夜空の月と、踊る弾丸
15年くらい前のリアルサバゲーを元にした話です。夜戦です。
当時のサバゲーの思い出としてとにかく冬の夜戦の寒さと、間で食べるカップラーメンがうまかったのを覚えてます。
今とは色々と変わってる部分もあります。当時はこんなにサバゲーブームが来るとは思ってなかったです。
時代は変わって、自分たちでフィールドを探すことも無くなり本当に良かったと思います。
色々と粗が目立ちますが、軽く読み流してくれると幸いです。
闇夜に蠢く奇怪な人種
「こちらカビパン、現在地はC3ブッシュ内。敵がB1〜B2に移動。もう少し様子を見てから殺る」
カビパンとは、俺のコードネームだ。
上下泥だらけの迷彩を着ている。
自然な迷彩だ。靴は、悪い足場でも思いっきり走れるジャングルブーツ。タクティカルベストは着ていない。両足のポケットにロングマガジンを一本ずつ。頭には黒のニットを被り、顔にしているフルフェイスマスクからは、微かに白い息が漏れている。マスクの奧に覗く目は、鋭く闇を睨んでいる。
銃はMP5A4。シンプルで扱いやすく、計量で短い。根っからのアタッカー仕様の銃だ。購入時ノーマルの状態。
改造が悪いとは言わないが、動きが制限され、銃の性能を落とするようなカスタムはしたくない。考え方の違いだ。俺はコスプレイヤーではなく、根っからのゲーマーだから(ホントは金が無くて買えないから)。
今は午前1時過ぎ。月も隠れる真っ暗闇だ。
「こちらヴァイパー、まだ早い。俺がそっちに行ってから一気に殺るから粘れ」
ヴァイパーは、味方で良かったと心底思える奴だ。少々の数的不利なら自力で何とか出来る。少なくとも無駄死にはしない男だ。
俺との相性が良く、常にツーマンセルを組んで行動している。ヴァイパーは金はないけど、装備には金を掛けている。服はどちらかといえば黒に近い緑だ。銃は、ナイツ、P90、シグG36、なんとPSG1も持っている。
今回使用する銃は、アタッカー使用のP90だ。マウントには夜でも見やすいダットサイトが載っている。
生活を削った装備品の数々は、戦いのために組まれたモノばかりで、無駄はない。ただ、金もない。
「了解」
俺は焦る。だが、こんな時こそ一息ついてから撃つ。それが出来なければ殺られるだけだ。
いま俺は、サバイバルゲームの真っ最中。
敵は強い。
今ゲームのレギュレーションはこうだ。
人数は5人対5人。片フラッグの、攻守交代戦。今、俺達は攻撃側だ。
使用する弾は蓄光弾。銃の先端にトレーサーを付ける。
弾丸が発射されると、トレーサーがその弾丸に光を当てる。そうすると、弾丸が光を吸い込み、光を溜め込むことによって明かりを放つ。
ガンパワーはスナイパー以外は1ジュール以内。スナイパーは1.2ジュールまで(規制法だの、くだらない法律は敢えて無視する)。
それと特殊なルールが一つある。フルオート射撃を禁止していることだ。フルオート規制をすることで、弾数規制の必要などが無くなる。実力の違いもより強く出る。
チームオーダーを説明する。まず、味方3人が敵を引きつけて、残り二人はフラッグを目指す。
場所は各自状況に合わせて変えていく。移動の際は、無線で報告して味方撃ちを防ぐ。
「こちらカビパン、まだスナイパーが見えない。スナイパーに撃たれたら終わる。用心しろ」
「こちらヴァイパー、了解。ようは動き続ければいいんだろ?スナイパーだけなら楽勝なんだけどな」
「こちらマッシュ、弾幕屋がうるさい。何とか出来ないか?」
マッシュは、室内戦では恐るべき機動力を見せる。
迷路のようなフィールドで、互いの持ち寄ったハンドガンをシャッフルして戦うゲーム。
その時マッシュは、デリンジャー(2丁)を引いた。はっきり言って大はずれだ。なんと言っても、装弾数2発というのが痛すぎる。2丁あっても4発だ。しかしマッシュは、4人の敵全てを一人で倒した。
