第5話 道場と教室での初日のやり取り
2011/12/24 サブタイトルに「第○話」を付けるようにしました。
2011/12/30 ドルガンの紹介部分の「警護」を「警備」に直しました。
[ドルガン道場]
次の日の朝、オルタスと共に村の隅にある空地へ向かう。既にそこにはドルガンと数人の子供達がいた。
「お、来なすった。村長おはようございます!ハジメおはよう!」
「やぁ、おはよう!今日からよろしく頼むよ。」
「おはようございます。ドルガンさん。」
「おっと!ハジメ、オレの事は師匠と呼んでくれ!」
「よ、よろしくお願いします師匠。」
「ダッハッハッハ!よろしくな!」
そう言ってドルガンはハジメの頭をガシガシ撫でる。ドルガンは元々冒険者として各地を放浪していたが、10年ほど前に村人のポメラに一目惚れ。何度も通ってポメラの心を射止めそれからは村に住んでいる。「冒険者としてなかなか優秀だった」と本人は自慢しているが真偽は不明。だが狩りや警備などの知識はとても高く今では村の狩猟団のリーダーで警備主任でもある。その合間に子供達に狩りの仕方や武器の扱い方などを教えて次世代の教育をしている。ちなみに師匠というのは最初に教えていた子供達から言われるようになり本人もまんざらではなかったのでそれ以降師匠と呼ばせるようにしている。
「お、ハジメじゃん!」
「あ、ほんとだー。」
ハジメの姿に気づいて子供たちが近づいてくる。
「おはよヒルナンにヒルダ。レットンさんにトナイにエルレアもおはよう。」
「よう、ハジメ。」
「おはよう、今日から一緒なんだね。」
「おはよう、ハジメ。」
最初に走ってきた2人はヒルナンとヒルダ。2人ともモルヒラの子供でヒルエの弟と妹。ヒルナンはハジメと同い年。短髪で体格も良くわんぱく小僧がピッタリ合う子供だった。村の子供の中でも一番ハジメと仲が良かった。ヒルダは1つ下でヒルエに似ておっとりした感じがある。ちなみにヒルダは見学しているだけで参加はしてない。運動が得意ではないらしく暇だから見に来ているだけだった。レットンは11歳で竜人族と人間族のハーフ。顔は人間だが体に鱗で覆われている箇所がいくつかある。この道場では先輩のお兄さんとして子供達の練習相手や簡単な指導もしている。トナイは人間族の子供でハジメの1つ上。ハジメやヒルナンより少し背が高く、落ち着いた性格で子供達の中ではリーダー的な役割をすることが多い。エルレアはエルフ族の女の子で5歳。あまり感情を表に出さないが微妙な表情の変化をハジメ達は理解している。
道場に通う理由はそれぞれで、ヒルナンは戦えるのがカッコイイから。レットンとトナイは親が狩猟団に入っていて自分達も入りたいと考えているから。エルレアは薬草などいろいろな素材を収集したいからだったりする。
「ふっふっふ、オレの必殺技の餌食にしてやるぜ!」
「道場入って半年で必殺技覚えられるのか?」
半年前に道場に入ったはずのヒルナンの発言に疑問を持つハジメ。そんなハジメにヒルナンは自信満々で答える。
「去年オレが編み出した!」
「うわ、道場関係ねぇ!」
「おいおいヒルナン、ハジメが来たからってはしゃぎ過ぎるなよまた師匠に怒られるぞ。」
「ぐ、気を付ける。」
「まぁ怒られたら笑ってやるから安心しろ。」
「なんだとこのやろうっ!!」
ヒルナンがハジメに掴み掛るのをレットンとトナイが苦笑しながら止める。いつものやりとりなのでヒルダもエルレアも笑って見ていた。ちなみにハジメが丁寧な言葉使いをするのは両親や目上の人くらいなもので普段は軽い口調に変わる。礼儀作法を教えたラウもそこまで徹底しなかった。ラウから話し方を教わりだした頃は世界中こんな馬鹿丁寧な喋り方をしなければいけないのかとゲンナリしていたハジメだったがラウの使っていた教材が『貴族の世界のマナー 子供編』という本だと知り説得して普通に喋るようになった。両親に対しては今更変えられないのと目上の人に敬語は当然なのは前世からのハジメの性分である。5歳でそれができるのは珍しかったりするのだが。
「それじゃハジメ、がんばるんだぞ。」
「はい。」
「任せておいてください!村一番の男にして見せますよ!」
自信満々なドルガンを見て笑いながらオルタスはその場を離れていった。
「よーし、それじゃみんな集合・・・ってもう集まってるか。知ってのとおり今日からハジメも一緒に鍛錬を行う。道場の中ではみんな平等!村長の息子ってのも関係なしだ!。」
「「「はい!」」」
「元々気にしたことないし大丈夫だって。」
「お前はもうちょっと気にしてもいいんだぞ?」
「誰が気にするかぁっ!」
みんなが返事する中またいつものやり取りが始まり結局道場入門直後2人して怒られるのであった。
「・・・・とにかく、まずお前らは基礎体力を付けるとこからだ。体力こそがすべての土台だからな!」
この日から体力を付けるべく筋力トレーニングや走ることをメインにやることとなった。遊ぶのを踏まえつつだったのでそれほど苦になる事もなかった。
[カッコイイ村長No.1のオルタスが教えるステキな魔法教室](命名オルタス)
「さ、というわけで今日はオレと魔法の勉強だ!」
「よろしくおねがいします父上。」
ここはハジメ達の住む家の庭。庭の大きさは広く、テニスコートくらいの大きさはある。「必要ならもっと大きくもできるのだけどね。」とオルタスは森を指さしていたが今のところ十分な広さだった。
