ep-014 このあと直ぐにすり抜けて出てきました
「なんだこいつ!?顔がねぇ!?」
角材を受け止められて、零と向き合うことになった男が、驚愕の声を上げた。
「実は、体もないんだよっと!」
角材に絡み付いた部分を起点に、ふわりとローブが広がると男の体に纏わり付いた。
「うわっぶ!?マジでなんなんだよ!?」
振りほどこうと男がもがく。
「それよりソール!こっちは任せて、そこの二人を頼んだよ!」
「あ、あぁ!」
呆気にとられていたソールが零の声で持ち直すと、勢い良く振り向いて、まだ呆けていた二人にタックルを決めた。
「くそがっ!放せっ!」
「ぐっ!」
片方はそのまま組み倒して地面に押さえつけることができたが、もう片方は転んで手をついただけにとどまってしまった。しかし、ソールの手がその男の足をがっしりと掴んでいた。
「逃がさないぞ!くっ……!」
そうは言ったものの、そう長く留めておけそうにはないという事を理解していたソールは、何か打開策がないかと高速で思考を回転させる。だが、片手で男一人を抑え込んだ上で、残った手でもう一人の男を捕まえる妙案など浮かんではこない。
「おらっ!」
そうこうしているうちに、掴んでいた足を引き抜かれてしまう。
「待てっ!」
「誰が待つ━━」
「どっせい!」
と、男の言葉を遮るようにして、気の抜けるような声とともに、黒いフードを着た角材の男が逃げだそうとしていた男の上にのしかかった。
「ぐぇっ」
ヒキガエルの鳴き声のような音をたてて男が潰れる。その隙に、ソールが男二人に手錠をかけた。
「よしっ!逮捕完了だね!」
「あ、あぁ……そうだな。ところで……君は、レイなのか?」
「うん、そうだけど」
「なぜこんなところにいるんだ?」
「なんでかって言うと、俺って幽霊だから宿の部屋を一つしか取れなくてさ。イブが寝てる時に俺がいるのは嫌そうな感じだったから、夜が明けるまで時間潰そうとしたら、ソールの姿を見かけて後を追っちゃった」
「そうだったのか……まぁ、なにより助かった。君が助けてくれなければこうやって全員を捕まえるのは無理だったろう」
「え……全員は無理って、何人かは捕まえる気だったの?」
「殴ろうとしてきたそいつくらいは捕まえられただろうな」
「無茶するなぁ……他の人より強いのかもしれないけど、ソールは女の子なんだし迂闊に一人で行動するもんじゃないと思うよ」
「そうか?」
「そうだよ」
零がそう即答すると、なんだか不服そうな顔をソールがした。
「あ!そうだ、これ!このローブさ、そこの窓にかかってたのを勝手に持ってきちゃってさ!落とし物ってことにして持ち主に返しておいてくれない?」
不穏な空気を変えるために、脱いだローブを軽く折り畳んでソールに渡す零。
「それは構わないのだが……それにしても、まさかただの黒いローブがあそこまで格好良く見えるとはな」
「ホント?格好良かった?」
「あぁ、格好良かったぞ」
「そう?いやぁ、なんか照れるなぁ」
そんな風に零が照れていると、零の乗っている男が暴れだした。
「うわっ!?」
「くそがっ!ギリーてめぇ俺らを売りやがったな!」
「まぁまぁ、落ち着いて、俺はギリーじゃなくてさっきの黒フードの幽霊だよ」
「んなアホな話誰が信じるかよ!嘘ついてんじゃねぇぞ!ぶっ殺すぞ!」
「うーん、ホントなんだけどなぁ……あ、そうだ。ソール、俺にも手錠かけて」
「え?えーっと……」
「ほら、早く」
零が純粋な目でそう頼んでくるので、言うがままに手錠をかけるソール。
「こ、これでいいか?」
「オッケー、オッケー」
がしがしと手錠の具合を確かめると、零は騒いでいた男に乗り移った。
ギリーと呼ばれた男が倒れて、のし掛かられていた男が立ち上がる。
(なんだこれ!?体が勝手に!)
(どう?さっきのギリーって人みたいに操ってみてるんだけど)
(声!?誰だよ!どこにいるんだよ!?)
(君の中だよ。ま、牢屋に入るまで連れてってあげるから安心してね)
「さて、この三人を連行しなくちゃ、ほら行こうソール」
「レイ……でいいんだよな?」
「勿論!」
「待ってろ、今その手錠を外そう」
「いや、いいよ。牢屋までこのままでも」
「それは……」
「それに、牢屋まで連れていった時に手錠してないと話がややこしくなるでしょ。ほら行こう?」
「あ、あぁ」
ということで、男の体のまま牢屋へと入れられる零なのだった。