殺取り
豪と振るわれる腕を、舞う綿毛のように巫女がかわし、その背後から過炎の炎が、間髪を入れずに鬼を襲う。避けようとする意志を隔世の結界が阻み、そこに桜の手が鬼に優しく触れ、神鳴を放つ、まばゆいばかりの光の乱流が鬼の身体を疾る。
びくりと鬼の身体が慄え、一瞬の遅滞の後にさらなる豪音が、桜の頬をかすめる。じくりと滲む血に怯えたのは、巫女自身ではなく隔世と呼ばれる白い髪を持つ少女、その闘いを本人達以上に把握しているのはその結界を支配する彼女であった。
優勢かに見える。桜の闘いは、嵐のように吹き荒れる暴風の中心に常に身を置くという荒技、それは、一瞬の油断が、彼女自身を舞い散る桜と化す危険な殺取り
灼熱の体躯が身体を慄わせ嗤う。それにあてられたかのように花の名を持つ巫女が艶然と微笑む、二つの魂がその交わりを歓喜とする。
産まれて以来、ふれあうモノといえば魑魅魍魎ばかり、ともに母を知らず父を知らず。触れあう魂と言えば、ともに鬼妖ばかり、鬼がもう一度、己が想いを込めて巫女を見る。巫女が、その視線に応えるかのようにしっかとその視線を捉える。
うち交わされるその想いは、恋と言うには狂おしく、そして、愛と言う程には痛ましい。