その時から、仲間内ではデリンジャーマッシュと呼ばれるようになった。
マッシュは、夜戦が苦手である。夜目が効かないので、隠密策敵が苦手なのだ。この場合の夜目は、単に見えると言うことではなく、耳で聞いて動けるかということだ。
「こちらワヒト、とりあえずそこで膠着状態にしておいてくれ。大丈夫だ、弾幕屋の弾なんかめったに当たらない」
この場合の弾幕屋は、単発で効果的な射撃で敵を牽制し続けるやっかいな奴だ。
なんせこの暗闇だ。しかし偶奇性が、夜戦の怖いところでもある。
「了解、相手はグレネードを持ってる。カッコだけじゃなくちゃんと使いこなしてるからやっかいだ」
ちなみに、この場合のグレネードとは大体8?四方に80発のBBシャワーを浴びせる凶悪なヤツだ。一回ごとに弾を補充しないといけないのと射程範囲が短すぎるため、ほとんど使えないヤツが多い。
「敵弾幕屋の銃がジャムる可能性もある。チャンスを逃すなよ」
ヴァイパーからの無線が入った。
「こちらワヒト、敵の位置を知らせる。今、B2に一人。それはカビパンに任せてる。
他、C2。ちょうど真ん中の木の後ろに弾幕屋が一人。そこは無理に突破せず、膠着状態にしてる。
後二人は、多分フラッグを守ってる。スナイパーだけが何処にいるか分からない。スナイパーが見えたら、とにかく動き回れ」
ワヒトはこのチームのリーダーだ。彼の現在の役目は、弾幕屋と作戦指揮だ。作戦組立に作戦指揮、これほどリーダーに適した男はそうはいない。
暗号の説明をする。位置を知らせる暗号は9種類ある。F、C、B、1、2、3それぞれ縦方向に上からフロント、センター、バックとなっていて、横方向の左から1、2、3の番号が振られている。細かい場所の説明にはフィールド内の障害物を使う。
1、2、3
F
C
B
C2の位置が、ちょうど真ん中にあたる。フラッグは、B3の奧の木にかけてある。
守備側は、フラッグを守る。攻めはフラッグを取る。これが基本的なゲームの流れ。
「こちらキッド、現在地はF2丘。敵がフラッグ位置から撃ってきた。音から察するとショットガンだ。遠いから威嚇だろうけど注意しろ」
このショットガンは、3発同時に発射して弾を散らせるヤツだ。しかし弾数が1マグ30発で、10回撃ったらマグ交換しなくてはならない。そこがショットガンの弱点だ。
キッドには、今回偵察と策敵をしてもらっている。勝敗の鍵を握る重要な役と言っても良い。
「こちらヴァイパー、C1に到着。B2の敵発見、5秒後に殺るぞ」
「こちらカビパン、了解」
「5,4,3,2,1」
タン、タン
2回ほど短い発射音が聞こえてきた後、敵が動くのが見えた。俺はそれを見て、その場所に着弾を集中させる。
タン、タン、タン。
タン、タン、タン。
ヒット!
敵の潜む方向から声がする。一応断っておくが、サバゲーは紳士のスポーツだ。何故なら殺られるときも、自己申告だからだ。精神的に大人で無ければ、ルールに則ったサバゲーは出来ない。これから始めようと言う方には、肝に銘じて置いて欲しい。ゾンビは恥ずかしい。
「こちらカビパン、一人ゲットした。匍匐でB1に移動する。」
「了解、俺もすぐに続く」
ヴァイパーは、ツーマンセルの基本通り俺に続く。
敵を殺った後、その場に止まるのは愚かだ。相手にはスナイパーもいるということを忘れてはならない。
ちょうどその時。
チラッ
(あの光は!?)
赤い小さな光が、俺の視界に入る。敵のダットサイトだ。
ほんの微かな光。だが実際に夜戦では、微かなダットの光さえ命取りになることがある。
その瞬間、俺は無線越しではなく、生の声で叫んでいた。
「「マーッシュ!スナイパーだ!!」」
パシュッ!!
ヒット!
