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縁 ーえにしー

 それに名は無い。災厄そのものがたまたま形を成しているにすぎぬ。と、そういう存在モノと人は言う。


 しかし、それは思考する。飢!! と、ただその想いに引かれるままにそのあり余る力をもって全てをなぎ払う。


 それに母はない。いや、遠い遠い昔の血のきおく、あるいは、あれが母だったのだろうかと、それは思う。


 何故? そう問われてもかれに答えるすべはなく、当たり前のようにそれは災厄を振りまく。


 ごうと振るわれる腕をねじ伏せ、ごうと響くその雄叫をたけびを、さらなる声を持ってねじ伏せる。


 飛び散る己の血に陶酔し、舞い落ちる己より強靱な生命の散華に刹那の満足を得えようと、己が同族たる鬼に終止符を打とうとした刹那。


 そこに一つのしゅが現れる。豪と己に振るわれたはずの腕を宙を舞う扇のようにひらひらとかわし。伸ばした長い髪は、何かに隔絶され、蒼い炎が、今まさに己が終止符を打たんとした目の前のもう一人の鬼を滅ぼし尽くす。


 鬼が鬼を凌駕し、巫女が鬼を滅すというのなら、そう、引かれあうはさだめ。

 

 呼ばれて、そして巡り会う、それが縁、いや、それが運命えにしといふもの。

 

 そうして、ようよう鬼の目が巫女しょうじょを捉えた。

 

 その瞳に浮かぶのはただただ純粋たる歓喜、己を打ち負かすかも知れぬ存在ものへのただただそれは純粋たる歓喜


 そうして二人ふたつはようよう交じり合う。


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