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ep-010 まるで役場の順番待ちみたいです

先週はすみません。まさか風邪とは……

皆さんもぜひご自愛下さい。

「はい、着きましたよ」


「はぁー、遠くから見ても大きくて凄いと思ってたっすけど、ここまで来て見てみると本当に凄いっすねぇ」


 お城の巨大すぎる門扉の前に立ってそんなことを呟くイブ。


「ふふ、凄いとしか言えてないですよ?」


「えっと、じゃあさっき見た時よりも大きくて凄いっす!……あ、また凄いって言ってしまったっす」


「ふふふ!とりあえず、中に入りましょう?」


「そうするっすか」


 先を行くキュヒールは、くぐり戸の前に立っていた兵士と軽く話すと、こちらを振り向いた。


「それじゃあ、イブさん、私はここでお別れです。後はこちらの兵士さんが案内してくれますので、こちらの方にしっかり着いていってくださいね」


「分かったっす。案内してくれてありがとうっす!」


「こちらこそ、助けていただいてありがとうございました」


 そう言って軽く頭を下げると、キュヒールはくぐり戸の奥へと入っていった。


「それではイブさん、ここからは私が案内させていただきます」


 兵士の後に続いてくぐり戸をくぐる。

 お城の中は、純白で塗られた壁と金色の刺繍が施された赤のカーペットで埋め尽くされていた。


「こちらです」


 長い通路には様々な調度品や絵画等が並び、気品と権威を空間中に充満させていた。


「こちらにお入りください」


 しかし、兵士に連れられて案内された部屋は、椅子とテーブルが置かれているだけの小さな部屋だった。


「ここであってるっすか?何もないっすけど」


「すみません。本当の勇者であるかを確かめる為に必要な儀式の準備に少しばかり時間がかかりますので、暫くここでお待ちいただくことになります」


「えっと、勇者の証を光らせるあの石で分かるんじゃなかったっすか?」


「あれは本当に簡易的なもので、光魔法で人為的に光らせた場合との判別がつかないんですよ。ですから、本当の勇者かどうかを確かめる為に儀式をやる必要があるんです」


「へぇ~、そうだったんすかぁ」


「それにしてもイブさんは運がいいですね。昨日、他の勇者の方が来られて、その判別の為に儀式を行ったので、ある程度儀式の準備が整ってるんですよね」


「じゃあすぐに準備終わるんすね!あとどれくらいかかるんすか?」


「あと一時間くらいですかね」


「い、一時間!?そんなかかるんすか!?きっといつもはすごい待たされることになるっすかねぇ……」


「そうですね。準備が整っていないと二時間待ちすることになりますかね」


「うへぇ、そりゃまた大変そうっすね」


「今回みたいに昼頃に来られると、全部終わる頃には日暮れ頃とかになりますからね」


「あぁ、だから門番さんは先に宿を取っておけって言ってくれたっすね」


「はい、あらかじめそうお伝えするようになっています。では、準備の状況を確認してきますので、ここで失礼いたします」


 そう言うと、兵士は部屋から出ていってしまった。


「……話相手がいなくなると、なにもすることないっすね」


(話相手ならここにいるじゃん?)


 イブの頭に零の声が響く。


(『話』相手ではないっすけどね)


(じゃあイマジナリーフレンズ?)


(やめるっす!なんか私が可哀想な人になるっす!)


(これまでの数日間の思い出も、全ては寂しさに耐えきれなくなったイブが作り上げた想像の記憶で……)


(絶対に違うっす!)


(はははは!)


(笑うなっす!)


 脳内での会話に集中していた所に、コンコンと扉をノックする音が響く。それに反応したイブの体がびくりと跳ねた。


「お茶とお茶菓子をご用意しました」


 豪華とは言えないが、上質な生地でできたメイド服を着た女性がトレーにお茶とお茶菓子を載せて入ってきた。

 イブ達が呆気にとられている間に、てきぱきと支度が整っていき。あっという間にイブの前に湯気の立つ紅茶が置かれていた。


「それでは、ごゆっくり」


 流麗な動作でお辞儀をすると、音もなくメイドさんは出ていってしまった。


「す、凄かったっす……」


(はえー……言葉がでないや)


 二人して固まったままの状態だったが、ふわりと紅茶の香りが漂ってきて、イブの胃が刺激される。


「凄い美味しそうっす」


(そうだね。あ、俺も一緒に味わっていい?)


(もちろんっすよ)


 イブが恐る恐る紅茶に口をつけた。


「あれ?そんなに味しないっすね」


(ん?紅茶ならこんなものでしょ)


(あ、そうなんすか)


(これは香りを楽しむものさ)


(なんか俺は知ってるぞって感がイラッときたっす。人形に移っててもらえるっすか?)


(え!?ごめん、まって!?こっちのお菓子も食べてみたいの!)


(仕方ないっすねぇ)


 軽くやれやれといった仕草をしながら、イブは三段になったケーキスタンドの一段目に置かれていたスコーンを一口食べる。


(うん、美味しい!)


(本当に美味しいっすね!やっぱりお城のものは違うっす!)


 あまりのスコーンの美味しさに、ぱくぱく、ごくごくと食べ進めていくイブ。結果、直ぐにお茶菓子は食べ切ってしまった。


(美味しかったっすけど、量が少ないっす……)


(高級なものってそういうとこあるよねぇ……)


 さっさと食べ切ってしまったことを二人が落胆していると、またもコンコンと扉が鳴る。


「おかわりとかっすか!?」


 がたりと立ち上がったイブと目があったのは、先ほど案内してくれた兵士。


「あはは、すみません。おかわりではなく準備の方が終わりました」


 ひきつった笑顔を浮かべながら兵士はそう言う。


「あ、はいっす」


「わかりますよ、ここの料理は美味しいですもんね」


 そんなフォローまで入れてくれる優しい兵士さんだった。


  ▽ ▽ ▽


「こちらになります」


 イブが案内されたのは、真っ白な大理石でできた部屋にろうそくやらが立ち並び、中央に魔法陣のようなものが描かれた部屋だった。


「それでは、ここからはこちらの魔導師に交代させていただきます」


 兵士は部屋の扉の前で立ち止まると、そう言って、部屋の中にいたローブの青年に引き継ぐ。


「それでは、魔法陣の中央にお立ち下さい」


 言われた通りにイブが魔法陣の中央に立つと、イブの手の甲の痣が勝手に光り始めた。


 そして、それに呼応するかのように真っ白な部屋全体も淡い光を帯び始めた。


「はい、確かに。ようこそお越しくださいました勇者様」


 それを見ていた魔導師が深く頭を下げてそう言ったのだった。

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