一撃でマッシュがやられた。これで、弾幕屋を押さえておくことが出来なくなった。しかも、今のかけ声で俺の位置は、フィールド内の全てのプレイヤーに知られてしまった。
(あのスナイパー。相当正確な射撃しやがる)
敵スナイパーは、ゲーム開始のずっと前から、綿密な調整をしていた。
使用銃は、確かAPS2だ。
APS2は、初速と命中速度を限界まで究めた銃だ。
もちろん使用者の腕と、緻密な調整の手間もいる。
それを使いこなす敵スナイパーは、間違いなく強敵だ。
2 紅いダットに映るモノ
敵スナイパーは、状況の圧倒的有利にも関わらず冷静だった。
(あいつを殺るのは、こっちの準備が済んでからだな)
スナイパーのAPS2に載っているダットサイトの中には、必死で移動するアタッカーが映っていた。
いまスナイパーは、カビパンを確実に仕留められる場所に居た。
居所の掴めているアタッカーなどいつでも殺れる。それよりも、今はこの場所を離れることが先決だ。
敵アタッカーを撃てば自分自身の場所がばれて、もう一人のアタッカーに殺られるからだ。スナイパーとアタッカーがガチンコでやり合えば、どう考えてもスナイパーが不利だ。
サバゲーは、とにかく数的有利を作り出して、有利なポジションを取り合うことが大事だ。
敵に挟まれるのは最悪だ。それは、ほとんど負けたのと一緒。
そのためサバゲーは、かくれんぼにも似た場所取りゲームの面が強い。
ただ言えることは、カビパンは既にゲーム内では死んだのと一緒だ。
(とにかく弾幕屋の膠着状態は取り除いた。あとはじっくり詰めていけば、自然に勝てる)
敵スナイパーは冷静に状況を分析し、ゆったりと次の行動へと移行する。
スナイパーの正確な位置が掴めない限り、アタッカーは敵陣へと進むことが出来ない。
しかも現状は、4対3になっているのと同じだ。
ワヒトから、状況に対する応急措置的な通信が入る。
「マッシュが殺られた。
マッシュが居た場所が敵に取られると、どうしようもなくなる。
とりあえずキッド、そこをすぐに抑えてくれ。
殺られなければ良いから、ポジションを守り切れ。
敵スナイパーは強すぎる。ポジションまで移動したら、ずっと威嚇射撃だ。
とにかく、そこにいることをアピールし続けろ。安全にな」
マッシュが居たのは、俺とヴァイパーの後方ブッシュ内。
そこで、敵の弾幕屋を抑えて、俺達の行動をサポートしてくれていた。
アタッカー(カビパン、ヴァイパー)は、C1の位置からB2の位置にいる敵を倒した。
その時、マッシュがスナイパーに狙撃されたのだ。
キッドは、F2の位置から策敵をしていた。
急げば、すぐにポジションに着ける。
ただ、敵スナイパーの狙撃と弾幕屋の銃弾をくぐり抜けなければならない。
普段は冷静なキッドが、焦っていた。音は立てても構わない。今は、とにかくポジションを抑えることが先決だ。ポジションを敵弾幕屋に取られたら終わる。
「キッド、俺が敵を引きつける」
ワヒトからの通信が入る。
ワヒトは、キッドの斜め後方F2丘の裏側に居た。
そこから敵弾幕屋の潜む木に向けて、猛烈な射撃が行われる。
今まさに、ワヒトが敵弾幕屋の注意を引いている。その間に、キッドはポジションまで移動するのだ。ワヒトもまた、キッドをサポートできる位置まで移動しなければならない。
ワヒト、キッド共に、敵スナイパーに殺られる可能性が非常に高い。
殺られないためには、敵スナイパーの射線が通らないブッシュの中や、丘に隠れての移動が必要となる。
ガサガサ
乾いた草が生い茂る中移動する音は、キッドの位置を包み隠さず教えている。
(くそ、ブッシュの中じゃ射線が通らねえ)
敵スナイパーは、既に新たなポジションへと移動していた。そこはフィールドの全体が見渡せる場所。
アタッカーが動けばアタッカーを仕留める。
弾幕屋を抑えようとして移動する敵も、チャンスがあれば殺れる位置だ。
ダットの中には、移動するキッドの姿が映っていた。しかしそこは、射線を外したブッシュの中だ。
(よし、まだ撃たれねえ)
キッドは、なんとか安全な位置まで移動を完了した。敵弾幕屋からの牽制射撃は続いていたが、この位置なら何とかやり過ごせる。
あとは、どうやってマッシュの居たポジションまで移動するかだ。
「こちらキッド、今からブッシュの中を匍匐で進む。
ポジションは、なんとかを取り返してみせる」
キッドは通信を終え、ゆっくりと草の中へと沈み込む。
さっきまでフィールドに響いていた移動音はぴたりと止んだ。
キッドの匍匐は、半端ではない。川の中でも泥だらけの道でも、全く気にしない匍匐をする。
終わった後で困ることは分かり切っているが、場所を選ばないその匍匐は非常に強力である。
その執念の匍匐は、同棲している彼女とうまくいっていないキッドの心情を表しているようだ。
そんなことを言ったら絶対に怒られるので、みんなそのことには触れないでいる。
(いきなり敵の位置が分からなくなった)
敵弾幕屋は、混乱していた。
さっきまであれほど響いていた、移動音がピタリと止んだのだ。それと同時に、敵の一人も姿を消した。
楽勝ムードで少し油断した。敵弾幕屋は、弾幕をゆるめて警戒モードへと移行する。
(弾幕が薄れた?)