「ああ、よろしく!さて、とにもかくにもまずは魔力のコントロールからだね。それができないと先に進めないので早速やっていくことにしよう。まず手を前に出した掌に魔力を貯める感じで集中する。そうすると掌にこんな感じでモヤっとした塊が出てくる。これが魔力だね。まずここまでやってみよう。」
「はい、わかりました。」
オルタスと同じように手を前に出し掌に集中する。すると体の中を何かがゆっくり巡っている感じがした。その何かを手に集めるイメージで集中を続けると掌に薄ら魔力がにじみ出てきた。
「お、さすがオレの息子!呑み込みが早いね!!さぁ、この状態で鏡を見てごらん。」
そう言うとオルタスはいつの間に持っていたのか手鏡をハジメに向ける。覗き込むと黒かった眼が薄らと紫色に輝いていた。注意してみないと気付かないほどだがその変化にハジメは改めて自分が魔人なのだと実感した。
「では、次は他の部分に魔力を集めてみよう。やり方は一緒だからね。」
言われた通り集中する場所を変えればそこに魔力が溜まって靄のようなものが出てきた。頭から靄が出した時はカッコ悪いなと思ったが練習なので我慢した。オルタスはそれを見て「オレもこんな感じだった。やっぱ面白いなこれ。」と笑い出したので人前でやるのはやめようとハジメは思った。
「さて、コントロールは日々練習すればもっと早く正確にできるようになるから練習あるのみだね。」
「父上に比べたら出ている魔力が少ないのですがこれも増えるのでしょうか?」
「あぁそれはね。単純にハジメが子供だからだよ。成長に合わせて使用できる量も所持する魔力の上限も増えていくだろうね。」
「よし次は。」とオルタスは2つの石を取り出した。野球ボールくらいのゴツゴツしたただの石のようだが2つは色が違った。
「これは魔力検石と言ってね。自分の消費する魔力の最大量と所持する魔力がどのくらい減ってるかを調べられる石なんだ。これで目安を立てることで魔力切れを防げるってわけだね。あくまで目安だけど。こっちの白い石の方が消費量を測れて、黒い石の方が所持する量の減り具合を見れるんだ。まぁ試しにやってみるね。」
両手に石を持つとオルタスは白い石の方に魔力を込める。そうすると白い石は電球のような輝きを放ち出す。
「こんな感じで込められた魔力の大きさに合わせて輝きが変わるわけだね。それでこちらの黒い石を見てごらん。」
黒い石の方を見ると若干色が薄くなっていた。
「こちらは魔力が減るのを感知すると色が薄くなるんだ。持ってる人の魔力が0になれば真っ白になる。まぁそうなると魔力切れで倒れちゃうから本人は確認しようがないけどね。ちなみに魔力切れになると場合によっては命に係わるから気を付けてね。」
そう言ってオルタスは「ハッハッハ」と笑う。命がけだったりするのかこの検査とハジメは少し緊張した。
「まぁ消費する最大量が所持する量を上回るなんてないから大丈夫さ。魔力切れになりかかればすぐ自分で気付くしね。」
オルタスは石をハジメに渡す。ハジメは緊張した面持ちでそれぞれの石を手に持ち白い石の方に魔力を込める。白い石がじわりと輝くのを確認できた。それを確認した後黒い石の方も見てみる。だが黒い石はまったく変化していなかった。それにはオルタスも真剣な顔になる。ハジメは問題が起きたのかと変な汗が出てきた。
「これは・・・・どういうことだ。まったく減ってないのか?」
「減ってない?」
「うーん・・・。ハジメもうちょっと続けてみて。危なくなったら止めるからね。」
「はい、わかりました。」
それから30分ほど続けたが黒い石はまったく変化がなかった。それを見ながらずっと考えていたオルタスが口を開く。
「ふむ、やっぱり減ってない。消費量より回復量が上回ってる、かな。」
「回復量ですか?」
「うん、普通は魔力の回復には時間がかかるんだ。0に近い状態で全快まで回復するならオレでも半日近く休まなきゃいけないくらいにね。ハジメの場合はたぶん常に回復し続けてるんじゃないかな。どのくらいの回復量かはわからないけど今のハジメの消費量では減ることがないってくらいだろうね。」
「珍しい事・・・なのですかね?」
「ん~珍しいというか初めて見たよ。300年生きてきたけど初めてだ。」
自分が規格外だと知り困惑するハジメを見てオルタスは安心させるように笑顔でハジメの頭を撫でる。
「まぁ魔力切れの不安が無くなったってだけさ。ちょっとラッキーくらいに考えておけばいいよ。」
オルタスの笑顔を見てハジメの顔にも笑顔が浮かんだ。それを見てオルタスは思い出したように注意点を教える。
「そうそう、魔力切れの不安がないからと言って魔法が使い続けられるわけじゃないからね。集中力や平常心、色々な要素も魔法には必要だからその辺も鍛えていかないとね。」
「はい!」
「よし、いい返事だ!」
その日の晩オルタスが話したことでハジメの能力をクラウやラウも知る事になった。どんな反応するのか不安だったが2人とも驚いていたのは最初だけで「さすがハジメ(坊ちゃん)。」で納得した。楽観的な家族だなと思ったがそんな家族の反応が嬉しかった。
話が思ったより長くなりそうだったので2つに分けました。ハジメの能力は魔力高速回復みたいな感じですかね。チートなのかな・・・地味ですね。
後半も早めに作れるよう頑張ります。




