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恋し、恋し

 それは蹂躙する。飢!! 八の腕を持つ鬼を足蹴あしげにし、飢!! 山のような体躯を持つ鬼を打ち倒し、飢!! 翼持つ鬼を地に引きづり堕ろし、飢!! 沼に潜む怪魚おにの腹を裂く 飢!! 飢!! 飢!! 飢!! 飢!! 飢!! 飢!! 飢!! 飢!!


 飢!! 未だ己の内に生じる飢えはみたされず。嗚呼、あの宴が狂おしいほどにいとをしい、あのとき己のうちに目覚め 満たし始めた激情は何故か、かれは知らず。ただ、空虚なる胸の内を埋めるためにの巫女かのじょの元へと(はし)る。

 

 目指す者の臭いは風が血の臭いとともに、(ごう)()く彼の心は未だ誰も知らず。


 恋し、恋し、鬼や恋しと風の言う。恋し、恋し、鬼や恋しと虫のうたが言う。



 かく!! と言うおんとともに、水の責めが彼女を襲う。戻った巫女に科せられるは、不定(ふじょう)不浄(ふじょう)という名のざわめきと、清めという名の祓落はらいおとし。


 その蹂躙を彼女はあえて許す。己より卑小なる力しか持たぬ者にその身をよしとするは、苦痛ではなかった。そこにしか己の居場所は無かったのだ、ならばこそ彼女は耐えられる。


 浄化の名の下に打たれる隔夜かくやの断絶も、断縁のもとに打たれる過炎の炎さえ彼女の芯までは至らず。ただその心に宿るは、炎の中でまみえたかれの姿


 氷とさえ言われた面貌かんばせにうっすらと笑みが浮かぶ。

 

 嗚呼、恋し、恋し、鬼や恋しと雨が言い。嗚呼、恋し恋しと草が揺れる。


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