ワヒトはその隙を逃さなかった。
(いまのうちにポジションを)
ワヒトは弾幕の薄れた隙に、スナイパーからの射線が通らなそうな安全圏へと一気に移動する。
(しまった)
ワヒトが移動する音を聞いた敵弾幕屋は、敵の一人にポジションを奪われたことを察知した。
(仕方ない、今は目の前の敵の方が重要だ)
敵弾幕屋がキッドに集中しようとしているとき、キッドは既に敵弾幕屋の目の前のブッシュに来ていた。
ここまで近づいた理由は、自分を守るブッシュが敵への射線も防いでいたからだ。
ここまで近ければ、ほんの少しの動きでさえ感づかれる。敵も警戒している。
(ゆっくりと、あせらずに)
キッドは慎重に、草で音が鳴らないように、銃を構えようとする。
慎重に。慎重に。
息を止め緊張した動きで、匍匐状態の体を少しだけ持ち上げる。
(次は銃を)
匍匐の際、邪魔にならないように銃は引きずってきた。
その銃の先ををゆっくりと持ち上げる。
持ち上げた銃を、体の前面へと持っていき、射撃姿勢をとる。
(うわっ!!?)
敵弾幕屋は、音ではなく気配でキッドの存在に気づいた。
気配というモノが存在するかどうかは、議論すべき事かも知れない。
だが、実際にサバゲーをやっていると気配としか言いようのない胸騒ぎを感じて、遠くから放たれた銃弾を避けることもある。
これほどまでに近づいている二人の距離を考えれば、敵弾幕屋がキッドの気配を感じられたのは奇跡でも何でもない。事実だ。
(遅い!!)
キッドは、気づかれた瞬間、敵よりも素早い動きで踊り狂う弾丸を放つ。
パパパパン!!
セミオートでの連続射撃。
多少多めに撃ったのは、距離の近さから来る恐怖感のせいだろう。
その時、弾幕屋の手の中には、危険なグレネードが握られていた。
実はギリギリのタイミングだったことは、撃ったキッド自信が一番よく分かっていた。
とにかくキッドは、敵弾幕屋を仕留めた。
(まさか!?)
敵スナイパーは、ダットの中でその光景を目撃する。
(でも、ただでは殺らせない!)
敵スナイパーは素早くキッドに狙いを付ける。
キッドもそれを分かっていたのだろう。敵を仕留めた瞬間から、立ち上がって後方ブッシュ内へと走っていく。
ジグザグに動き続けて、スナイパーの射線を外す。
やっとの思いで、ブッシュは少な目だが敵からは見えにくい位置に潜むことに成功した。
パシュン!
一発の弾丸が、キッドのフルフェイスマスクの脳天を直撃する。
(は・・・・?)
