ep-015 武器は男の子の夢ですよね
(お邪魔しまーす)
男達の体から抜け出した零は、ソールの体に入りながらそう言った。
「そこは、お邪魔しますなのか?」
(まぁ、なんだっていいでしょ。それより、俺と喋る時は心の中で念じるようにすれば、声を出すことなく喋れるよ)
(こうか?)
(そうそう)
零と話せる事を確認できたソールは、零から預かった黒のローブを、落とし物を一時的に保管しているコーナーに置いて衛兵の詰所を後にした。
(それにしても、自分の内側から声が響いてくるというのは、不思議な気分になるな)
(俺も、他人の体に入ってるっていうのはまだ慣れないかなぁ)
(君もなのか、それは意外だな)
(まぁ、なんたって幽霊になってから丸一日しか経ってないしね)
「そうなのか!?」
思わずそう叫んでしまったソールは、訝しげな周囲の視線から逃げるように少し早歩きでその場を立ち去る。
(どういう経緯で幽霊になったのか、聞いても構わないか?)
しばらく歩いてから、ソールがそう尋ねてきた。
(うん、大丈夫だよ)
(まず、幽霊になるってことは、やはり何か思い残した事があったのか?)
(いやー、それが特に思い残したことは無かったんだよねぇ)
(そうなのか。それじゃあ、どうして死んでしまったかという事は覚えていたりするものなのか?)
(まぁ、直前まではよく思い出せるよ。えっとね、道を歩いてたら、自動車っていう馬車がパワーアップした感じのやつが、目の前まで突っ込んできててさ、それが幽霊になる前の最後の記憶だね)
零がそう言うと、ソールの頭上にハテナマークが浮かび上がった。
(えっと、ジドウシャ?君の村ではそんなものが存在するのか?)
(え、村?なんでそう思ったの?)
(いや、この近くには王都を除けば村しかないだろう?)
(あれ……もしかして俺が異世界から来たって言ってないっけ)
(何?そうだったのか?)
(そっかぁ、自己紹介の時に言い忘れたのか、じゃあ後でキュヒールにも言っておかないといけないなぁ)
(そうだろうな。ところで、やはりその異世界に帰りたいと思ったりするのか?)
(うーん……まだそんな風に思ったことはないかな。でも、多分あっちの体は完全に死んじゃってるだろうし、もう戻れないだろうなって思うんだ)
(そうか……すまない、余計なことまで聞いてしまった気がする)
(いや、大丈夫だよ。それも含めて今の俺だし、それに二度目の人生ってことでこうやって楽しんでんる面もあるし。あ、もちろん人じゃないし、生きてもいないんだけどね?)
(ふふ、持ちネタかい?)
あまりに自信ありげにそう言い切るので笑ってしまったソール。
(そう、幽霊ジョークだよ。俺、明るい幽霊目指してるから)
(なら、もう十分明るいな)
(いやー、まだまだだよ)
(いったいどのレベルを目指そうとしているんだ……?)
ソールが心の中でそう溢していると、一つの大きめの建物が零の視界に入った。
(さて、着いたぞ)
(そういえば、どこに向かってたか聞いてなかったけど、この建物は何?)
(これは、王都の兵士達の寄宿舎だ。簡単に言うと今の私の家だな)
(えぇ!?それって俺が入っていいの!?)
(何、別に女子だけの寮ではないから気にすることはないさ)
(そういうことじゃないような)
(いいから入ってしまおう。ここでこうやって立ち止まってると不審に思われる)
(うぅ……分かった……)
体を貸して貰っているソールが不審な目で見られる事になるのは流石に申し訳ないので、流されるまま承諾する零。案内された部屋は、想像していた女子の部屋より落ち着いた色の家具でまとめられていて、壁際には武器防具やその手入れ用品などが並んでいた。
「さて、先ほど助けてもらった礼がしたいのだが、どうすればいいのだろうか。食べ物は食べられるのか?」
(お礼なんかいらないよ。それと、食べ物は誰かに取り憑いていれば味わうこともできるよ。まぁ、今日はもう食べたんだけど)
「しかし、お礼をしないというのは……」
(これから助け合う仲間なんだし、気にしない、気にしない)
「そう言ってくれるならそうしよう。なら、仲間としてもう一つの方の話をさせてもらおうか」
(もう一つの話?)
