それはある意味、必要なこと
ーたぶん、あたしはどっかしら普通じゃないんだろうなぁ。
あたし・・・ 青山 弥樹は、職場の喫煙室で思いに耽る。数週間前、遠距離恋愛中の恋人とやり合ったメールのことがまだ気にかかっていた。
あたしと彼・樫本 宗也は、出身地も経歴も全く交わりがない。同じなのは年齢と、お互いの職種の関係上カレンダー通りではない休みが基本なくらい。
出会うはずもないあたしたちが出会ってしまい、年に数回「デート」と言われる会合が発生するのだけど、これが毎回宗也の元にあたしが向かうというパターンで。
それが今回初めて宗也があたしの元にやってきた。
夜も一緒に居れたらよかったんだけど、運悪くどうしても一晩宗也が1人で過ごさなければいけない事情が発生してしまった。
あたしが宗也の方に居る時も、そういうことは何度かあった。到着する日に急遽夜勤になって、明けまで1人とか帰る前日が夜勤になったから、そのまま1人で帰るとか。
あたしは、仕事だしそれはそれで仕方ない話だと思っていたから宗也がいなくても1人で食事に出たし、飲みにも出ていた。宿でもいつもと違う地方の深夜番組を見て、それはそれで面白かった・・・んだけど。
宗也は、違った。
「弥樹どうしても帰る?」
「全然知らない所で、1人で飲みには出られない」
いやいやいや・・・あたしはそれを今まで何回やってる?
しかもあたしと付き合い始めてから、宗也3回転勤してるでしょ?
気持ちは判るけど、引き止めたこともないこともないけど、最終的にはちゃんと見送ったでしょ?
で、宗也は言う。
「弥樹は普通じゃない」と。
1人で全く初めての店に入って、食事したり飲んだりって・・・やっぱり普通じゃないのかな・・・。
でも、やっちゃうんだよなぁ。
今宵も、やっちゃうんだよなぁ。
いつの間にか、フィルターぎりぎりまで火種が近づいたタバコを水の張られた縦長灰皿に落とすと、小さな音を立てて水面に浮かんだ。
「・・・よしっ、着替えて帰ろうっと」