ジグザグに動き続けている間は、一発も撃ってこなかった敵スナイパー。
(まさか止まった瞬間、ブッシュが薄いとはいえこんな見えにくい場所へ撃ってくるとは・・・)
「ヒット!」
キッドは戦慄と共に、宣言する。
これで、敵味方共に二人が殺られた。
3 戦略的「死」想
制限時間は、最初の一人が殺られてから15分間だ。
残り時間は、既に5分となっていた。
ここからの戦いは、まさに死闘となる。
この5分を守りきれば、守備側の勝利。
この5分で攻めきれば、攻め側の勝利。
戦いは激しく動き始める。
(キッド、何故危険を冒してまで攻めたんだ)
ワヒトは考えていた。
(生きていれば、まだチャンスもあったのに)
状況を分析し考えた末、ワヒトは結論に至る。
(今の状況は、悪くない。
何より危険だったのは、弾幕屋にポジションを奪われることだった。
キッドは殺られない自信もあっただろう。でもそれだけじゃない。
殺られても取らなければいけないポジションがあったんだ。
俺はそこを守ることしか考えてなかった。
でもキッドは、そこを取り返すことまで考えていたのか。
ありがたい、無駄にはしないぞ)
ワヒトの推理はほぼ当たっていた。
唯一違う部分。この状況を生みだした一番の理由。あえて付け加えるなら、それはキッドの私生活の鬱憤だった。
生活の面とか、装備品が散乱する部屋とか色々あるけど。
やっぱりサバゲーは、自由にやらせてあげましょうよ。彼女さん。
まあ、そんなことは生き残った兵士達には関係がない。
「こちらワヒト。
残り5分だ。こっからは、俺も攻めに加わる。
全体の状況や細かい作戦は、自分で考えてくれ」
「「了解」」
ワヒトの通信に対して、他2名の返信がくる。
周りの状況は常に変化している。
しかしカビパンとヴァイパーの状況は相変わらずだ。
敵スナイパーの正確な位置は掴めない。
カビパンは、動けば殺られる。動かなくてもそのうち殺られる。
ヴァイパーは、カビパンの援護で見つからないように潜んでなければならない。
ヴァイパーが見つかれば、アタッカー二人が敵の餌食だ。
「こちらヴァイパー。このままじゃ時間切れだ。
カビパン、悪いが見捨てるぞ」
ヴァイパーは、単独でフラッグを目指すことを決断する。
カビパンが殺られれば、人数が一人少なくなって状況は不利になるが、このまま時間切れを待つよりはマシだ。
「分かった。
こっから俺は、動きまくる。
多分撃たれるから、その時になんとかスナイパーを見つけてくれ」
無線越しだが、お互いの意志は伝わってくる。
おとりは大事な役目だ。
戦略的死想。勝利のためなら駒となる。
「こちらワヒト、動くときは合図をくれ。
俺も遠くから援護する」
ワヒトからの無線が入る。
「了解。
行くぞ・・・3・・2・1
ゴー!!」
カビパンは合図と共に、低い姿勢で飛び出す。そこはC2の木の後ろ辺り。フィールドの全体から狙える位置だ。
同時に後ろから、敵フラッグ前に向けて強烈な弾幕。
ワヒトの援護射撃だ。
多少怯みながらも、敵陣のフラッグ前からカビパンに向けて激しい銃弾。
やはりフラッグ前には、敵が居た。
なんとかスナイパーの射線を外しても、奴らに撃たれることになっていた。
ギリギリで射程内の弾丸は、失速しながらもカビパンに向かってくる。
カビパンは、目の前の木を利用してそれを防ぐ。
止まれば敵スナイパーから撃たれるので、木の後ろにはとどまれない。
その隙にヴァイパーも動き出す。ゆっくりと音を出さないように、確実にフラッグへと近づいていく。
最後の希望。全てはヴァイパーの動きに掛かっている。
(敵スナイパーが何処にいるか分からないのは、かなり怖いな)
ヴァイパーは恐怖を抑えながら、危険な道のさらに奥へと進んでいく。
(見つかるな、見つかるな・・・・)
想いが、強さへと変換されることはない。
想いなどは、多少のモチベーションの違いだ。
サバゲーは、どちらにも平等だ。
どんなジャンルでも言える。負けるときは、どんなに強く想っていても負けるんだ。
パッ
シュン・・・・
カビパンは、その気配を感じ取った。
(やばい!!)