「あぁ、私はイブに戦闘時の指示出しを頼まれたろう?その事についての話だ。君とイブがどんな武器で戦うのか、どれ程戦えるか知っておきたいと思ってな。明日確めるつもりだったが、ちょうど君がいるから聞いてみようと思ったんだ」
(なるほどね、じゃあ俺の出来ることから挙げていくよ)
「まず、レイは何でも操れるんだったな」
(うん、さっきみたいに敵の体を乗っ取って戦えるよ。ただ、正面戦闘はそこまで強くないから期待はしないで)
「そうか。ところで、武器とかを操って戦うこともできるのか?」
(やってみたことはないから通用するかは分からないけど、多分できるよ。剣に入って飛び回ったことはあるし)
「なるほど」
(あとは、乗っ取ってる体が殺されると、殺した相手に勝手に取り憑くような気がする。本当にそうかは分からないけど)
「覚えておこう」
(とりあえず俺はそんなところ、イブの方は戦ってるのを見たことがないからどれくらい強いかは分からないけど、そんなに強くないんじゃないかなって思う。使ってる武器は少し大きなナイフだけだよ)
「ナイフだけ?本当にそれだけなのか?」
(うん)
迷いない零の返答に、ソールは少しばかり頭を抱え出す。
「いくらこの近辺に魔物が出にくいとはいえ、よく女の子一人旅でここまで来たな。いや、商人のキャラバンとかに乗せて貰ってきたのか?」
(いや、歩きだけど)
納得のいく答えが出たかと思うと、直ぐに零に否定されてしまったソールは、更に深く頭を抱える。
「歩き……まぁ、少しばかり危険だが、出来なくはないな、うん」
とりあえず強引に自分を納得させるソール。
(とりあえず俺の知ってるのはそれくらいかな、どう?役に立ちそう?)
「あぁ、すごく参考になった。しかし、イブがナイフだけというのはな……他にも武器を持って貰うべきか」
そう言ってソールは腕を組みつつぶつぶつと独り言を溢しながら悩み始める。
「まず、レイの話から考えるに、イブに戦いの心得はないと考えておいた方がよさそうだな。とすると後衛に置いておくのがいいか?しかし、1-2の編成だとなにかあったときに守りきれないか……ならば防具を固めて前衛になってもらった方がいいかもしれないな。とするとまず盾は必須か」
(盾!巨大なタワーシールドとか格好いいよね!)
「いや、彼女の細腕でタワーシールドは支えきれないだろう。バックラーでもぎりぎりなような気がするが、持って貰うほかないだろうな」
(あー、バックラーもいいよね。パリィ!パリィ!)
「パリィもそこそこ高等技術だ、単純に身を守るための盾だよ。後は武器……」
(武器、ハルバードとかどう?)
「君、イブが持つって言うことを忘れてないか?絶対に取り回せないだろう、却下だ」
(トマホーク)
「それも重すぎる」
(ショーテール)
「なぜ使いづらいのを選ぶ!」
(ていうのはジョークで、レイピアが一番妥当な所なんじゃない?)
「細剣か、まぁまずはそこら辺からだろうな。なら明日はイブにそれを教えるとしようか」
(にしても武器かぁ、俺も武器持って戦ってみたかったなぁ)
「先ほどのフードのように、なにか体の代わりになるようなものに取り憑ければいいのだろうがな、人ほどの大きさの人形とかがあればいいのか?」
(そんなのあるかなぁ……)
「まぁないだろうな」
(だよねー)