努力しよう。それでまずこれのことなんだが……」
そう言ってソールが取り出してきたのはイブの装備一式。
「私の装備っすね」
「武器も防具も無し、駄目駄目だ。死にたいのか?」
「ぶ、武器はナイフがあるっす」
「防具がないだろう、それだけで駄目だ。最低限心臓付近を防ぐ防具だけでも着けるべきだ。それに、ナイフでどう戦うつもりだったんだ?仮にそこらのゴブリンが相手だったとして、やつらは君より力が強いうえに長みもある棍棒や剣を使ってくる。君に彼らを殺せるのか?」
「うぅ……それは……」
「まずは君のしてきた旅はそういうものだったのだとしっかりと覚えておくといい」
「はいっす……」
「ということで、まず鍛治屋に向かおうか」
鬼が後ろに見えそうな程の気迫を解いて、にっこり笑ったソールがそう言った。
「お、来ました鍛治屋!」
「私もメイスの点検をしてもらいますかね」
「案内はお願いするっす、ソール」
「分かった、任せてくれ。それじゃあ行こうか」
イブの装備を背負って、扉を開けようとしたソール。すると、ソールの手がドアノブに触れる直前に扉ががちゃりと開いた。ソールは慌てて飛び退いてそれをギリギリでかわす。
「おや……?部屋を間違えましたか」
開いた扉の先に立っていたのは一人の男。
「ウォリア、君か」
「ソール……」
ウォリアと呼ばれた男は、敵を見るような目でソールを睨むと、部屋の面々を一度見回した。
「なるほど、その女の子が勇者ですか。よかったですね、貴女にお似合いの勇者サマですよ」
「おいウォリア」
イブを見てそうとだけ言うと、ウォリアはソールの静止を無視して立ち去ってしまう。
「あの人は誰だったんすか?」
「彼はウォリアです。ソールはこの国で初めての女性騎士でして、ソールよりも活躍できない雑魚の男達から逆恨みのように嫌われているんです。彼はその筆頭ですね」
「彼は私と同時期に騎士へと昇格してな。色々と比べられる事が多かったから、毛嫌いされているのだろう」
「なるほどっす。だからあんなに睨まれてたんっすね」
「そういえば、彼は昨日のもう一人の方の勇者の仲間だったよね」
「そうですね」
「ということはまた会うことになるっすかね」
「かもしれないな」
「まぁ、あの程度の人のことは置いておいて、鍛治屋に行ってしまいませんか」
「そうだよ、早く鍛治屋に行こう!」
「やっぱり今日のレイはハイテンションっす」