頭の中でけたたましいサイレン。
身体の奥底からブワッと汗が吹き出てくる。
咄嗟に横へ飛ぶ。方向も何も考えずに、銃を持った状態での跳躍。
飛んだ先には、先の尖った朽ち木が飛び出ている。
(!?)
一瞬首筋に熱さを感じたが、それどころではない。
すぐに動き続けなければ敵の銃弾の的になる。
カビパンは寝ころんだ状態で横に転がりながら、なんとか敵の射線から外れていく。
(はあはあ・・・・)
頭の中が混乱していて何も考えることが出来ない。
(撃たれたのか?)
何が何だか、落ちついている暇もない。
(とにかくまだ、死んでない!)
敵スナイパーは、落ちついて撃った。それなのに、完璧に仕留められるはずの弾丸は、何故か外されてしまった。
(勘のいい奴だ)
歴戦のスナイパーは、そんなことでは驚かない。
もう一度、敵アタッカーへと狙いを定める。
(次は外さない)
その場を移動する暇はない。移動していたら敵アタッカーは、射線が通らない場所へと逃げてしまう。
そのまま撃てば危険なことは分かっていた。だが敵を倒すまでは、そこを動くことは出来ない。
(あと一発ぐらいなら)
次の射撃で仕留められる自信はある。だが危険も無視できない。
敵も味方もギリギリの状態での・・・まさに泥沼の戦いとなってきた。
(よし、大体の位置は掴んだ。
もう一発撃てば、奴の場所は分かる)
ヴァイパーは、カビパンを襲った射撃を見逃さなかった。
何せ単発で小さい射撃音。それを見つけるのは、至難の業だ。
位置はアバウトだが、それでも多少は掴んでいる。
もう一発撃てば、敵の位置を掴むことが出来る。
無敵とも思えた敵スナイパーを、仕留められる可能性が出てきた。
(敵スナイパーの注意がカビパンにいってる)
ワヒトはその隙を逃さない。すかさず、安全なポジションから移動を始める。
(敵フラッグ前を仕留められる位置まで)
敵スナイパーの射程内。射線を外す物は何もない。
それでも今動けなければ、勝利は遠のいてしまう。
今動いておけば、ヴァイパーがフラッグ前まで来たときに、有効な援護を加えることが出来る。
敵スナイパーは、そのワヒトの動きには気づかなかった。
早く、静かな移動だった。
ガンガンガンガン・・・・
カビパンは、敵スナイパーが居そうな場所へと射撃を集中させる。
初弾を交わすことが出来たため、生じた微かなアドバンテージだ。
(今のうちに有利なポジションに移動する。
後は死ぬまでの僅かな抵抗だけだ)
(もう仕留めるしかない!)
敵スナイパーの悲壮なる決意。このままでもやり過ごすことは出来るだろうが、このままでは倒せるはずのアタッカーまで逃がしてしまうことになる。数的有利を作らせないためにも、ここでアタッカーを一人削っておかなければならない。
パシュン!
カビパンの顔面に向かって弾丸が迫ってきた。
弾丸はゆっくりと迫ってくる。
殺られる瞬間、スローモーションになる。
こういう経験は何度かしたことがある。こうなったらもうどうにもならない。
「ヒット!」
カビパンはここで退場となる。
(見つけたぞ!)
カビパンが殺られると共に、ヴァイパーは敵スナイパーを見つける。
見つけると同時に、敵スナイパーへと向けて駆けだしていた。
パパパッパパ!
走りながらセミオート連射で威嚇射撃を加える。
敵スナイパーは、反撃することも出来ない。後は、詰めてとどめを刺すだけだ。
(カビパンが作ってくれた最後のチャンスだ)
ヴァイパーは、敵スナイパーに撃たせないようジグザグに動きながら近づいていく。
敵スナイパーは、うまく照準を合わせられずに焦っている。何せ一発外したら終わりだ。
(遅いんだよ!)
パン、パン、パン!!
近距離からヴァイパーの放った弾丸は、確実に敵スナイパーの身体へと吸い込まれていく。
「ヒット!!」
遂に敵スナイパーは、倒れ伏した。
残る敵は、フラッグ前の二人。
敵も二人、味方も二人。
真夜中の死闘は、生き残った者達に全て委ねられる。
4 その旗を掴む手に
夜空の月の下、踊る弾丸が飛び交う戦場。
ブッシュの濃いフラッグ前の道に、人の気配が立ちこめる。
もはやヴァイパーは、隠れようとはしない。
(今のうちにマガジンを交換しておくか)
ヴァイパーは、軽さと隠密性を求めたタクティカルベストから予備のマガジンを取りだす。
ガチャッ!
タクティカルリロードと呼ばれる素早いリロードを行う。マガジンをはめる音は、派手にフィールドに響き渡るが、もはや気にする必要はなくなった。
「ワヒト、時間が無い。
俺はこのまま匍匐でフラッグに向かう」
ヴァイパーは、残った僅かの時間を有効に使うために、ワヒトとの最後の通信を行う。
「ヴァイパー、最後は二人ともアタッカーで行こう。
どちらもお互いに、おとりになるつもりで攻めよう。
最後にフラッグを掴むのはどっちでも良い。
条件は厳しいけど、それは敵も同じだ。
あとは、運とスピードの勝負だ」
ワヒトからも最後の返信が来る。
ここまで来たら、作戦でどうこうできるモノではない。
微かな運と、確かな実力が勝負の鍵となる。
フラッグ前から単発の射撃がくる。
弾丸がブッシュに遮られながらも、危ういところでヴァイパーの脇を疾っていく。
軽い特徴的な射撃音は、なおも断続的に続く。敵の銃はファマスのようだ。
連射性能は優れているが、少々ジャムりやすいのが玉に傷だ。しかしその特徴的な射撃音のファンは、仲間内では割と多い。
とにかくこれでは、容易に動き出すことは出来ない。
(あれでいくか・・・)
ヴァイパーは、本来ならカビパンとやるはずだった作戦をワヒトとやろうとしていた。
問題は、ワヒトがそのことを察して動けるかどうかだ。
これをワヒトの実力で求められては困る。これはもはや実力の問題ではなく、チームワークの問題だ。
(気づけ!気づいてくれワヒト!)
既に無線連絡する時間はない。
ヴァイパーは、ただ、祈るのみ。
(ヴァイパー・・・?
・・・・そうか)
ワヒトは、微かにフラッグ方向からずれていくヴァイパーの軌道を見て何かに気づいた。
(フラッグを通り過ぎて敵の裏側に出ようとしてるのか!)
ワヒトはヴァイパーの作戦に、これ以上ない速さで気づいた。
(了解!
挟み撃ちにしてやるぜ!)
(よし、気づいたみたいだな、ワヒト)
ヴァイパーは、既に敵の後方付近への移動を完了している。フラッグの掛かった木は、ワヒトとヴァイパーの間に位置している。
相変わらず、敵の緩急を付けた射撃は続いている。
一方は、ショットガンで強力な射撃をし、その隙間をもう一方が埋める。タイミングをずらして、ヴァイパーも威嚇射撃を行う。
敵は時間を稼げば勝利となる。フラッグ前の二重防衛は良い作戦だが、ワヒトはショットガンの弾切れの音を知っていた。
ショットガンは、リロードの際に大きな音が鳴ってしまい、敵に弾切れがばれてしまうのが最大の弱点だ。
しかし、あからさまな弱点を補おうとはしないとは・・・この敵にしては、少し拍子抜けだ。
ワヒトは、弾切れの音が鳴るのを身を潜めて待つことにした。
ガン、ガン、・・・ガチャッ!
(今だ!)
ワヒトは、全身のバネをフルに使って、ブッシュの中から飛び出していく。それに合わせて、後ろからヴァイパーも飛び出す。
敵の一方から激しい連射が放たれる。しかし後ろから飛び出したヴァイパーに、混乱しているようだ。ワヒトは姿勢を低く保ちながらも、敵ショットガンナーを仕留めようと銃口を向ける。
その瞬間・・・
(かかったな!)
ショットガンナーは、喜びの感情を声には出さない。どんな状況であろうと冷静に、だ。
ショットガンナーは、弾切れ前のショットガンのマガジンをわざと外して、あまりにも大げさな音を辺りに響かせたのだ。
当然、本当は弾切れでも何でもない。つまり、弾切れ音はワヒトをおびき寄せるフェイクだったのだ。
必殺のラスト一発を残していた。
ガン!
荒れ狂う弾丸は、確実にワヒトへ向かって飛んでいく。
「くっ!!」
ワヒトは、その時信じられないような動きをした。
目の前で放たれる弾丸を、撃たれる一瞬前に避けようとしたのだ。
敵のフェイクに直前で気づくことが出来た。ワヒトもここまで来て、冷静さを失ってはいなかったようだ。
最後まで冷静さを失なわなかったその動きが、奇跡を起こす。
(避けた!?)
敵ショットガンナーは、明らかなショックを隠せずにいた。
これで、今度こそ間違いなく弾切れとなってしまった。もうリロードしている暇はない。ワヒトはそこまで迫ってきている。
慌ててその場に身を潜めるが、時既に遅くワヒトからの、BB弾のプレゼントが届いていた。
「ヒットォ!」
敵ショットガンナーは、ゲームの邪魔にならないようにその場に倒れる。ゲーム終了までは、後ほんの僅かの時だ。
(よし!
今だ!!)
敵は最後の一人、時間は残り十秒もない。
最後の敵は、両側から挟まれながらも懸命に威嚇射撃を放ってくる。一対二のこの状況にしては、よく頑張っている。
ワヒト、ヴァイパー共にフラッグまで残り五メートル程の距離となっていた。
ワヒトは、手に持っているG36をその場に置き捨てる。軽くなった体でフラッグに向かって思いっきりジャンプする。身体を目一杯広げて、フラッグへ向けて手を伸ばす。
「ヒット!!」
その手は、フラッグに触れる直前に地へ堕ちる。
ワヒトがヒットコールを叫ぶのと、ほぼ同時に・・・
「フラァッグ!!」
ヴァイパーの咆吼が、熱い戦いの決着を宣言する。
5 戦い終わって後
ゾゾゾーゾゾー
不気味な音がこだまする真夜中の月の下。
辺りには、これまた不気味な煙が立ち上っている。
その真ん中では、戦い終わった兵士達が、カップヌードルを食べている。
つまるところ、冒頭のズズズ音は、この音だったりする。
「あー、つっかれたー!」
今帰ってきたばかりの者達に、用意されていたお湯が渡される。
敵味方全員が一塊りになって、熱い戦いの感想を語り合っている。
疲れ切った戦士達は、ひとまず休憩に入るようだ。
これが楽しみでサバゲーをやってる者もいる。
「スナイパー最悪ッスよ!」
そう話すカビパンの首筋からは、一本の赤いすじが垂れてきている。どうやら敵スナイパーの射撃を避ける際に、負傷していたようだ。当然の如くゲームが終わるまでは、そのことに気づかないでいたが。
「ホント、ホント」
ヴァイパーもカビパンの意見に賛同する。ハッキリ言って、カビパンの傷なんて誰も気にしていない。良い勝負が出来れば、それで満足できる人種なのだ。
「でもそっちのアタックもすごかったジャン」
敵弾幕屋は、にこやかに語りかける。ホント、サバゲー以外ではいい人だ。
「何つうか、熱かったよ」
スナイパーもゆったりとした口調で、その意見に乗っかる。
ヌードルを食べながら、それぞれの戦い終わった感想を語り合う。
ゲーム中とはうって変わって、互いに健闘をたたえ合うまったりとした空気が流れている。
「ところでカビパンののコードネーム、なんでカビパンなの?」
多少変に聞こえる言葉も、仲間内だと楽しい会話の、流れの一つである。
「あー、カビ迷彩のパンツもしくはカビたパンツの略だよ」
「ああ、すごく納得した」
全員がくすくすと笑いながら、辺りにはヌードルをすする音が響き渡る。
こんな感じで、楽しい夜は続いていく。
ハンドガン戦OR昼戦編へ続く・・・・
かも。
久しぶりに小説を書きたいと思って「小説家になろう」サイトに登録したら2007年に既に登録されていてびっくりしました。そんでその時書いてまだ投稿していなかったこの話を見つけました。
どれだけ忘れてるんだよと自分でも呆れました。
この話は夜戦、室内戦、屋外戦等数種類のサバゲー体験談から作ろうとしてましたが、全然書くことなくお蔵入りとなってました。
もしまた気が向いたら新しいのを書いてみたいです。